シナリオ講座      一般社団法人シナリオ作家協会


     
   霧分 昇 (シナリオ作家・映画監督・技斗師)

昭和39年1月1日 東京生まれ
大学を卒業後、日活の殺陣師だった父・将敏の跡を
継いで殺陣師修行を開始。
「極道ステーキ(東映ビデオ)」にて初監督。
「銀座警察・武闘派刑事(シネマパラダイス)」にて初脚本。

※主な脚本作品
「ハート・クラッシュ」「渡世無頼」「七星闘神ガイフィード(脚色)」
「嗚呼!花の応援団・平成版」「ケンカ包丁・2」「波濤流技藝会1〜7」


                            


2009年6月22日(月曜日)

「カムイ外伝」の0号試写からはや一週間。
昨夏、殺陣師として担当した時代劇で、かの崔洋一監督作品であります。
沖縄ロケと聞けば普通のひとはバカンス気分ですが、真夏の炎天下ですからはっきり言って地獄と紙ひとえ。
「しゅごいねー映画のヒトはさー、地元の者ンはさー、昼間に外で仕事しないー?」
現場の名護の浜の木陰で昼寝をしていた爺サマの言葉です。
我々だって嬉しくて熱中症と闘いながら作業しているわけじゃありませんが、映画創りとはそういうもの。
ましてや「メガホンを持ったスタン・ハンセン」こと崔監督の演出でありますから、有無も言わせず大戦末期の帝国陸軍のような過酷な展開が日々続いたのです。
その試写ですから感激もひとしお。
あんなにキツい現場だったのに、おわってしまえば懐古談に花が咲く、つくづくカツドウ屋という稼業は因果なナリワイだと思うのでありました。



2009年6月23日(火曜日)

「真夏のオリオン」を観に地元・府中のTOHOシネマズへ。
本作の火だるまスタントに私が殺陣師として主宰する高瀬道場のコーディネーターが関係したため、そのカットの観客のリアクションを確かめにまいりました。
ここだけの話、現場では実際にオイルを衣装にかけて人体着火する予定でしたが、結局はCGでしのぐことになったのです。
高瀬道場は基本的にアナログなので(というよりそれしかできないので)、階段落ちや車に跳ねられるときはサポーターのみマットなし、格闘は顔面ありのフルコンタクトですから、火だるまなら実際に人間に火を点けちゃうのが当然だと思っておりましたが、もはや時代はCGでありますね。
実は「GOEMON」も我々の担当作だったのですが、これも全編CG。
しかし、パソコンも満足に使えないオッサンとしては少々複雑な思いです。
だって命がけのスタントや、苦痛に耐えたアクションを「あれ、CGなんだぜ」なんて訳知りで言われたらやりきれませんよね。
「アニメの実写仕様」のCGが活劇を空虚なものにしてしまうのでは、と密かに憂うる昨今でありますが……



2009年6月24日(水曜日)

「日本最大の再犯者収容施設」府中刑務所。
この塀の200m外側に芸能アクションの稽古場・高瀬道場があります。
そのほぼ隣接と言っても過言でない府中刑務所から一通の書状がとどき、びっくりして開封してみれば「改築落成式典のご案内」。
すでに半世紀ちかくここに住んでいる我々としては刑務所の存在に不感症になっていますが、いわゆる宅地開発で引っ越してきた「新住民」の皆さんには物騒なイメージがあり、かつ将来にわたって地下が下落するかもといった不安を訴える向きもあとをたちません。
たしかに私が幼い頃は、正面の通りに「ヤ」のつく自由業の方たちが、黒い高級車を連ねて放免祝いにやってきましたが、いまでは規制されているのでその「勇姿」をうかがうことはできません。
さらに施設側では刑務所の象徴ともいえる高塀にポエムなイラストを描いてイメージ向上につとめました(でも中には火付け・盗賊・人殺しがテンコ盛りですから姑息だと思いましたが)。
そして今回、さらに塀のまわりの歩道を公園のように整備、内部も教育刑の実施にふさわしい改装を施して近隣に公開となったのです。
自治会代表として足を運びましたが、まー、中のキレイなこと!ヘタな撮影所の百倍立派です(布田の某撮影所ではありません。念のため)。
「年末年始は府中の寄せ場で」なんて不届きなヤカラが増えないよう、願わずにはいられませんでした。



2009年6月25日(木曜日)


今日は終日、秋の殺陣発表会に向けてのリハーサルであります。
総勢20名近くが道場にひしめいて稽古をするわけですが、この時期はひとつ問題が生じます。
冬場は気にならないのですが、これから夏にかけては道場が「男子校の体育会系部室の臭い」で充満するのです。
いや、そんな生やさしいものではなく、「肉食獣の檻の臭い」といったほうが適切かもしれません。
稽古の始めから道場にいれば徐々に湧いてくる臭いに適応できるのですが、やむを得ない所用で途中参加などの場合、扉をあけた瞬間クラクラするのは否めません。
あるとき見学にみえた女優さんは、運悪く稽古の真っ最中にいらしたものですから、「うっ」とハンカチで鼻を押さえたまま固まってしまいました。
エアコンを備え付ければとも思うのですがそんな余裕はありません。
なにより撮影現場は過酷ですから「快適な稽古なんて意味ないんだ!8月の沖縄の浜辺を冬の衣装に身をつつみチャンバラすることだってあるんだ!」と檄をとばすのですが、そんなコトいって環境改善をおろそかにしているから若い女優さんが寄り付かないんでしょうか…
シェイプアップにはなにより効果的なんですが(二か月で3〜4s落ちる人もいるんですから!)、ケモノの檻の中でレッスンするのは勇気がいりますよね。やっぱり。



