【タイトル】 

「アメン棒」

【作者】 

車取 ウキヨ(しゃとり うきよ)

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【シナリオ】

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《梗概》

 花岡珠子(6)は利発で愛らしい少女である。理髪店を営む花岡健一(32)の長女として生まれ、二番目の子を身ごもっている母親のトキ(33)を入れた三人家族で、まだ昭和も浅い紀州の一角――和歌山県田辺市で暮らしていた。
 健一は店の買い取り資金の返済に困っていた。次に生まれる子供のためにもと、珠子を、トキの妹で、白浜温泉で芸者兼置屋を営んでいるミツ子の元へ、養女に出す事を決める。
 健一に懐き、「大きなったらおとやんと散髪屋やる」と夢を語る娘を不憫に思いながらも、トキは夫に逆らえないでいた。
 珠子のためと言いつつ、毎晩白浜に通う健一に、不信感を募らせるトキ。ある晩トキは白浜に乗り込み、情事直後の健一とミツ子に出くわす。壮絶な姉妹喧嘩の末、トキは珠子
を取り戻す。
 十二年後の1943年(昭和十八年)。戦争が始まっており、電話交換手をやっている珠子(18)の勤務先にも、軍国主義の匂いが漂っていた。聡明で美しく成長した珠子は、弟の太一(11)や妹の紀子(7)の憧れでもあるが、自身は女であることの矛盾を抱えて生きていた。
 珠子に、遠縁にあたる月島少尉(25)との縁談が持ち上がる。出征前に婚約をと望む月島親子に対し、一抹の不安を覚えながらも、手放しで喜ぶ両親のため、珠子はこの縁談を承諾する。
 月島家から援助を受けられることになった珠子は、仕事を辞めて理容免許を取り、理髪店を再開する。健一を戦争に取られ、空襲に遭いながら店を続けていた珠子に、月島から呼び出しの電報が届く。覚悟を決めて月島に再会した珠子だが、月島は自分が戻れない時のことを考え、珠子を清い身体のまま残して出征する。
 戦況が悪化する中、食料の調達に励む珠子。昭和二十年七月九日の深夜。和歌山大空襲が珠子たちを襲う。阿鼻叫喚の中を逃げ惑う一家。珠子は、以前に食料を分けてもらった、秋津の豪農・亀田藤吉(37)に助けを求める。だが、軍の私的制裁により不具にされ、戦争に恨みを持つ亀田は、一家全員を助けることを良しとしない。トキは、自分が身を引くことで、子供達の身柄を亀田に託す。
 田辺に戻ったトキは爆風にやられて命を落とし、珠子は弟妹を守るため、亀田の陵辱を受ける。
 廃墟となった田辺に戻った珠子は、十二年ぶりに再会した叔母のミツ子と、幼馴染みで知的障害者の清次たちに支えられながら、母の死を乗り越え、理髪店を再建する。
 終戦を迎え、南方の島で捕虜になっていた月島が、戦犯となって珠子に会いにくる。ところが、珠子は亀田の子供を妊娠していたのだった。衝撃を受けた月島は、亀田との対面 を望み、珠子を伴い亀田家に向かう。
 月島に促されるうち、珠子の心に、抑えていた亀田への恨みが爆発する。亀田に軍刀を向けた瞬間、月島を追ってMPたちが駆け込んでくる。月島は覚悟の自決をし、珠子の腕に抱かれて息をひきとる。
 怪我の癒えたミツ子が田辺を去った日、珠子と太一と紀子の三人になった花岡家に、健一が帰って来た。だが健一は失明していた。父の無惨な姿を見て、無情感に押しつぶされそうになりながらも、珠子は、新しい生命の息吹を身の内に感じ、生きる希望を見い出すのであった。