本日は、テレビ朝日の内山聖子プロデューサーの特別講義で幕を開けます。講義テーマは“プロデューサーという仕事”です。 プロデューサーの仕事は多岐に渡ります。 「テレビ朝日に所属している私の場合、脚本家、監督、スタッフ、出演者といった人たちの才能を、客観的にまとめていくことが第一だと思います。それぞれの才能をピックアップして、化学反応を起こしていきます」 内山プロデューサーのドラマ作りは、そこにあるものプラス大胆な発想を掛け合わせていきます。勝算があるものより、賭けに近いもの、トライしたものの方が良い結果を出すこともあるそうです。悩んだ時は、普段とは違う意外な方向へもう1回掘り下げていく、それが、内山流ファーストステップなのです。 また、内山プロデューサーは、TVの良いところとして、こんなことも語っていました。 「私は子どもの頃、福岡のある街に住んでいて、電車に乗らないと映画館へ行けなかったり、おこずかいがないと映画を観に行けませんでした。でも、TVの前へ座れば面白いものがあって、感動出来るものを提供してくれました。『岸辺のアルバム』(1977年、TBS)で育ったり、『金曜日の妻たちへ』(1983年、TBS)にドキドキしていました。その時代に驚かせてくれるものは、必ずあります」
さて、TV業界では一時、原作モノのドラマが多く製作されていました。内山プロデューサーが手掛けられた作品にも、原作モノはあります。 「いろいろな脳みそが結集して、ヒット原作になる訳です。皆さんも、読んで影響受けて頂きたいです。私の好きな原作者……松本清張さん、東野圭吾さんの原作はいつでも人気ですね。 清張さんの原作が凄いのは、ご本人が今年で生誕100周年で、原作は古典の域のはずなのに、今読み返しても全く古びていないんです。トリックはちょっとしたこじ付けじゃないし、人間の造型もしっかりしていて、時代に格差があることも踏まえてあり、今でも映像化にとても人気です。最近だと、東野圭吾さん、伊坂幸太郎さんの原作が取って代わろうとしているみたいです。 そういう原作は、もの凄く脚本の勉強になります。セリフだけではなく、人物の動かし方が奇想天外です。何百冊読んでいる私でも、驚かされます。荒唐無稽に見えて 人間の本質を理解できる所があります。 漫画が原作の作品も担当しています。『イタズラなKISS』(1996年、テレビ朝日)、『ガラスの仮面』(1997年、1998年、テレビ朝日)、『生徒諸君!』(2007年、テレビ朝日)とやりまして、プロデューサーの仕事は漫画が原作の作品から始まっています。日本の漫画は卓越していて、キャラクター造形を含めて、私たちの脳みそが考えるより 遙かに出来上がっているものが多いです。 漫画原作のドラマを作る場合、漫画と映像は違うものであることを理解して、脚本家や監督と脚色して映像化にしていきます。『ガラスの仮面』は、野依美幸さんの脚色で、原作者の美内すずえさん先生も満足のいくものになったと思います。 漫画は、行き詰った時に読むと、宝物のようにいいアイディアが書かれていることがあります。皆さんもインスパイアされて、シナリオを書かかれるといいかもしれません」
内山プロデューサーは、『交渉人』(2008年、テレビ朝日)などオリジナル作品も多く手掛けています。その中で感じられたことは、入口である脚本家との信頼関係が必要だということだそうです。もちろん出演者との信頼関係が大切なことも前提です。連族ドラマが9〜10話の場合、いわば9時間ドラマといえます。オリジナルドラマを作る時は、早めに立ち上げて、脚本家と綿密に作っていきます。最終回が見えないままスタートして、出演者からは“私はどうなるの?”と訊かれることもあるそうです。 そして、『必殺仕事人2009』(2009年、テレビ朝日)などに代表される、過去の名作を復活させるドラマもあります。 「(『必殺仕事人2009』などの)サルベージものの場合、昔の宝を神棚から降ろして、埃を取って、現代に通じるものを作っていく作業になります。私も、過去に心を打たれた作品が沢山あります。『必殺仕事人』もそうです。 『必殺仕事人』は私の中で、『スパイ大作戦』(1966年〜1973年、アメリカのTVドラマ)と『ミッション・インポッシブル』(1996年、ブライアン・デ・パルマ監督)のように、全く違うものという観点からスタートしています。今の若い人たちに面白いと教えたいけど、焼き直しじゃなく『ミッション・インポッシブル』のように、新しい作品として『必殺仕事人』を作りました。藤田まことさんに出てもらったことで、少し昔の影を残しています。『スパイ大作戦』は知らないけど、『ミッション・インポッシブル』は知っているという印象を持ってもらえるようなものを、個人的にやりたいと思っています」