2009年6月26日(金曜日)

昨日の殺陣発表会リハーサルを鑑みた上での構成台本づくりに追われた一日でした。
毎年のことなのでいかにマンネリに陥らないようにするかが大命題なのですが、もともと才能に乏しいのにくわえ、自己投資も面倒くさがる私の作業が遅々として進まないのは必然です。
実は殺陣や技斗(現代アクションのこと)だけで尺というか時間を埋めるのは至難の技で、そこにドラマがなければ到底持ちません。
ただ、第三者からあたえられたテーマで書くホンと違って、自分が主宰する稽古場の台本となるとどうしても縛りがないぶん暴走しがちです。
ようするに何を書いても「喜劇」にならないと気がすまないのでありますね。私の場合。
思えば映画の原点はサイレント活劇でしたが、その中核は喜劇でした。ホラーでもスプラッターでもいくところまでいくと喜劇になります(柏原寛司氏お薦めの「ゾンビストリッパー」とか)。
「座頭市」でも「リーサルウェポン」でも初期はシリアスでしたが、徐々にブッ壊れました(柏原氏が書いてた「あぶない刑事」もそう!)。
邦画でも悪ふざけでない良質のコメディというジャンルが確立されてもよいと思うのは私だけでしょうか。
ともあれ今年の発表会は暴走せずに真面目に取り組みたいと思っております。



2009年6月27日(土曜日)


江東区古石場というところに小津安二郎の記念館があります。
なんとこちらで「殺陣のワークショップを開講してほしい」との要請をうけ、期間限定でおこなうことになりました。今日はそのお稽古日。
このワークショップ、対象がまったく一般の方たち。
正直なところプロの俳優やそれをめざす研修生でも容易に身に付かない殺陣を、言葉は悪いですがシロウトさんがどこまでできるようになるか疑問ではありました。
しかし、それは驚くことに杞憂でしかなかったのです。
全6回の講座の第4回目、すでに木刀を打ち合って大いにサマになっているのですからたいしたものでありますね。
「一度やってみたかった」「時代劇が青春だった」「運動不足を解消したかった」等々キッカケも性別・年齢もさまざまですが、共通しているのは全員興味をもって参加していること。
「好きこそものの上手なれ」とはよくいったもので、それがまさに具現化されているのです。
やはり小津先生ゆかりの施設につどう皆さんだからでしょうか。
考えてみれば、殺陣のある役にキャスティングされた俳優があわてて習いにくるのとはワケが違います。
こういうケースはマネージャーが「ウチの○○はアクション得意です!」などとウソ八ッ百ならべて役を得たのはいいものの、なーんにもできないので付け焼き刃でしのごうとする不届き者がほとんどであります。
ミュージカルに出演する者が歌も踊りもペケで通のでしょうか?
ワークショップの一般受講者を見習ってほしいものですねぇ…



2009年6月28日(日曜日)

さて、本日は公式行事なしの一日であります。
ゆっくり寝ようとしたにもかかわらず今日は4:30。もちろん冬場はもっと遅いですが、要するに明るくなると目が覚めるのですね(ニワトリみたいですが)。
これはその昔、「七星闘神ガイファード」というヒーローアクションの連ドラの技斗を担当して以来の習慣で、変身ものというジャンルはロケ地が遠く(人里離れた採石場みたいなトコで戦うワケですよ、ヒーローと怪人が!)、早起きしないと撮影時間が足りなくなってしまいますから、必要に迫られて身についてしまいました。
考えてみれば因果なナリワイの賜物といえるでしょう(ただ、就寝時間は20:30、午後8時半ですから睡眠が足りないワケではありません。自慢してもしょうがありませんが)。
明日は殺陣担当の新作の0号試写の日。東京では一時は途絶えていた時代劇が、また少しずつ製作されるようになってうれしくおもいます。
守秘義務があるため詳細は申し上げられませんが、原作者は血生臭い描写はお嫌いとのこと、ですから今作の殺陣はいっさい血はなしで腕も首も飛びません。
そのぶん手順は複雑に組むことになり、殺陣師としては苦労を余儀なくされました。
ただ、昨日触れたようなその場しのぎのリハーサルではなくじっくり半年の稽古ができたので、自画自賛ではなくチャンバラにはおおむね及第点をつけてもよいとおもっています。
なにはともあれライターとしても見果てぬ夢ではありますが、将来は血湧き肉躍る活劇(できればコメディテイスト満載で!)を形にしてみたいものです。

末筆ながらこの秋、9月22日に開催する殺陣の発表会は、主宰の私も能書きだけでなくなんかやれとの要請を鑑み、運動不足のメタボにムチ打って少しだけチャンバラをご披露します。
よろしければぜひお運びください(府中駅前・けやきホールにて14:00から)。

一週間、駄文におつきあい下さりありがとうございました。


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