「偽装の果て」 《主な登場人物》 今尾征司 (37)環境タイムス記者 佐々木哲也(25)環境タイムス記者 藤川正行 (56)藤川産業社長 若林幸一 (26)川辺分析元社員 西川秀雄 (29)番組製作会社契約社員 長妻 博 (45)環境タイムス編集長 岩瀬正樹 (45)環境タイムス営業部 高津輝男 (30)環境タイムス営業部 河野千秋 (25)派遣社員 原田正基 (48)原田工業社長 片橋宗雄 (43)川辺分析部長 今尾朝子 (33)征司の妻 今尾加奈 (6)征司の娘 ■地面の上に出ている男の首      産廃処分場の中。      首まで埋められている男、今尾征司(37)。傷だらけの顔。      閉じていた眼がぱっと開く。   征司「(朦朧と)俺はどうしたんだ、ここは……?(記憶をたどるような表情)」      征司の脳裏に―― ■燃えている黒い塊      産廃焼却炉の内部。 ■を監視用窓から見ている征司      と、顔を離す。      産廃焼却施設。××商会。      作業服の男(工場長)が脇に立って話している。  工場長「油や汚泥、プラスチック類、工場から出る産廃を燃やしてる」   征司「焼却灰が出ますね。どうしてます?」  工場長「埋め立て。ホントは、リサイクルしたいんだけどね。エコじゃないから」   征司「いくらで」  工場長「トンあたり一万五千円ぐらい」   征司「もっと安いところもあるでしょう」  工場長「らしいけど、変なことされても困るし」   征司「変なこと?」  工場長「中には、不法投棄したり、ごまかす連中もいる。ごみなんて目の前から消えれば      何とかなる。そんな考えの連中もいる。記者さんの前で、業界の悪口、言っちゃ      まずいけど」   征司「なれてますから」 ■同社・応接室      工場長、黒い砂のようなものが入った袋を征司に見せ  工場長「これが焼却灰を砂にしたグリーンサンド。藤川産業の再生品」   征司「(頷いて)県のリサイクル品ですね。まだそれほど市場に出てない……」  工場長「(唸り)よく知ってる」   征司「工場長は、どう思います?」  工場長「品質的には問題ない。要はコスト。よく誤解されるんだが、リサイクルといっても      ただでは、引き取ってくれない」   征司「加工したり、手間がかかりますからね。じゃ、埋め立て料金と同じぐらいか、      それ以下だったら、いいですね」  工場長「もちろん」   征司「値段については、藤川産業さんがお決めになることですが……(机の上の書類を見て)      それ、顧客リストですか」  工場長「(手で隠すようにし)ああ、でも、これは、見せられない」   征司「(他の書類を指差し)じゃ、こちらの書類のコピーをもらってもいいですか?」  工場長「いいだろ」      と、立ち上がり、部屋を出る。      征司、顧客リストを引き寄せると、携帯電話を取り出し、カメラで撮影。     《カシャッ》      征司、画像を保存し、携帯電話をしまう。      顧客リストを元の位置に戻す。    ■走る電車の中      征司、座っている。      カバンから携帯電話を取り出し、画像を見る。      顧客リストが写っている。      征司、メモ帳を取り出し、社名を書いていく。 ■街中。      やってくる征司。      携帯電話が鳴る。      着信表示「藤川産業」。      征司、電話に出る。   征司「もしもし、××商会さんの顧客リスト手に入れました。やっぱり、大手がほとんどでしたね……」 ■藤川産業・オフィス      藤川正行(56)、話している。   藤川「いま、近くか? 少し寄れるか」 ■同社・表      大きな看板。      タクシー入っていく。      乗っている征司の姿が見える。 ■同社・オフィス      征司、書類を藤川に差し出し   征司「この前頼まれた、××県内の産廃業者の顧客リスト」   藤川「(感心)うむ、環境タイムスの取材っていう、安心感か……」   征司「さあ。でも、顧客リストは、見せてくれません……」   藤川「じゃ、どうやって?」   