プロデューサーと脚本家は、入口から出口まで、作品の根っこを作っていくもの。家族以上、恋人以上、基本的に絶対的信頼関係がないと出来ない、そう内山プロデューサーは力説します。 「内舘牧子さんと仕事した時、“心中しましょう”という覚悟でやりました。正月2夜のスペシャルドラマ『白虎隊』(2007年、テレビ朝日)が、そうです。少年たちが死んでしまう話を、正月に放送して大丈夫かと声がありましたが、内舘さんと絶対この作品をやりたいと言い張ってドラマ化しました。内舘さんとの信頼関係があったからこそです。内舘さんは忙しくて時間が掛かりましたが、どうしても私がプロデューサーを辞めるまでに、これだけはやるんだと頑張った企画なんです」 そう語る内山プロデューサーは、この『白虎隊』を作るにあたり、単身で雪深い会津へ行き、現地の人から100年前にあった辛い話を訊いてきたそうです。そこから、やりたかったテーマが見つかり、悲劇の白虎隊ではなく、生きて帰った少年たちの姿を描いていくドラマとなったのです。何とか命を繋ぎ、プライドを捨てても生き残った少年の話です。完成まで2年程掛かりました。その間、パートナーの内舘さんとプロデューサーとで、目指しているテーマがブレないよう作業したのだそうです。
「プロデューサーの仕事で辛いのは、圧倒的な孤独感があることです。決断しなきゃいけないことが多く、人のせいに出来ませんし、最後まで逃げられません。プロデューサーの仕事は、最初から最後まで絶対に船を降りられないんです。孤独とか怖いとかしんどいと思うこともあります。でも、誰よりも早く脚本家や監督、スタッフ、キャストの皆さんの才能を見つけられます。それに、何をやっても勉強になる、いい仕事だと思っています。お医者さんや弁護士さんでもなく、人を救っているか判らない仕事ですが、たまに観ている人から、生きる希望が出たという声をもらうと、仕事に喜びを感じます」
内山プロデューサーは、ここで質問カードを手に取ります。
Q.『必殺仕事人2009』のように、時代劇を製作する時、意識していることは何でしょうか? 「観ているのは 2009年の視聴者です。その眼線に合わせて、現代に起こっている事件への感覚を意識して入れました。TVドラマは視聴者のものです。視聴者に気にしてもらえないと失格になります。 『必殺仕事人2009』は、4、5人の脚本家が作ったプロットやアイディアからお話を作っていきます。そこに現代的な実感や世相が入ったら、面白いと思ってやりました。定額給付金の話を書いた森下直さんという脚本家は、『必殺仕事人』が男臭い話なので、女性ライターを入れたらどんな感じかなと依頼してみたら、他の男性作家より骨があるホンを書く人でした。私はこれが書きたいというのがブレない、信頼出来る呈しい脚本家です。一緒にお仕事がしたいのは、NOと言える脚本家なんです」
Q・脚本家に求めていることは何ですか? 「脚本家は、プロデューサーとの作業が多いので、何かとコミュニケーションが必要になります。プロットやハコで、この人はこれが書きたいんだと、見つかる人としか仕事していないかもしれません。1回信用すると、同じ人と組むことになっていきます。そういう意味で、新しい人とやるチャンスが初期より減ってきています。 最近は『交渉人』のように、1話完結のドラマが増えています。上手じゃなくても、この人はここが面白いと思うと、お声をお掛けしてします」
