○ 公園(夕) |
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友香里が自転車を押して歩いて入ってくる。
グラウンドの端に停めて、その傍らに腰を下ろす。 |
友香里 |
「?」 |
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向かいに慶子が座ってこちらを見ている。
友香里、会釈。
慶子、立ち上がって、行こうとする。 |
友香里 |
「待って!」 |
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と追いかけて、慶子の腕をつかむ。
慶子、強引に放そうとするが、友香里の力が強いのであきらめ、 |
慶子 |
「何」 |
友香里 |
「え?」 |
慶子 |
「何の用」 |
友香里 |
「ていうか、その……」 |
慶子 |
「ええよね、かわいい子って。遠いとこから引っ越してきてもぜんぜんいじめられへんのやもん」 |
友香里 |
「あ、いや、その……ごめんね」 |
慶子 |
「何で謝んの」 |
友香里 |
「……」 |
慶子 |
「何も悪いことしてないのに謝られたら気分悪いわ! それとも何? これって新しいイジメか何か?」 |
友香里 |
「ごめんなさい」 |
慶子 |
「だから!」 |
友香里 |
「違うの。あたし、卑怯者なの」 |
慶子 |
「……」 |
友香里 |
「いっつもイジメられてるあなたを見ててね、助けてあげたいなって思うんだけど、助けたら今度はあたしがイジメられそうで」 |
慶子 |
「……」 |
友香里 |
「それで……」 |
|
慶子、泣き出す。 |
友香里 |
「どうしたの? 大丈夫?」 |
慶子 |
「うれしい! めっちゃうれしい!」 |
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友香里、背中をさすってやる。 |
慶子 |
「ありがとう」 |
友香里 |
「ところでさ、自転車乗れる?」 |
慶子 |
「?」 |
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× × × |
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友香里が自転車を漕ぐ。
慶子が揺れる後部を押さえて一緒に走る。
友香里、バランスを崩して、こける。
慶子も一緒にこける。 |
友香里 |
「ごめん」 |
慶子 |
「やっぱりさ、まずは補助輪――」 |
友香里 |
「イヤ! そんなの付けたくないってさっきから何回も言ってるでしょ?」 |
慶子 |
「じゃあ自分ちの庭でしぃな。どんくさすぎて、ほんまに……(口に手を当て)あ、ごめんなさい」 |
友香里 |
「いいよ、別に。もう今日は遅いから帰る?」 |
慶子 |
「うん」 |
友香里 |
「また教えてね」 |
慶子 |
「え……(泣き出し)めっちゃうれしい! 2回もあたしと遊んでくれる人、初めてやぁ」 |
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友香里、笑んで背中をさすってやり、 |
友香里 |
「ね? また教えてね」 |
慶子 |
「神野さんはええん?」 |
友香里 |
「亜衣ちゃん? どうして?」 |
慶子 |
「ていうか……」 |
友香里 |
「あの子とは絶交したの」 |
慶子 |
「何で?」 |
友香里 |
「……」 |
慶子 |
「あ、ごめん、もう聞かないから」 |
|
友香里、笑む。
慶子も安堵の笑み。 |
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○ 又野家・金太の部屋(夕) |
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ベッドでうずくまっている金太。
仰向けになり、ボールを投げては受け、投げては受けする。 |
金太 |
「……」 |
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じっと考える。 |
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○ 同・居間(夕) |
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玉雄がビールを飲みながら、野球観戦している。
金太が入ってくる。 |
玉雄 |
「おう」 |
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金太、黙って冷蔵庫を開け、ドリンクを取り出して、飲む。 |
玉雄 |
「まぁ、座れや」 |
|
と隣の席を引く。 |
金太 |
「ちょっと出てくるわ」 |
玉雄 |
「出てくるってどこにや」 |
金太 |
「ちょっと、その辺」 |
玉雄 |
「人に見られたらどないすんねん」 |
金太 |
「とっくに見られとるわい」 |
玉雄 |
「……そらそやけど……」 |
金太 |
「じゃあ引きこもれって言うんかい」 |
玉雄 |
「……」 |
金太 |
「引きこもらすために生き返らせたんかい」 |
玉雄 |
「……」 |
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○ 公園・表の道(夕) |
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友香里と慶子が手を振って別れる。
友香里、自転車を押して歩いていく。 |
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○ 又野家・玄関の中(夕) |
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玉雄が金太を見送る。 |
玉雄 |
「気ぃつけてな。何かあったらすぐ帰ってこいよ」 |
金太 |
「はいはい」 |
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○ 又野家・玄関の外(夕) |
