「こんにちは、村井家の皆様」 
第24回(平成23年)大伴昌司賞 佳作奨励賞受賞作

小林 彩 作者の連絡先

1989年東京都生まれ、東京都在住。
高校時代より、演劇祭で簡単な演劇の脚本を書き始める。
2008年に東京都立日々谷高等学校卒業後、現在、成城大学4学年に在学中。
シナリオ講座、第55期基礎科・研修科修了。


「こんにちは、村井家の皆様」シナリオ

【あらすじ】

村井千晴(17)の両親は、いつも争いが絶えない。今日も罵り合う二人の口論を聞きながら、独り傷つく千晴。10月13日のこの日、村井家は崩壊するはずだった…。
翌朝、覚悟を決めて母の麗(47)に、離婚することになったのかどうかか尋ねる。しかし、麗の答えは的を得ない。以前から飲んでいる酒のせいなのか?千晴は訝しげに思いながら、家を出る。
どうも、家の外も様子がおかしい。千晴はふとしたことから、一ヶ月前の9月13日にタイムスリップしていることに気づく。加えて、千晴のもとに、電話がかかる。
「未来から来て、両親が別れる一ヶ月前に戻したの」
と。ますます、混乱する千晴。謎の人物は、千晴自身のこと、そしてこれから起ることをまくしたて、一方的に電話を切る。 不思議に思いながらも、通学する千晴。そこへ、代理教師の光村(29)が着任してきた。彼女の声を聞き、顔色を変える千晴。その人こそ、電話をかけてきた張本人だった。
どういうつもりなのか。問いつめると、彼女はこう答えた。
「私の苗字、両親が離婚する前は─── 村井」
彼女は2022年から来た未来の自分で、過去、つまり村井家を崩壊させないためにやってきたという。
未来人は過去に手が出せない制約なので、自分の代わりに、千晴に行動して欲しいという光村。訝しげに思いながらも、完全に否定することが出来ない千晴。 ある日。父の不倫現場を目撃する千晴。ショックを受けながらも、このタイムスリップした一ヶ月が夢でなく、“これから起ること”であると、遂に確信に至る。
光村からもらった未来が書かれた日記を頼りに、自身の家族が“崩壊”しないよう、親友勝田聡子(17)や、隣の席の真壁達也(18)の助けを借り、父の不倫を止めさせるため、奔走する千晴。 紆余曲折を得て遂に、父の不倫をやめさせることに成功する。しかし、母麗が健人の不倫の事実を知ってしまい、失踪してしまう。日記には書いていないこの出来事に、千晴は当惑してしまう。
遂に“崩壊”の日。麗が帰って来た。嬉しい千晴だったが、麗の表情は硬い。身構える千晴。
その夜、麗は娘のためを思い、健人に離婚を切り出す。遂に恐れていたことが現実になってしまう。突然の申し出に憤る健人。麗と健人はいつもよりも激しく罵りあう。絶望の淵に立たされながらも、二人を制する千晴。
ところが、千晴の、二人を制する言葉で、時が止まる。振り返ると、光村が立っていた。
千晴は懇願する。
「…今度は上手くやる…もう一度力をかして…」
千晴の言葉に光村は、寂しそうに答えた。
「あなたに黙ってたことがある。千晴…」
突然現れた時の旅人は、哀しい事実を語り出した…。