○ 朝日 |
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○ 又野家・表(朝) |
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平屋の一戸建て。 |
金太の声 |
「なぁ、ええか? ええやろ?」 |
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○ 又野家・金太の部屋(朝) |
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ベッドの中の又野金太(17)が、若い女とおぼしき肉体を愛撫しながら、 |
金太 |
「ええんやったらええ言うてぇな」 |
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と女の上に乗り、腰を動かし始める。 |
金太 |
「ええか? なぁ、ええか、アンナ」 |
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どんどん動きが激しくなって絶頂に達し、しばしそのままの姿勢で止まる。
金太が身を離す。
女は上半身だけのマネキンであった。 |
金太 |
「よかったでぇ、アンナ」 |
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と丸めたティッシュを見せる。 |
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○ 同・居間 |
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電子レンジがチンと鳴る。
金太が飯の上にレトルトカレーをかけて、食べながらテレビのワイドショーを見る。
テレビに鈴木アンナ(20)が映る。 |
金太 |
「アンナぁ!」 |
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ヘアヌード写真集発売の宣伝映像。 |
金太 |
「うーわ! ヘアヌード?」 |
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ドドドとものすごい音がして、父親の玉雄(45)が下りてくる。 |
玉雄 |
「金太、ごめん! ご飯は?」 |
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金太、最後の一口を頬張って、空になった皿を指差す。 |
玉雄 |
「朝からこんなもん……お父さんが何か作ってやる。な? な?」 |
金太 |
「(テレビ見ながら)ヘアヌードかぁ」 |
玉雄 |
「すまんなぁ。お父さん、研究がやっと実を結びそうでな、それでここんところ徹夜続きでなぁ」 |
金太 |
「ふーん」 |
玉雄 |
「なあ金太、夏休み、お父さんとどっか行かへんか」 |
金太 |
「何で」 |
玉雄 |
「何でって来年は受験やら何やらあるんやし、伸び伸びできるのは今年が最後や。親子水入らずで――」 |
金太 |
「研究があるんとちゃうん。大事な研究が」 |
玉雄 |
「そやから、いま言うたやろ。もうすぐ実を結びそうなんや。ちゅうかもう結んだも同然なんや。みかんに譬えたらまだまだ緑色の酸っぱいやつやけど」 |
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金太、立ち上がって、足早に出ていく。 |
玉雄 |
「おい」 |
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○ 同・台所 |
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金太が走って通っていく。 |
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○ 同・裏庭 |
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金太が勝手口を開けて出てくる。
庭の中央に、平屋のプレハブ小屋(玉雄の研究室)が建っている。
金太、石を拾ってドアのガラスを割る。
開いた隙間から手を入れて、内側から鍵を開けようとする。 |
玉雄 |
「コラッ!」 |
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とやってきて金太の手を抜く。
金太、玉雄を振り払い、また鍵を開けようとする。
玉雄が止めて、 |
玉雄 |
「どうするつもりや」 |
金太 |
「決まっとるやろ。緑色のみかん潰したるんや」 |
玉雄 |
「何でや」 |
金太 |
「自分が一番よくわかっとんのとちゃうんかい」 |
玉雄 |
「お母さんの死に目に会えんかったんはいまでもほんまに悪かったと思ってる」 |
金太 |
「それだけちゃうやろ。お母さんを殺したやろ!」 |
|
静まり返る。 |
玉雄 |
「……まだ1歳にもならんときに、おまえ死にかけてな、それでお父さん、どうしても――」 |
金太 |
「百万回聞いたわ」 |
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玉雄、その場に土下座する。
じっと見つめた金太、無言で勝手口に入る。 |
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○ 同・玄関 |
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金太が靴を履いて鞄を肩に担ぐ。
玉雄と目が合う。
金太、黙って出ていこうとする。 |
玉雄 |
「行ってきますは」 |
金太 |
「(振り返って)行ってきます」 |
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と頭を下げる。 |
玉雄 |
「行ってらっしゃい」 |
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○ 同・床の間 |
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金太の亡母・智美の遺影。
玉雄がそれを仰ぎ見て合掌。
そして、ため息。 |
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○ 通学路A |
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金太が、石ころ蹴りながら歩いている。
その後頭部にパンチ!