Q・脚本の打ち合わせは、何人くらいの人が出席するのですか? 「ケースバイケースですが、私の場合、私と脚本家、2人でやりたいです。でも、なかなかそうはいきません。『必殺仕事人2009』は、朝日放送、テレビ朝日、松竹の3社で製作していたので、そこからそれぞれのプロデューサー、そのアシスタントと結果的に7、8人が打ち合わせに出席しました。1人の脚本家を囲むようでカワイソウでしたが、結果的に皆プロなので問題はありませんでした。 私がやる時は基本的に最少人数でやるようにしています。時々、作者が手の内を明かしたり、恥ずかしいセリフを喋ったり、傍観者に見せたくない生々しい会話をして、ドラマに取り入れたりしています」
Q.1ヶ月に、漫画を含めてどのくらいの本を読んでいますか? 「ここ数年、休みがない状態ですが、私は活字中毒で本好きなんです。1番辛いのは、本を読むことが以前より圧倒的に少なくなって、読んでいるものが脚本の方が多くなっていることでしょうか(笑) 『必殺仕事人2009』をやっている時も、『必殺』の台本と他に担当しているドラマの台本を読んでいました。それでも、1週間に1冊は読んでいます。1番最後に読み上げたのは、オリンピックの話が書いてある本です」
Q.個人的質問です。今度、学校で映画祭を開催します。映画祭の企画で、自分はこういうことをやりたいと、みんなの前で話すことになりました。みんなを納得させるプレゼンのアイディアがあったら、お知恵を貸してください。 「相手を知ることが、最初だと思います。どういう人に向かって話をしていくのかが大事です。私も今日ここ来る時、お話することを勉強しようと思って、頭の中をまとめる作業をしました。質問カードを頂いていたので、これでキャッチ出来ました。 プレゼンするその相手が、何を知りたいか、どういうことをやりたいか、先にリサーチして喋った方がよいのではと思いますが、どうでしょうか……?」
Q.ファンタジーやSF的な作品について、ご意見を訊かせてください。 「ファンタジーは、自分でも1番好きなジャンルです。私はアンデルセンで育ちました。 この世にあって、この世にあらざる人物というのがドラマの原点と思うことがあります。『必殺仕事人』の登場人物は、実際にいる人たちではないという意識で作っています。それをファンタジーと呼ぶかは、視聴者が観た時、そんなご都合の話と敬遠するかどうかで変わってきて、観ている人に絵空事と思わせないような作りにしていきます。 反応を見ていると、『必殺仕事人』はこちらが思っている程、視聴者はファンタジーとは思っていないみたいです。そういうことを通過した時代劇が理想なのではと、送り手としては秘かに考えています」
Q.自由な時間がある時は、どう過ごしていますか? 「基本的に脚本を読んだり、企画書を書いたりしています。おウチで1人で読んだりとかは出来ないので、雑踏の中で読んだりしています。今日も、皆さんにこんなお話をしようと考えながら、狛江の駅前のファミレスで、喋ることを頭の中で作り上げていました」
惜しくもここで、講義終了時間を越えてしまいます。 内山プロデューサーはにっこりと会釈をして、会場を後にしていきます。場内の拍手は、しばらく鳴り止みません。皆さん、内山プロデューサーの人間力に圧倒されているようです。
特別講義は、これを以ってすべて終了となりました。ここからは、撮影所見学やゼミでの実作指導が控えています。
夏の公開講座を支えているのは、シナリオ講座事務局です。期間中、事務局のスタッフさんは、参加者の質問などに丁寧に対応してくれていました。
さて、夏の公開講座2009の舞台は、日活撮影所です。講座期間中は、撮影所内の松喜食堂へ自由に往復出来ます。松喜食堂と云えば、数々の映画スターたちが訪問した歴史ある食堂です。 本日のお昼の休憩は、勿論この松喜食堂のお世話になります。参加者たちは、ここでしか味わえないメニューを注文しています。また、事前に別料金を払った人には、特製のロケ弁当が配られます。本来は現場スタッフの方々のためのお弁当です。心して頂きました。