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金太がソーッとドアを開け、出てくる。 |
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○ 同・門前(夕) |
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金太、門を開け、左右を見渡し、外に出る。 |
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○ 道A(夕) |
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慶子が歩く。
その肩を叩く手。
慶子が振り返ると一人の男が立っている。 |
慶子 |
「?」 |
|
男、パッとスーツの裾を広げる。 |
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○ 道B(夕) |
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|
慶子の叫び声が響いてくる。
ハッとなる友香里。 |
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○ 道C(夕) |
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|
金太も反応する。 |
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○ 道B(夕) |
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|
友香里、自転車を投げ捨てて駆け出し、ケータイで電話する。 |
友香里 |
「あ、もしもし、警察ですか?」 |
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|
○ 道C(夕) |
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|
金太も走る。 |
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○ 道A(夕) |
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露出狂、慶子ににじり寄る。 |
露出狂 |
「どうや、僕のおチンチン大きいやろ? 素敵やろ?」 |
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慶子、こけて泣きじゃくる。
露出狂、その頭を引っつかんで、 |
露出狂 |
「ほいじゃ、しゃぶれや!」 |
|
その向こう、金太が駆けてくる。
高田の股間を見て、 |
金太 |
「自慢か!」 |
|
と飛び蹴り。
吹っ飛ぶ高田にまたがって、 |
金太 |
「でっかいチンチン見せびらかす奴は人類の敵やぁ!」 |
|
とバキバキ殴る。
そこへやってくる友香里。 |
友香里 |
「金太君?」 |
金太 |
「!」 |
|
ハッとなって手を止める。
露出狂、完全にグロッキー状態。
泣き続けている慶子。 |
友香里 |
「(駆け寄り)大丈夫?」 |
金太 |
「ほな(行きかける)」 |
友香里 |
「待ってよ」 |
金太 |
「こんな姿、見られたないし」 |
友香里 |
「そんなことない。カッコイイじゃん。正義の味方じゃん。ヒーローじゃん!」 |
|
と金太の背中に抱きつき、頬ずりする。 |
金太 |
「……」 |
|
友香里、恥ずかしそうに体を離し、慶子を介抱する。
そこへやってくるパトカー。
下りてくる警官二人、露出狂の股間を見て、 |
警官1 |
「あららぁー(警官2に)頼むわ」 |
|
警官2が高田に手錠をはめてパトカーへ連れていく。
警官1が友香里に、 |
警官1 |
「あれまさか君が? ちゃうよね?」 |
|
友香里、電柱を指差す。
その陰、超合金の腕が見えている。 |
警官1 |
「何、あれ」 |
友香里 |
「正義のヒーローです」 |
警官1 |
「……人間?」 |
友香里 |
「もちろん」 |
警官1 |
「(金太に)おたく、名前は?」 |
金太 |
「……」 |
警官1 |
「名前」 |
友香里 |
「キンタマンです」 |
金太 |
「!?!?」 |
警官1 |
「キンタマ?」 |
友香里 |
キンタマン! 又野金太君のキンタにウルトラマンのマンでキンタマン。出て おいで、キンタマン」 |
|
金太、おずおずと出てくる。
警官1、超合金ボディを見て、絶句。 |
金太 |
「お、お、俺の名前は、キンタマン……正義のヒーローや!」 |
|
と仁王立ちして手を突き上げる。
手を叩いて喜ぶ友香里。
呆気に取られる警官1。
その様子を慶子がじっと見ていた。 |
|
|
○ 又野家・居間(夜) |
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玉雄がアダルトDVDを見ている。 |
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○ 住宅街の道(夜) |
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金太が馬鹿笑いしながら突っ走る。 |
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|
○ 又野家・居間(夜) |
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佳境に入った濡れ場に見入る玉雄。
玄関の開く音。 |
金太の声 |
「親父!」 |
|
玉雄、慌ててDVDを止めて、取り出す。
金太が入ってきて、 |
金太 |
「親父、俺は生きるで」 |
玉雄 |
「そうか」 |
金太 |
「ヒーローとして生きていくで!」 |
玉雄 |
「よかったな」 |
|
と、こそこそDVDを片づけようとする。 |
金太 |
「うれしないんかいや。せっかく息子が――」 |
|
玉雄の手にDVDのパッケージ。 |
金太 |
「……」 |
玉雄 |
「……アハ」 |
|
金太、強烈なアッパーカット!