織田裕三(17)がニカッと笑む。
金太も笑んで、連れだって走っていく。 |
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○ 同B |
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走る金太と織田。
前方に畑野穂波(17)と北乃皆美(17)。
金太と織田、二人の肩を叩き、振り返ったところで胸にタッチ。
即座に逃げる金太と織田。 |
穂波 |
「こらスケベ又野!」 |
皆美 |
「何しよんじゃボケ!」 |
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○ 同C |
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河野友香里(17)と神野亜衣(17)が歩いている。 |
亜衣 |
「友香里は夏休み、何するん?」 |
友香里 |
「何で?」 |
亜衣 |
「何でって……あ、大阪弁憶えぇ。もう引っ越してきて一年やろ。いつまでも東京弁ちゅうんはいかがなもんでっしゃろな」 |
友香里 |
「そうなの?」 |
亜衣 |
「そうなの? ハッ! あんた、やっぱりウチらのことバカにしてるやろ」 |
友香里 |
「してないよ」 |
亜衣 |
「してる!」 |
友香里 |
「してないって!」 |
亜衣 |
「じゃ大阪弁憶えぇ。時間はたっぷりあるんやしな」 |
友香里 |
「……」 |
亜衣 |
「イヤなん」 |
友香里 |
「そうじゃなくって(と耳打ち)」 |
亜衣 |
「自転車ぁ?(笑う)」 |
|
その背後、金太と織田が走ってきて、二人の両肩を叩いたところで、金太がギョッとなる。
至近距離で目と目が合った金太と友香里。
一瞬、時間が止まる。 |
金太 |
「スルーや織田!」 |
亜衣 |
「おまえらまたやらしいことするつもりやったやろ!」 |
|
金太と織田、逃走。 |
亜衣 |
「まったく、あいつらほんまに」 |
|
と言ってから「?」となる。
友香里が走り去る金太を見つめている。 |
亜衣 |
「……」 |
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○ 公園 |
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水道の水をガブ飲みする金太と織田。
草の上に寝転んで、 |
織田 |
「やっぱ惚れとんかいな」 |
金太 |
「ん?……なあ、鈴木アンナがヘアヌード出したって知ってる? 何かめちゃくちゃヌケるって話やで」 |
|
織田、ニヤニヤと見つめる。
金太、織田の襟を引っ掴み、 |
金太 |
「おまえ、誰にも言うなよ」 |
織田 |
「やっぱほんまなんや!」 |
金太 |
(さらに締め上げ)特に南野にはな。この意味わかるやろ?」 |
織田 |
「……はい」 |
|
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○ 金太の高校・校門 |
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|
走ってきた金太と織田が、早稲慶子(17)のスカートをめくり上げる。
悲鳴と歓声が湧き起こる。
走り去っていく金太と織田。
泣きそうな慶子に笑い声が浴びせられる。 |
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○ 同・金太の教室 |
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窓辺に友香里と亜衣が立っている。
遠くの席の南野武(17)がじっと友香里を見つめている。
二人、小声で、 |
亜衣 |
「見とんで」 |
友香里 |
「知ってる」 |
亜衣 |
「すごいのに惚れられたやん! 委員長でオール5でイケメンで」 |
友香里 |
「……」 |
|
友香里、南野と目が合うが、すぐそらす。 |
|
× × × |
|
南野に穂波と皆美が詰め寄る。 |
穂波 |