夏の公開講座2009のスペシャル企画・撮影所見学の時間です。昨日の花火大会でも日活撮影所内を統括された、撮影所事務局長の方がお越しになりました。この方を中心に、見学がスタートします。 そして、各ゼミの先生も一同に揃います。井上登紀子先生、北川哲史先生、久保田圭司先生、中野顕彰先生、森下直先生です。参加者の人数が多いため、2班に別れての行動となりました。 まず、私たちが向かったのは、俳優センターの中にある試写室です。俳優さんの控え室を多く含む建物に、上映施設があります。それぞれがシートに腰を降ろし、ここでしか観ることの出来ない映像作品を鑑賞しました。 日活芸術学院の生徒さんが手掛けた、日活撮影所を紹介する映像です。 現在、日活の広大な敷地内に、8つのスタジオがあります。【STUDIO 6】〜【STUDIO 13】です。かつては【1】〜【5】のスタジオも機能していました。やがて【1】〜【3】のスタジオは売却され、その土地にマンションが建ちました。【4】〜【5】は倉庫として活用されています。私たちは、この映像を通して日活撮影所の全貌を識ることになりました。 また、撮影所は美術の製作及び貸し出し、ポストプロダクション業務なども行われ、特殊メイクの事務所も機能しています。現在、都内で製作されている映画・CM・TV作品の半数以上に、日活撮影所が何らかの形で関わっているそうです。
試写室を出て、撮影スタジオへ移動します。スタジオには、今年の年末に全国公開される映画のセットが建て込まれています。セットの後方はスタジオの壁がそのまま見え、これからグリーンバックを設置するようです。ちなみに、このスタジオは大量の水を使用した撮影も可能で、床は排水設備が整っています。 次いで、セットが一切ない状態のスタジオへ移ります。先程のスタジオの方が、面積は若干広いそうです。しかし不思議なもので、何もないこの空間にさらなる奥行きを感じてしまいました。 撮影所の方のお話に依れば、美術スタッフは脚本を徹底的に読み込んで、図面を引き、セットを建てていくそうです。脚本に書かれた1字1字が現場を左右します。シナリオの勉強をする私たちにとって、背筋が伸びるお言葉でした。 それからまた、別のスタジオへ歩を進めます。今度は、日活芸術学院の生徒さんが実習作品を撮影するスタジオです。ここに、あるセットが組まれています。生徒さん全員がシナリオを応募し、投票で選ばれた作品を協力して製作しているのだそうです。今回は、脚本コース以外の人の作品が選出されています。このスタジオに建つセットは生徒さんの手作りです。すべてシナリオから発想したものだそうです。 さて、日活撮影所内を歩いていると、面白いものに当たります。例えば、『犬神家の一族』(2006年、市川崑監督)でヒロイン・珠世が漕いでいたボートです。倉庫と倉庫の間の小路に、陽光が照らされた状態で置かれていました。 皆それぞれが、仔細な観察を働かして撮影所を体感しています。こうしてあっという間に、見学ルートが消化されていきました。 いよいよ次の時限からは、各ゼミでの実作指導が始まります。
ゼミ開始まで30分あり、長めの休憩時間が出来ました。しかし驚くべきことに、森下先生のゼミだけは、休憩時間などお構いなしに時間前倒しで講義をスタートさせています。人一倍熱心な人がいると、講座全体のモチベーションが高まっていきます。
さて私は、井上登紀子先生のゼミに配属されています。 ゼミ開始時刻となり、一同が教室に揃います。そして、皆で長机を移動させ、教卓を囲むような配置を作りました。
ゼミでは、それぞれが事前提出した課題作品がテキストになります。今回の課題のテーマは、「希望」または「ふれあい」または自由なテーマです。シナリオの場合はペラ20枚、プロットの場合はペラ10枚で作成します。また、手書きで執筆する人には、シナリオ作家協会の特製原稿用紙(無料)が送られています。 そして、夏の公開講座の間際に提出した人は、場合によってゼミの時間内に添削出来ないことがあります。その際は後日、担当講師が添削し、講評文を郵送することになっています。(送料などすべて無料です) 尚、全ゼミの中から優秀作品が選出され、月刊「シナリオ」誌に全文掲載されます。
課題シナリオはゼミ毎にまとめられ、シナリオ作家協会特製の封筒に収められています。封筒は夏の公開講座・第1日目に配布され、皆がゼミ開始までに読んできています。 井上先生のゼミに集まった作品は、方向性が実に幅広かったです。しかもすべてがフルオリジナルで、独自性を強く感じました。皆さん、書きたくて書きたくて、想いをぶつけた作品なので、原稿から熱が伝わってくるようです。