ものすごい音とともに玉雄の姿が消える。
金太、冷蔵庫からドリンクを出して飲み、二階へ上がっていく。
メリメリ、と音がして玉雄が落ちてくる。
天井に大きな人型の穴が開いている。
玉雄、息も絶え絶えに、 |
玉雄 |
「金太、その調子や。お父さんはうれしいで」 |
|
|
○ 朝日 |
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○ 車道A |
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|
老婆を轢いた車がそのまま逃げていく。
そこへ登場した金太、走って追いかける。 |
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|
○ 逃げる車 |
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|
バックミラーにどんどん近づいてくる金太の姿。
ひき逃げ犯、必死でハンドルを切り、アクセルを踏み込む。 |
|
|
○ 車道B |
|
|
金太、逃げる車に追いつき、運転席のガラスを割ってひき逃げ犯を引きずり出す。
そこへ前と後ろ両方から車が走ってくる。
正面衝突!
いや、金太が双方の車を片腕一本ずつで止めていた。
車から下りてきた一般市民が物珍しげに金太を見つめる。 |
金太 |
「正義のヒーロー、キンタマン!」 |
|
|
○ 銀行・表 |
|
|
シャッターが下りている。 |
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|
○ 銀行・中 |
|
|
マシンガンをもった強盗二人が行員や一般客を人質に籠城中。
一触即発の緊張状態。
シャッターが開く。 |
強盗1 |
「誰や!」 |
|
金太、答えず、黙って歩み寄ってくる。 |
強盗2 |
「撃つぞ!」 |
|
金太、かまわず歩み寄ってくる。
二人の強盗、同時に発砲。
金太のボディはすべて跳ね返す。
焦る強盗たち。
金太、二人の頭と頭をぶつけ、気絶させる。 |
金太 |
「正義のヒーロー、キンタマン!」 |
|
|
○ ビル・屋上 |
|
|
柵の外で足を震わせている若者。 |
|
|
○ 同・地上 |
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|
警官隊が防護ネットを広げ始める。
刑事1が拡声器で、 |
刑事1 |
「飛び降りれるもんなら飛び降りてみさらせ、このイジメられっ子のオタクの引きこもり野郎が!」 |
刑事2 |
「(拡声器を奪い)飛び降りた勇気あるあなたに100万円をプレゼント!」 |
|
笑う二人。
そのとき周りから「あ!」と声が上がる。 |
|
|
○ 同・屋上 |
|
|
若者、飛び降りる。 |
|
|
○ 同・地上 |
|
刑事1&2 |
「ゲッ!」 |
|
防護ネット、間に合いそうにない。 |
|
|
○ 空中 |
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|
落ちていく若者、その目から涙。
その隣から金太が落ちてくる。
金太、若者の体を抱きかかえて、足から落ちていく。 |
|
|
○ 地上 |
|
|
金太が足から地面に激突!
粉塵が舞い上がる。
刑事らが駆け寄る。
若者が地面に寝転がっている。 |
刑事1 |
「……大丈夫か」 |
|
若者、ケロッとして立ち上がる。
その下に開いた穴。
金太が万歳した状態で地面にめりこんでいた。 |
刑事1&2 |
「キンタマン!」 |
警官隊 |
「(いっせいに)正義のヒーロー、キンタマン!」 |
金太 |
「……出して」 |
|
|
○ 警察署・署長室 |
|
|
署長の川路(55)が、金太に表彰状を手渡す。
金太、恭しく受け取る。
フラッシュが炊かれる。
川路、今度は小さなベルを手渡し、 |
川路 |
「これをぜひ又野金太さん、いや、キンタマンにもっていていただきたいんです」 |
金太 |
「これは?」 |
川路 |
「名づけて、キンタベルです」 |
金太 |
「キンタベル!」 |
|
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○ 新聞記事 |
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|
『キンタマン、警察から表彰』
|
|
『キンタベルを受け取る』 |
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その横に、金太が川路をお姫さま抱っこしている写真。 |
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○ 又野家・門前 |
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|
マスコミ陣がひしめいている。
買い物袋をさげて帰宅の玉雄に殺到する。
|
|
「ノーベル賞間違いなしと言われていますが、いまのお気持ちをお願いします」 |
玉雄 |
「(にやけながら)ま、ま、そういう仮定の話には、ね」 |
|
「あなたを追い出した大学が戻ってきてほしいと言っているのはご存じですか?」 |
|
玉雄、顔がこわばる。 |
|
「何でも破格の報酬を用意してるとかって話ですが」 |
|
玉雄、一台のカメラを手招きし、尻を突き出して屁を出そうとするが、何も音が出ない。
そのまま固まる玉雄。
笑うマスコミ陣だが、突如、全員バタバタと倒れて気絶してしまう。
高笑いの玉雄。
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