「委員長、あたしらまた又野と織田にやられてんけど」 |
南野 |
「またかいな」 |
穂波 |
「南野君からあいつに言うたってよ」 |
皆美 |
「そうやわ。どうせ南野君の言うことしか聞かへんのやし」 |
|
そこへ慶子が割って入り、 |
慶子 |
「あ、あの、あたし、被害者集団訴訟を起こそうかと考え中です」 |
穂波 |
「一緒にせんといてんか!」 |
|
と突き飛ばす。
そこへ入ってくる金太と織田。 |
金太 |
「グッドモーニング、エブリバディ!」 |
|
シラーッとした空気になる。
睨みつける穂波と皆美。 |
金太 |
「(南野に)おっはよぉー!」 |
|
南野、立ち上がって金太と織田にビンタ。
場が凍りつく。 |
金太 |
「(南野に)ごめんなさい」 |
織田 |
「でした」 |
|
南野、穂波らを顎で指す。
金太と織田、穂波と皆美に頭を下げる。 |
穂波 |
「ま、イケメンの委員長に免じて」 |
皆美 |
「次やったら殺すで、マジで」 |
慶子 |
「あ、あの、あたしには謝罪はないのでしょうか」 |
|
と踏み出した足を穂波が引っ掛けて、慶子は顔面から倒れる。
そこへ担任が入ってくる。
穂波と皆美が駆け寄り、 |
穂波 |
「先生!」 |
皆美 |
「聞いてください」 |
金太 |
「ちょっと待てやおまえら! いま南野にチクったんは何やってん」 |
織田 |
「チクリの時間差攻撃かいや」 |
|
素知らぬ顔の穂波と皆美。 |
担任 |
「(二人に)あとでな(全員に)はい、おはよう。廊下に並べ」 |
|
全員が外へ出始める。倒れたままの慶子を踏んづけながら。
友香里、慶子が気になり、何度も振り返るが、亜衣に手を引かれたので、仕方なく廊下へ出る。 |
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|
○ 同・講堂 |
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|
全校生徒が整列して終業式の真っ最中。
校長が訓辞を垂れている。
大きなあくびをしている金太。 |
金太 |
「!」 |
|
斜め前の穂波の背中に釘付けになる。
汗で黒のブラジャーが露になっている。
金太、周りに気取られないようにケータイで写真を撮ろうとする。
隣席の女子が気づいて、「ヒ」と小声を上げる。
金太、口に鍵のジェスチャーをして、アングルやズームを工夫していく。
校長が「?」と話を止める。
ケータイの明滅する光が見える。
周囲全員が金太に注目。
気づいた金太、笑ってごまかす。 |
|
|
○ 同・校門近く |
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|
金太と南野、織田がドブさらいをやっている。
それぞれの背中に貼り紙がしてある。
金太には『主犯』、織田には『共犯』、南野には『監督責任』。
その前をクラスメイトたちが笑いながら通って帰っていく。 |
穂波 |
「二学期までやっとけ!」 |
皆美 |
「天罰天罰」 |
金太 |
「おまえら、いつか犯してやるから覚悟しとけよ!」 |
|
穂波と皆美、中指を突き出して去っていく。
笑う金太。
友香里と亜衣が通る。
金太、友香里と目が合うが、そらす。
友香里、後ろ髪引かれるが、亜衣に手を引かれたので、去っていく。
南野がその様子を見ていた。 |
|
|
○ 通学路 |
|
|
友香里と亜衣が歩く。 |
亜衣 |
「あんた、もしかしてあのドスケベ又野のこと好きなん?」 |
友香里 |
「そういうんじゃなくて!」 |
亜衣 |
「むきになってる」 |
友香里 |
「ただ……」 |
亜衣 |
「ただ?」 |
友香里 |
「……」 |
亜衣 |
「まさか……愛?」 |
|
クククと笑う。
友香里、うつむく。 |
亜衣 |
「ごめんごめん。冗談」 |
友香里 |
「あの子、ほんとはそんなに悪い子じゃないと思う」 |
亜衣 |
「え……(思わず立ち止まる)」 |
|
歩いていく友香里。 |
亜衣 |
「愛や……」 |
|
|
○ 金太の高校・グラウンド(夕) |
|
|
ドブさらいをやっている三人組。 |
南野 |
又野、おまえ、あいつのことどう思ってんの」 |