井上先生が見せてくれた書籍や資料の一部を紹介します。
◆「シナリオの構成」(新藤兼人・著) ◆「シナリオの基礎技術」(新井一・著) ◆「ストーリーアナリスト」(T・L・Katahn)
この他にも幾多の文献が顔を揃え、早くも重版されているシド・フィールドの本や、共同出版社「記者ハンドブック」もありました。「記者ハンドブック」は、“書き方の基本”の項目が、大いに役立つようです。
先生はさらに、ご自身が手掛けた作品の台本も見せてくれました。 加えて、井上先生作成のプリントも配布されました。シナリオを作る極意が、ぎっしりと書かれています。夏の公開講座2009で、1番の収穫かもしれません。
そして井上先生は、実際にドラマの現場で使われた企画書を見せてくれました。『恋うたドラマスペシャル 竹内まりやの「純愛ラプソディ」』(2008年、TBS)の企画書です。 「私は、企画書の表紙をなるべくインパクトのあるものにしています。表紙の次は、企画意図です。どんなドラマにしたいか書きます。次のベージに登場人物表を書いて、その次に簡単なあらすじを載せます」
さて、ここからいよいよ実作指導が始まります。 「人の作品を読む時、みんなはシナリオライターになろうとしている訳で、批評家になろうとしている訳ではないから、好き嫌いで判断しちゃダメです。心構えとして、どこがいけないとか指摘するのではなくて、自分ならどうするかを発言してください」
そうして、トップバッターとなる人の作品が採り上げられます。 「この作品やりたい人! 作ってみたいと思う人!」 井上先生が私たち1人1人の顔を見据えると、それぞれが手を挙げていきます。 「どこが良かった?」 先生は発言し易い空気を作り、私たちから意見を引き出します。そして面白いことに、先生は手を挙げなかった人にも、積極的に意見を求めていました。 井上先生は、このシナリオを書いた人に尋ねます。 「1番いいたいことは何ですか?」 発言をし易い雰囲気のため、作者から生の声が出てきます。この限られた時間でも、ゼミは密度の濃いものとなっています。また、先生はその都度都度、質疑応答の機会を設けて、疑問点が解消するまで徹底的に応えてくれました。
さて、それぞれの実作指導の中で、井上先生は次のようにとても実践的なお話をされました。
○シナリオと小説の1番の違いである時間の制約について ○シナリオを構成している3つの要素(柱・ト書き・台詞)について ○ドラマにとって葛藤の大切さ ○作家の都合で書いてはいけないこと ○エピソードを並べただけでは、ドラマにはならないこと
等を学びました。 また、キャラクターを作る場合には、なるだけフルネームをつけ、愛情を持って描くことなども学びました。
先生は、私たちのシナリオで良いと感じた箇所はしっかり褒めてくれます。しかも、良い部分を膨らませようとします。
そうして時間はあっという間に経ち、ここで60分間の休憩となりました。
さて、ゼミを通して私たちは、書き手の立場に加え、人のシナリオを受け取る立場にも立っています。客観的にシナリオを検証することで、自作シナリオに第三者的視点を持てます。また、ゼミで他人のリアルな反応に触れ、想定外の質問を受けることで、見過ごしていたことが明確となり、人の知恵は自身の栄養となっていきます。
夏の公開講座をはじめ、シナリオ講座の先生は、全員が現役のシナリオライターです。講師の視点でそれぞれの持ち味を伸ばし、脚本家の視点から最前線で培った真実を伝え、時にはデビュー前の視点で私たちの立場になって考えを巡らします。理論と実践は違うものです。現役のライターだからこそ見えている、切実なことを教えてくれるのです。 そして、シナリオを書いている時、私たちの頭には映像が浮かんでいます。その映像を言語化して赤の他人に伝える作業を、最も得意としているのがシナリオライターです。どういう言葉のチョイスをし、どんな表現をすればダイレクトに伝わるか、現役のライターは熟知しているのです。
