「キンタマン (4)」 神林克樹
第24回(平成23年)大伴昌司賞 佳作奨励賞受賞作



○ 街の遠景(夜)
  満月。
   
○ 路地裏(夜) 
  森閑としている。
 
○ 廃屋(夜) 
 

食事中の下呂蝮銀之丞(40)、沢尻紀香(35)と北島与作(30)。

下呂蝮  「ところで今度の仕事だが」
沢尻  「待ってました」
下呂蝮  「蟻地獄美術館を狙う」
沢尻・北島  「!」
沢尻  「蟻地獄……ってことは」
下呂蝮  「『処女の乳房』をいただく」
  沢尻、ヒューッと口笛を吹く。
北島、じっと下呂蝮を見つめている。
下呂蝮  「何だ」
北島  「お言葉ですが……」
下呂蝮  「言いたいことははっきり言え」
北島  「蟻地獄美術館といえば、あのキンタマンの街ですよ」
下呂蝮 

「だから?」

北島  「やめたほうがいいかと」
下呂蝮  「(沢尻に)どう思う?」
沢尻 

「噂じゃキンタマンってポコチンのことで悩んでるって話だから、そこ攻めればどうとでもなるんじゃない?」

下呂蝮  「そういうわけだ」
北島  「ですが……」
下呂蝮  「俺の決定に逆らうなら」
  と拳銃を出して撃鉄を起こす。
北島  「すいません」
下呂蝮  「(沢尻に)慰めてやれ」
沢尻  「えー何で」
下呂蝮  「おまえに惚れてる」
  沢尻、爆笑。
下呂蝮、沢尻にキスをして北島に見せつけ、爆笑する。
北島  「……」
 
○ 警察署・廊下   
  職員が息せき切って走る。
 
○ 同・署長室 
  職員が入ってくる。
パターの練習をしていた川路が、
川路  「こら、ノックは」
  職員、一枚の紙を差し出す。
川路、受け取って見て、
川路  「犯行予告?」
  と読み進めるうち、みるみる顔が青ざめ、
川路  「下呂蝮銀之丞!」
 
○ 市役所・外観 
   
○ 同・市長室 
  嘉門(60)と川路が相対している。
嘉門、下呂蝮の犯行予告を読み、
嘉門  「下呂蝮といえば、5年ぐらい前からやったっけ?」
川路  「指名手配ですか?」
嘉門  「うん、インターポールの」
川路  「もう10年になります」
嘉門  「そんなになるか」
川路  「どないしましょ」
嘉門  「どないもこないも、わしらにはキンタマンがおるやないか」
川路  「あ、そうでしたそうでした!」
嘉門  「警察の責任者がそんなこっちゃ困るな、君ぃ」
  と笑いあう。
嘉門  「どんな絵やったっけ」
川路  「『処女の乳房』ですか?」
 

とポストカードを出して見せる。
まだあどけない少女が裸になって胸を隠している場面を淡い筆致で描いた絵画。
嘉門、じっと見入る。
川路も嘉門の隣に座り直して、見入る。
二人、鼻息が荒くなってきて、同時に立ち上がる。

川路  「……市長、どちらへ?」
嘉門  「君こそどこへ」
川路  「ちょっとトイレに」
嘉門  「……」
川路  「……」
  二人、同時にダッシュ!
 
○ 公園 
  友香里が自転車にまたがり、
友香里  「ちゃんともっててね」
  と後部を押さえている金太を振り返って、
友香里  「あ……」
  表の道を通る亜衣。
友香里と目が合う。
亜衣、フンと目を逸らし、去っていく。
友香里、その背中を見送る。
金太  「あんなに仲よかったのにな」
友香里  「……」
金太  「よかったら仲とりもったろか?」
友香里  「いい、別に……さ、行くよ」
  発進するが、まだユラユラとしか走れない。
金太  「グォッ!」
 

友香里のワンピースにパンツのラインがくっきり浮かび上がっている。
思わず股間を押さえる金太。
こける友香里。
金太、股間を覗く。
つんつるてん。

友香里  「ちょっと!」
金太 

「あ……ごめんごめん(と今度は前に回り)ここ押さえといたほうがええ思うわ」

  とハンドルを握る。
友香里、漕ぐ。
金太  「そうそう、その調子……アガッ!」
  友香里の胸元が見えそうで見えない絶妙のアングルなのだ。
金太、また股間を押さえる。
友香里  「(こけて)もう!」
  金太、その場にうずくまる。
友香里  「どうしたの?」
  金太、ため息をつくばかり。
 
