【タイトル】 

「EGGS」

【作者】 

多和田 久美(たわだ くみ)

【E−mail】

kum151@snow.odn.ne.jp

【シナリオ】

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《梗概》

 佐竹有希(14)は未婚で自分を産んだ母・万里子(39)に反抗的。「自分がこの世に生まれた時喜んでくれた人なんていたのか?」。常にポジティブ、自信満々スイスイ生きてる万里子も、万里子の恋人・田沼(36)の人がいいだけでダサいのも気に入らない。
 立野陶子(29)は恋人の原田達郎(32)との付合いが中だるみ、結婚の話どころか達郎は最近セックスにも興味薄、陶子の不満にも気付かない。家では亡き夫の生前の浮気を今でも疑い年々閉鎖的で依怙地になっていく母・芳江(59)との不仲も日々深まるばかり。
 達郎は画家を目指すも中学の代理教員で何とか生活、自分の事で一杯一杯。放課後の美術室でせっせとコンクール出品作を描く。有希はそんな達郎に興味を惹かれていた。
 陶子の友人・弘美(29)は密かに不倫中、陶子達にも話すに話せず何の問題もない男と付合っていると装っている。唯一幸せなのが真由(29)。女の体がいい卵子を作れるのは二十代まで、期限切れなんて真っ平ごめん、と一人策略に走り、藤田(29)との出来ちゃった婚にまんまと成功。パーティー会場には出来ちゃった婚を祝うコンドーム風船が飾られていた。
 酔って控え室で眠り込んだ達郎の横に、会場に潜り込んだ有希が添い寝していた。達郎は何もないと言うが、有希の挑戦的な態度や半裸の二人に陶子は疑いを拭えず、達郎との仲は更にギクシャクしていく。  一方有希は相変わらず万里子に確かめたい事があった。「自分がこの世に生まれた時、喜んでくれた人はいたのか」ムムそしてある日、有希は部屋に引き篭もる。万里子や田沼の説得にも応じず、十ヶ月間部屋に篭もる。
 その間、達郎はコンクールに落選、苛立ちを募らせる。真由は流産し結婚も妊娠も独りよがりだったと落ち込み、次には陶子に八つ当たり。何とか堪えて慰めてはみたが真由の気持ちの全部なんて分らない。確かに自分は結婚も妊娠もした事はない、達郎との付合いも中途半端だ。陶子はその日、会社の車で事故を起こす。そして怪我が治った時、会社に居場所はなかった。少しは信頼されていると思っていたのに、あっけない程簡単に会社生活は終わってしまう。何もかもが上手くいかない。真由は離婚し、弘美も不倫を清算したい。誰にも明るい展望は全くない。
 春、有希は実行の時を迎え、部屋から出てくる。その姿は臨月の妊婦になっていた。相手を問われ、有希は達郎の名を告げた。
 有希、陶子、達郎、万里子、田沼、そして有希にずっと片思いの基和(14)も出て来て、成り行き上、陶子の家に集合し話合う事になる。芳江は大勢の来客に興奮気味、張り切ってすき焼きでもてなし、なぜか全員で食卓を囲む事になる。
 達郎は全く身に覚えはないが、有希が自分の子供だと言うのなら信じるしかない、そしてこれは自分にとってのけじめの時なのだと、絵を諦めて定職を探すと言う。そして陶子は自分と付合っている間はずっと中途半端だった達郎に一つの決断をさせ、好きな男の子供を産む覚悟まで出来ている有希には女として叶わないと思った。
 だが万里子は達郎の決断には有希への愛情がないと言う。都合よい単なるきっかけに利用するだけで有希と子供への愛も未来も感じない男なんてお断りだと言う。万里子の意外な言葉に驚く有希。基和は自分が父親になる言い、芳江は自分が有希と赤ん坊を育てたい、生きがいを見つけたと言う。田沼も有希の赤ん坊を大切にしたいと言う。そして陶子もこの赤ん坊を抱く事が出来れば自分にも何か一つ位 腹の据わった決断が出来るかもしれないと思う。達郎もどんな形であれ自分の子供が生まれるのには嬉しさを感じてもいた。誰もが有希の赤ん坊を待ち望んでいた。だが有希は哀しくなる。「この子はこんなにみんなに愛されて生まれてくるのに、私の時はノノ」
「その子が愛されるのは、あんたがみんなに愛されてるからよ。それにね、私一人だって、あんたが生まれる時には何十人分も喜んだわよ。いつも言ってるでしょ?」
 今なら万里子の言葉が信じられた。みんなが有希を温かく見守ってくれる。嬉しかった、だが有希はみんなに謝らなければならない。有希は箸を掴むとそれを大きく膨らんだ腹に突き立てた。パン!と大きな音と共に有希の腹はペシャンコになった。有希の腹を膨らませていたのは、真由達の結婚式会場で拾ったコンドームだった。
 有希の妊娠は嘘だった。だがそれを機にそれぞれが新しい道を見つた。自分の誕生に誇りを持った有希、やりたい事を見つけ明るくなった芳江、そんな母と上手くやっていけそうな予感と、打ち込みたい仕事へ向け準備を始めた陶子、絵を続ける決意をした達郎。万里子や田沼、基和、真由や弘美もそれぞれの場所で、新しい未来の兆しを見つける。
 全ての卵達が、今、殻を破ろうとしている。