金太 |
「……」 |
|
織田、作業を続けながら聞き耳を立てる。 |
南野 |
「なあ」 |
金太 |
「誰、あいつって」 |
南野 |
「河野友香里」 |
金太 |
「……別に何も」 |
南野 |
「ほんまか」 |
金太 |
「おまえはあいつが好きなんかい」 |
南野 |
「好きや」 |
織田 |
「(小声で)言ったぁ」 |
金太 |
「……あっそ」 |
南野 |
「でも、あいつはおまえのことが好きみたいやわ」 |
金太 |
「……何でわかんの」 |
南野 |
「何でって……(大声で)あーもーアホらしいわ! アーッ!」 |
|
と夕日に向かって吼える。 |
金太 |
「(爆笑し)帰るわ」 |
|
とシャベルを放り投げて行きかける。 |
織田 |
「ちょ、ちょ、ちょっとおまえ!」 |
|
南野が金太の前に立ちはだかり、 |
南野 |
「まだ終わってないで」 |
金太 |
「休み明けに殴られたらすむこっちゃ」 |
南野 |
「ええかげんにせえよ。おまえのせいで俺らも――」 |
金太 |
「アホ! 俺一人だけ殴られてやるから安心せぇ」 |
|
と歩き出す。
南野と織田、金太の背中を見つめる。 |
南野 |
「わかったわ、何で河野友香里があいつを好きなんか」 |
織田 |
「……」 |
|
金太、どんどん歩いていく。 |
|
|
○ 又野家・玉雄の研究室(夕) |
|
|
数台のパソコンにさまざまな波形モニター、たくさんの電極とコードや工具類で散らかり放題の室内。
奥のショーケースに、人工ボディがある。
ちょうど金太と同じぐらいの背丈・体格だが、原色で彩られ、さらに光沢を帯びた外観は、いかにも人工ボディといった趣がある。
壁や天井はその設計図らしきもので一面覆われている。
玉雄、机の上で、波形モニターを使って実験をしている。 |
玉雄 |
「もう少しや。もう少しで緑のみかんが黄色く……」 |
|
|
○ 通学路(夕) |
|
|
並んで歩く金太、南野、織田。
誰も何も言わない。
織田が気まずさに耐えきれず愛想笑いなどするが、金太も南野もしかめっ面を崩さない。 |
|
|
○ 又野家・玉雄の研究室(夕) |
|
|
玉雄、伸縮自在の素材でできた特殊な袋を頭にかぶる。
その袋が玉雄の頭の形に合わせて勝手に伸縮し、玉雄の頭蓋部にピタッと貼りつく。
袋から太い一本のコードが例の人工ボディに繋がっている。
玉雄、スイッチボタンを押して目をつむる。
人工ボディの目が光る。 |
|
|
○ 玉雄の脳内映像(夕) |
|
|
人工ボディの見た目。
特殊帽をかぶった玉雄の姿。 |
|
|
○ 玉雄の研究室(夕) |
|
|
玉雄、立ち上がり、人工ボディに近寄る。 |
|
|
○ 玉雄の脳内映像(夕) |
|
|
玉雄が自分自身に近寄っていく感じ。 |
|
|
>○ 玉雄の研究室(夕) |
|
|
玉雄が足を上げる。
人工ボディが足を上げる。
玉雄が肩を掻く。
人工ボディが肩を掻く。
踊る玉雄。
同じ動きで人工ボディが踊る。
玉雄、人工ボディの腋の下をこそばす。 |
玉雄 |
「いやぁん!」 |
|
と腋の下を押さえて身悶える。
人工ボディが金太の声で、
「いやぁん!」
と同じ動きをする。 |
玉雄 |
「できた……完全な黄色のみかんや(特殊袋を外し)……あ」 |
|
人工ボディのツルンとした股間。 |
玉雄 |
「……ま、ええか」 |
|
|
○ 横断歩道(夕) |
|
|
相変わらずしかめっ面の金太と南野、織田が渡っていく。
中ほどに分厚い本が落ちている。
『鈴木アンナヘアヌード写真集』とある。
金太、目が釘付けになりながらも、素知らぬふうを装い、そのまま通りすぎようとする。 |
織田 |
「おい、あれ、あれ。今日出たばっかりの。おい」 |
|
金太、無視を決め込んで歩いていくが、渡りきったところで踵を返し、 |
金太 |
「アンナちゃーん!」 |
|
と写真集にダイブ。 |
織田 |
「あ!」 |
|
突進してくる自転車。
金太、軽い身のこなしでよける。
そこへ猛スピードでダンプカーが右折してくる。 |
金太 |
「!」 |
|
の車体の下に巻き込まれ、ガガガガ、ガリガリガリ、キキキキキーーーッという不快な音が響きわたる。 |
南野・織田 |
「!」 |