○ 同・表の道 
  その様子を見ていた玉雄が踵を返して立ち去る。
その足もと、草陰に人影。
慶子が、友香里と金太を睨むように見つめている。
   
○ 公園 
  友香里が金太の背中を撫でながら、
友香里 

「下呂蝮一味、絶対捕まえちゃってよね。大丈夫。キンタマンならできる!」

金太  「そうやなくって……」
 

その後頭部に紙飛行機が当たる。
金太、拾って開き、友香里と一緒に読む。
その文面――

  『おまえが正義のヒーローなんかじゃないってことを俺は知っている。これ以上、世間を騙し続けるなら、すべてマスコミにぶちまけてやる』
友香里  「何これ」
  二人、周りを見回すが、人影はまったくない。
金太  「……」
 
○ マンション・屋上(夕) 
  金太が南野と織田に脅迫状を見せ、
金太  「おまえらのうちのどっちかやろ」
  二人、「何々」と読む。
織田 

「へえ、そうなん? おまえヒーローとちゃうん? やっぱなぁ、俺と同じただのエロキチやったもんなぁ」

金太 

「わざとらしいんじゃボケ! 俺がヒーローになってもぉたもんやから嫉妬しとんやろ!」

織田  「アホ! 誰がチンチンない奴なんかに嫉妬するか」
  金太、つかみかかる。
織田  「助けてぇ!」
南田  「待て待て(割って入る)」
金太  「そうか、おまえか。友香里のことで嫉妬しとんやな」
南田  「そうや」
織田  「マジ?」
金太  「やっぱおまえか!」
南田 

「アホ。嫉妬しとんがほんまやっちゅう話や(脅迫状を掲げて)誰がこんなもん書くか」 

織田  「なぁんや」
金太  「嘘つけ!」
南田  「そもそも何で俺らやと思ったんや?」
金太  「だって、ここ、ほれ」
  と『俺』の文字を指す。
南野  「俺と書いてあるからって男とはかぎらへんで」
織田 

「そや。何やかんや言うても友達の俺らがそんな真似するわけないやろ?」

金太  「……」
 
○ 観覧車(夕) 
  金太が穂波と皆美をむりやり乗せる。
皆美  「ちょっと何なん!」
穂波  「やらしいことでもしようって思ってんねんで」
金太  「やらしいことなんかもうできんわ!」
  穂波と皆美、爆笑。
穂波 

「どうせこんなとこ来るんやったら、あんなことも、こんなことも、してほしかったなあ?」

皆美  「なあ?」
金太  「おまえら、正義のヒーローを怒らしたら恐いでぇ」
皆美 

「ハン! どうせあたしら、あんたのことヒーローやなんて思ってないから」

金太  「飛んで火にいる夏の虫」
穂波・皆美  「……」
  金太、脅迫状を見せる。
金太  「おまえらやろ」
穂波  「ちゃうわ」
金太  「いま俺のことヒーローなんて思ってないって言うたなぁ?」
皆美  「言うたけど、こんなもん書いてへん」
穂波  「だいたい、ここに『俺』って書いてあるやん」
金太  「そやからいうて男とはかぎらんやろ」
穂波・皆美  「……確かに」
金太  「正直に白状せえ」
穂波 

「でもこの『すべてをマスコミにぶちまける』って何なん。あたしらマスコミに売るもんなんかないで」

金太  「信用できん」
穂波  「ないもんはない」
金太  「証拠見せろ」
皆美  「何が証拠や」
穂波  「チンチンない奴が偉そうに!」
金太  「!」
  そのとき、キンタベルが鳴る。
 
○ 蟻地獄美術館(夜) 
  非常ベルの音が鳴っている。
   
○ 同・展示室(夜) 
  銃を構えた機動隊と下呂蝮一味との戦い。
沢尻がロープにつかまり、ターザンの要領で下りてくる。
反対側から同じ要領で北島が揺れている。
川路  「撃て!」
 