また、プロの現場で失敗しないためには、研鑚の場で試したいことを存分に試しておくといいようです。シナリオ講座には、安心して失敗出来る空気があります。意味のある失敗は、成功への手がかり足がかりになるはずです。プロの現場が“作品の成功を第一にしたモード”で脚本を書くのに対し、シナリオ講座は“学ぶことを最優先にしたモード”で脚本を書ける場です。そして、講座で書いたシナリオは自分のストックとなり、やがて未来の自分を助けてくれるかもしれません。
講座の先生は、誠意には誠意で応えてくれます。しかも、書きたいことを思いっきりシナリオに書いたり、講義でいい意見を言うと本気で喜んでくれます。 シナリオ講座に来て、生まれて初めて生身のシナリオライターと交流する人もいます。初めて交流するライターの姿は、自分の中の脚本家像に影響を及ぼします。自分がベストを尽くして書いたシナリオを、全力投球で読み込んでいるその姿は、今後シナリオを書く原動力になるかもしれません。
さて、ゼミ再開の時間となり、後半戦がスタートします。今回もまた、井上先生は大変現実的なアドバイスをくれました。
○人物の履歴は、シナリオにする前にきっちり考えること ○主人公の貫通行動と葛藤、障害について ○テーマについて ○シーンの意味 等です。
また、シナリオは、人に読んでもらうものだから、書きっ放しはいけないということも学びました。
ここで講義終了時間を迎え、白熱したゼミは明日へ持ち越しとなります。 皆さん、ゼミの間は真剣そのものでした。夏の公開講座は3日間とタイムリミットが明確なため、異様に濃い時間が作られます。 井上先生は機転が速く、アイディアがとても豊富です。先生に触発されて、皆さんは新たな一面を引き出しているようでした。
教室の外へ踏み出すと、撮影所は夜の灯りで照らされていました。他のゼミも終了したようで、自然と人が集まっています。 そこで面白い事実に直面しました。あるゼミに、人のシナリオを読んで、明快で建設的な意言を出した人がいます。実はその人にとって、その作品は不案内なジャンルでした。それでも、考えて、考えて、考え抜くことで、皆の期待を上回るアイディアを導き出したそうです。合評会は、それぞれのキャリアに捉われず、自由に意見を交換する場です。積極的な姿勢で臨めば、自身の可能性が広がっていくのかもしれません。
また、今回皆が提出したシナリオは、手垢にまみれていない新鮮な素材のものが多く見られます。プロのシナリオライターも見つけていない、盲点を突いているのではないでしょうか。それぞれが強みを発揮した素材で勝負すれば、やり方次第で思わぬ活路が拓けるかもしれません。実力勝負の世界です。まだシナリオ化されていない素材、そして新しい洞察は無数に存在しているはずです!
ゼミが終了して、30分以上が経ちました。ここでようやく、唯一延長していた森下先生のゼミも講義を終えます。このゼミのメンバーは結束が固くなっているようで、講義内容の充実さが窺えました。 皆さん、風を切って日活撮影所を後にしていきます。撮影所は、私たちに大切なことを教えてくれました。映画やドラマを作るには、いいシナリオがどうしても必要なのです。
そしてこの世には、シナリオからしか生まれない感動があるはずです。シナリオを書く面白さ、読み進める面白さ、教わって初めて知る面白さ、私たちは全身で学んでいるのです。今、夏の公開講座2009から、いい循環が生まれています!
いよいよ明日は、急展開の最終日です。夏の公開講座は、宝がザクザク溢れています。この最終日で、想定外の化学変化が起きました!
及沢七木(受講生)プロフィール
夏の公開講座、毎年受講しています! 東京都在住。大学卒業後は会社勤務と併行して、シナリオの勉強に励んでいます。 第7回函館港イルミナシオン映画祭短編シナリオ部門で最終選考。 月刊「シナリオ」誌08年2月号、5月号、10月号にて“シナリオ倶楽部新聞”執筆。 ソニーマガジンズ『ベッキー・1stフォトエッセイ べき冷蔵庫』制作スタッフ。 今までに感銘を受けた映画は『マリア・ブラウンの結婚』『カイロの紫のバラ』『機械じかけのピアノのための未完成の戯曲』などなど。感銘を受けたTVドラマは『きらきらひかる』『白い巨塔』などなど。
|