|
ダンプカーの運転手や、他の車からも人が多数下りてくる。
南野と織田が恐る恐るダンプカーに近寄っていく。
その足元にドロリとした血が流れてくる。 |
南野・織田 |
「!」 |
|
|
○ 病院・手術室の前(夜) |
|
|
椅子に座っている玉雄、南野、織田。 |
玉雄 |
「君らはもう帰りなさい。お父さんとお母さんが心配してる」 |
南野 |
「でも……」 |
玉雄 |
「いいから。な?」 |
|
南野と織田、逡巡するが、 |
南野 |
「じゃ」 |
織田 |
「俺、応援してますから」 |
玉雄 |
「ありがとう」 |
|
帰っていく南野と織田。
しばらくして、頭上の『手術中』のランプが消える。
院長の戸田(55)ほか医師団が汗を拭きながら出てくる。
玉雄が立ち上がり、戸田の言葉を待つ。 |
戸田 |
「まことに申し上げにくいんですが」 |
玉雄 |
「死んだんですか」 |
戸田 |
「いえ、それがピンピン」 |
玉雄 |
「は?」 |
戸田 |
「いやその、脳はピンピンしとんですが体がメッタメタでして、じきに心臓も止まるかと」 |
玉雄 |
「脳は生きとんですか! 生きとんですね?」 |
戸田 |
「は、はい。でももう体が……」 |
玉雄 |
「心臓も生きとんですね?」 |
戸田 |
「え、ええ、で、ですが、もう止まるのも時間の問題……」 |
玉雄 |
「連れて帰ります」 |
戸田 |
「はいぃ?」 |
玉雄 |
「自分ちの畳の上で死なせてやりたいんです」 |
戸田 |
「と言われましても……」 |
|
|
○ 玉雄の研究室(夜) |
|
|
玉雄が器具を取り出して、いったん部屋の外へ出て、中へ向かって風船を膨らませる。
どんどん大きくなっていき、部屋いっぱいに広がる。
これで風船の中は無菌状態。
玉雄は服を全部脱ぎ、体全体をアルコールで消毒する。
用意しておいた白衣を着て、帽子にマスク、手袋を着け、金太の体(全身包帯で覆われている)が横たわったベッドを滑らせて、無菌状態の部屋に入る。
玉雄、金太の胸に電極を取りつけ、心電図計器に接続する。
弱いがまだ心拍はある。
玉雄、傍らに用意した外科用具一式を駆使して金太の頭蓋部を切開する。
心拍が弱くなっていく。
玉雄、器用な手つきで脳髄を取り出す作業に集中する。
さらに弱くなっていく心拍。
玉雄、ついに脳髄を取り出し、培養液の中に入れる。
心電図が平坦になる。
安堵の吐息をついた玉雄、手袋を脱ぎ、人間の頭蓋骨と同じぐらいの金属性の容器を取り出す。
スイッチを押すと蓋が開く。
新しい手袋を着け、もう一度手と腕全体をアルコールで消毒して金太の脳髄を取り出し、その容器の中に入れて、スイッチを押すと蓋が閉じられる。
穴から出ている三本のチューブのうちの一本の先を、残った培養液の中へ浸すと、チューブが自動的に培養液を吸い込んでいく。
溢れそうになったところで、玉雄はチューブの先を取り出す。
例の伸縮自在の素材で作られた袋を取り出す。
それを容器にかぶせる。
袋は自動的に容器に隙間なくピッタリ貼りつく。
玉雄、それを人工ボディの頭蓋部に設置し、太いコードを一本接続。
玉雄、一本のチューブの先を口に繋ぐ。
他の一本のチューブの先を鼻に繋ぐ。
最後のチューブの先を後頭部に繋ぐ。
そして蓋を閉め、スイッチを入れる。
固唾を飲み込む玉雄。
人工ボディ(以下「金太」と表記)の目が光る。 |
玉雄 |
「金太! わかるか? 俺や。お父さんや」 |
|
金太、ググッと玉雄のほうを向き、 |
金太 |
「親父、どないしたん」 |
玉雄 |
「金太ぁ!(と飛びついて抱きしめ)これで大丈夫や。もう絶対死なせへんで」 |
金太 |
「何やねんいったい!」 |
|
と突き飛ばす。
玉雄、吹っ飛んで背後の壁に埋まってしまう。 |
金太 |
「ちょっと親父、大丈夫か」 |
玉雄 |
「大丈夫や。それにしてもさすがやの(と金太の腕を叩き)ええ? さすがは超合金や」 |
|
金太、自分の腕を見る。 |
金太 |
「……」 |
|
胴体や足も見る。
よろけながら鏡の前へ行き、全体を映してみる。
金太、気絶して倒れる。 |
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