機動隊、射撃。
沢尻と北島、刀剣で一発一発弾き返していく。
そのなかを下呂蝮が悠然と登場。
『処女の乳房』の前で立ち止まる。
機動隊と沢尻、北島との戦いが続くが、機動隊はまったく歯が立たない。
逆に沢尻が鞭で機動隊員を一人ずつ倒していく。
下呂蝮、『処女の乳房』を取り外し、口笛を鳴らす。
沢尻と北島、ロープから下りて、下呂蝮とともに逃げる。

川路  「撃て! 撃て!」
 

機動隊、いっせいに射撃するが、下呂蝮たちの逃げ足のほうが速く、階上へ上がっていく。 

川路  「よし! 一網打尽や!」
 
○ 同・表(夜) 
  やきもきしている嘉門とその部下たち。
そこへ走ってくる金太。
嘉門  「あ、キンタマン、早よ早よ! 下呂蝮や!」
金太  「え、明日のはずじゃ」 
嘉門  「まんまと罠にはまってもぉたんや、警察のアホどもが!」
 
○ 同・階段A(夜) 
  駆け上がっていく下呂蝮たち。
 
○ 同・階段B(夜)   
  機動隊が駆け上がる。
金太の声  「のいてのいてぇ!」
  と金太が押し退けて上がっていく。
機動隊  「(いっせいに)正義のヒーロー、キンタマン!」
 
○ 同・最上階(夜)   
  北島が刀剣でノブを叩き斬る。
沢尻がドアを蹴破る。
金太の声  「そこまでや!」
  と駆け上がってくる。
下呂蝮、『処女の乳房』を見せる。
金太、サッと自分の目を隠し、そのままタックル!
下呂蝮  「グアッ!」
  金太、下呂蝮を取り押さえ、沢尻と北島に、
金太  「ボスがどうなってもええんか!」
  沢尻の手が北島の手を取る。
北島、逡巡。
金太、爆笑して、
金太  「正義のヒーロー、キンタ――」
  ×    ×    ×
 

フラッシュ――
『おまえが正義のヒーローなんかじゃないってことを俺は知っている』

  ×    ×    ×
 

ハッとなる金太。
その隙をついて下呂蝮が金太を跳ね飛ばし、沢尻、北島とともに屋上へ出る。

 
○ 同・屋上(夜) 
  熱気球がある。
すでに火が炊かれ、気球は大きく膨らんでいる。
下呂蝮一味がゴンドラに乗り込む。
金太が走ってくる。
 
○ 蟻地獄美術館・屋上(夜) 
  北島が柵に繋いであった縄を切る。
飛び立つ熱気球。
金太、力いっぱいジャンプ!
しかし、手がゴンドラに届きそうで届かない。 
 
○ 地上(夜) 
  金太が落ちてくる。
下呂蝮の高笑いが響く。
嘉門とその部下たちがやってくる。
嘉門  「くそ!」
  と天高く舞い上がった熱気球を見上げる。
金太、うなだれている。
屋上から川路か、
川路  「キンタマン!」
嘉門  「キンタマン、大丈夫か」
  金太、うつ伏せのまま……
 
○ 路地裏の廃屋(夜) 
  下呂蝮たちがワインで乾杯。
下呂蝮 

「キンタマンキンタマンって騒いでるからどんな奴かと思ってたが、ぜんぜん骨がなかったな」 

沢尻  「しょせんはただの高校生ってこと」
  壁に飾ってある『処女の乳房』。
沢尻  「あー、あたしも処女に戻りたいなー」
下呂蝮  「戻してやるよ。実はこないだシリコン入れてきたんだ」
沢尻  「あたしのために? うれしい!」
  と抱きついて、また濃厚なキス。
北島、黙ってワインを飲む。 
下呂蝮  「ところで、おまえら」
沢尻  「何?」
下呂蝮  「……いや、いい」
 
○ 新聞記事 
  『キンタマン、下呂蝮一味を取り逃がす』
 
○ テレビ画面 
  街角インタビュー。
市民1 

「ウソ! キンタマンって飛ばれへんのですか? 正義のヒーローやから当然飛べるんやと思ってました。残念やねぇ」

市民2  「飛ばれへんヒーローはヒーローとは言えんよね」
市民3 

「期待してたウチらがバカやったってことですよ。いくらサイボーグやからって、中身はまだ高2でしょ?」 

 
○ 又野家・洗面所(夜) 
  風呂上がりの玉雄に金太が土下座する。
金太  「お願いします。飛べる装置を着けてください」
玉雄  「……」
金太 

「お願いします。いままでのご無礼の数々につきましては全面的に謝罪いたします。どうも申し訳ありませんでした」 

玉雄  「悪いけど、あかんねん」
金太  「何で」
玉雄  「何ででもや」
金太 

「何でやねん! 人をこんな体にしといて、ちょっとしたお願いも聞いてくれんのか! それとも何か? 自分の息子が叩かれても親父は平気なんか!」

玉雄 

「そりゃ父親としておまえの願いを聞いてやりたい気持ちはやまやまや」

金太  「ほいじゃ――」
玉雄  「でもな、お父さん、いま他の研究に忙しいんや」
金太  「何、他の研究って」
玉雄  「内緒や」
金太 

「嘘つけ! そんなこと言うて実は何にもしてないんやろ! どこぞの女買ってやりまくってんねやろ!」

  玉雄、悠然と目をつむり、
玉雄  「おまえの喜ぶ顔が目に浮かぶわ」 
金太  「……」
 
○ 朝日 
 
○ 又野家・金太の部屋 
  友香里、南野と織田が、ふて寝している金太を囲んでいる。
南野 

「俺たちはおまえをほんまもんのヒーローや思ってるぞ。いままで何人悪い奴捕まえたんや」

織田  「そうや。逃がしたのは一人だけやないか」
金太  「三人」
織田  「え?」
金太  「逃がしたのは三人や」
友香里  「そんな、織田君が言ったのは一回だけって意味だよ」 
金太  「どうでもええ」
織田  「(友香里に)乳でも揉ましたりぃな」
金太 

「マジぃ!(と跳ね起きるが、すぐにうなだれて)何でそういうこと言うねん」

  南野、織田の頭を叩き、
南野  「お父さんに頼んでもあかんの」
金太  「捨てられた、俺」 
南野  「捨てられたって?」
織田  「お父さんにか?」
金太 

「俺をこんな体にしておきながら肝心なときに逃げるんや、あいつは!」

  友香里が金太を起こして、ガツンと殴る。
友香里  「!」
  あまりの痛みに顔が歪むが、必死で平静を装い、 
友香里 

「こんな体にされたって言ってるけど、それで助かったんでしょ? 命助けてもらってその態度は何? ありがとうの一言ぐらい言ったらどう? あー情けない。これじゃほんとに正義のヒーローなんかじゃないね」

金太  「助けてなんかほしなかった」
  友香里、またカッとなって殴る。
友香里  「!」
  また痛みに顔が歪む。
表からの声が聞こえてくる。
  「なぜ飛ぶ装置をあらかじめ着けてやらなかったんですか?」
  金太、起き上がって、カーテンの隙間から外を覗く。
他のみんなも覗く。
玉雄にマスコミが殺到している。
玉雄  「私はただあいつに生き返ってほしかっただけなんです」
 

「それじゃ、何であんな精巧なボディを作ったんですか」

「生き返らせるだけなら必要ないやないですか、腕力も何もかも」
 
○ 同・門前 
  玉雄が狼狽しながら答える。
玉雄 

「いや、しかし、せっかく生き返らせるんやったら、それなりの――」

 

「だからそれならなぜ飛ぶ装置も着けてやらんかったんかと訊いとんですけどね」

  「それにキンタマンはアッチのほうでも悩んでるとかってもっぱらの噂ですが、それだってあなたなら作れるはずでしょ」 
玉雄 

「それは確かにそうですけど、完全に研究が終わる前に事故に遭ったんで……」

  「じゃキンタマンは不完全サイボーグってことなんですか?」
  「そう受け取ってよろしいんですね!」
 
○ 同・金太の部屋   
  覗いている金太。
玉雄が慌てて言い返す。
玉雄  「違います! 不完全なのはあいつやない。この私です」
金太  「……」
  さらに玉雄に詰め寄るレポーター。
 

「しかし、そのあなたが彼を作ったんですから、結果的にキンタマンが不完全ということになるんやないんですか?」

   
○ 同・門前 
  玉雄、逆上して、
玉雄  「屁理屈ばっかりこねやがって!」
  フラッシュが炊かれる。
玉雄、カメラマンに殴りかかろうとする。
その手を止める金太の手。
玉雄  「……」
金太  「みなさんに大事なお話があります」
  フラッシュがいっせいに炊かれる。
玄関から友香里たちが見ている。
金太 

「僕、キンタマンこと又野金太は、今日かぎりでヒーローをやめます」

  笑いが起こる。
 

「ヒーローをやめるってね、ヒーローかどうかは私たちが決めることですよ」

  「そのへんが子供なんやな」
金太 

「とにかく、もう警察に協力することはありません。どうせ飛ぶこともできんハンパもんですから」

  とキンタベルを握り潰す。
  「じゃあこの記事に書いてあることは真実なんですね?」
  と新聞記事を見せられる。
『キンタマン、やはり正義のヒーローにあらず?』の見出し。
 

「あなたが名を上げるきっかけとなった露出狂撃退事件において新証言が出たんですよ(と読む)露出狂の性器を見て『自慢か! でっかいチンチンを見せびらかす奴は人類の敵やぁ!』との言葉を発し――」

金太  「!」
  金太、大群をかき分けて行こうとする。
  「逃げるんですか!」
  「ほんとなんですか?」
  「説明責任を果たせ!」
  金太、強引に押し退けて走り去っていく。
  「この大嘘つきが!」
   
○ コンビニ・表 
 

木陰の車止めに慶子が腰掛けて、アイスキャンディーを食べている。
眼前の木からガサガサッと音がする。

慶子  「?」
  枝に足を引っかけた金太が、逆さまに顔を見せる。
慶子  「!」
   
○ 電柱 
  てっぺんに慶子。
一番上の足場に立っている金太が体を支えている。
金太  「早よ白状せんと落ちるよぉ」
慶子  「だからほんまにあたしやないって!」
金太  「どうかなぁ」
慶子  「ほんま!」
  金太、落とそうとして、また抱きかかえる。
慶子、悲鳴。
金太 

「俺があの露出狂に自慢か云々って言ったん知ってんのおまえだけやんけ。ほらほら、早よ白状せんと」

  と、また揺らす。
慶子  「実は、あの子に言うたんよ」
金太  「あ?」
慶子  「あの子やわ、きっと、犯人」 
金太  「誰や、誰! 誰!」
  と揺り動かす。
慶子、小便を漏らす。
金太  「おいおい!」
 
○ ある一軒家・外観 
   
○ 同・亜衣の部屋 
  亜衣がテレビゲームをやっている。
ノックの音がして、
母親の声  「亜衣、いいかげんにしなさい」
  亜衣、無視して続ける。
母親の声  「亜衣!」
亜衣  「はいはい」 
  と電源を切る。
ケータイが鳴る。
友香里からのメール。
『話したいことがあるんだけど』
とある。
亜衣  「……」
 
○ 公園(夕) 
  友香里と亜衣がベンチに座っている。
友香里  「……」
亜衣  「……」
  無言が続く。
亜衣  「……帰ろ(立つ)」
友香里  「何で脅迫状なんか書いたの」
亜衣  「……」
  友香里、亜衣にビンタ。 
亜衣  「……」
  亜衣、泣けてくる。
大泣きになる。
友香里、亜衣を抱きしめようとする。
亜衣、嫌がるが、友香里はしっかり抱きしめる。
亜衣も友香里を抱きしめる。
ザ、と足音。
慶子が木の陰に立っている。
友香里、手招き。
慶子、走ってやってきて、三人はひしと抱きしめあう。
 
○ 公園(夜) 
  金太が友香里に自転車指導中。
友香里  「ありがとね」
金太  「何が?」
友香里  「またまたぁ。あの二人と仲直りさせてくれたってこと」
金太  「何の話?」
友香里 

「何気にやさしいって金太君みたいな人を言うんだろね、きっと……あ!(こける)もう、いつになったら……」

金太 

「(助け起こして)ある日、急に乗れるようになるんやで。俺もそうやった」

友香里  「へえ、そういうもん?」 
  金太、友香里を自転車ごと思いきり押して、
金太  「行けぇ!」
友香里  「え、え、え、ちょ、ちょっとぉ!」
  それでもこけずに走る。
友香里  「乗れたぁ!」
金太  「ヨッシャ!」 
  友香里、そのままベンチに激突!
吹っ飛んで大木にぶち当たる……
 


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