征司「(携帯電話を取り出し、構えてみせ)隙を見て、携帯電話のカメラでこうやって」   藤川「(思わず笑って)」   征司「社長、例のグリーンサンドですが、焼却灰の引取り料金をトンあたり一万円程度なら      うまくいきそうですね……」   藤川「(頷いて)だろう。それに、そこまで安くできるのはなかなかない」      藤川、引き出しから封筒を取りだし、征司にわたす。   藤川「だが、それも、あんたが、あの再生プラントを見つけてきたからさ。原田工業の、      いいプラントだ。これは、ほんの気持ちだが、受け取ってくれ。顧客リストの礼も      入ってる」   征司「恐れ入ります」      と、如才なく受け取り、カバンに入れる。 ■東京・オフィス街      征司、やってくる。      とあるビルの中へ入っていく。 ■同ビル・エントランス      征司、エレベーターを待っている。      その脇に「3階 環境タイムス社」の表示。 ■環境タイムス社フロア      さほど広くない。      十名ほどの社員がいる。      征司、入ってくる。      征司の席に編集長の長妻博(45)、立っている。   征司「編集長、何か」   長妻「奥で」      長妻、奥へ行く。      征司、続いて、行く。 ■同社・応接室      征司、長妻、話している。   長妻「また新人が入る」   征司「(軽く驚き)今年は当分入れないはずじゃ」   長妻「社長の方針なんてころころ変わる、珍しくもない。ベテランがやめてから      補充してないし……で、君に面倒をみてほしい」   征司「いいですが……」   長妻「適役だと思う」   征司「二人、辞めてます」   長妻「そりゃ君のせいじゃない。うちに合わなかっただけだ……」   征司「……」 ■高層マンション・前(夜)      高級なデザイン。      やってくる征司。      中へ入る。 ■同・七階エレベーター・前      ドアが開く。      征司、降りてくる。 ■同・征司の部屋      表札に「今尾征司/朝子/加奈」。      征司、呼び鈴を押す。      ドアが開く。      妻の朝子(33)、顔をしかめ   朝子「鍵、持ってるでしょ」      征司、入る。 ■同・中      間取りは3LDK。      入ってくる征司。      居間、加奈(6)がテレビでアニメを見ている。      加奈、征司に顔だけ向けて「お帰り」。      征司、冷蔵庫を開けると、缶ビールを取り出し、あける。   征司「(一口飲んで)わがまま娘、アニメ、見てるときは静かだな」   加奈「パパ、また、焼肉食べたい」      朝子、来る。   朝子「この間のお肉、すごく美味しかったみたい」   征司「君もだろ。臨時収入あったから(と、万札を渡す)これでまた、高級な肉が買える」   朝子「(歓声)加奈、よかったわね」   征司「新人が入る。俺が面倒見ることになった」   朝子「いっぺんいってやれば。給料が安くて、人使いが荒いから、やめちゃうんだって」   征司「人使いは荒いかも。でも、業界紙の記者なんて、給料はどこも似たり寄ったり。      要は、やり方だよ」      と、つまみの袋を破く。    ■環境タイムス社・フロア(日替わり)      長妻が哲也を社員一同に紹介している。      哲也、緊張の面持ちで聞いている。      征司、哲也の様子を見ている。   長妻「年齢は二十五。浪人一年……まあ、新卒みたいなもん。(哲也に)じゃ、一言」   哲也「佐々木哲也といいます。一日も早く、仕事を覚えて、皆さんの足手まといにならない      よう……頑張ります」      と、深々と頭を下げる。      拍手。      長妻、征司の前へ哲也を連れていく。   長妻「(哲也に)課長の今尾征司君。経験十年のベテランだ。今日から君の教育係だ」   哲也「(固くなり)何も分かりませんが……」   征司「業界紙は初めて?」   哲也「はい」   征司「イチから教えなきゃ」   哲也「よろしく、お願いします」      と、頭を下げる。      哲也の席。      哲也、「環境タイムス」を開いている。      征司、話している。   征司「環境タイムスは、名前は環境とついているが、内容は産業廃棄物、つまり、      産廃の業界紙。ただ、業界紙にも色々ある。業界べったりで、業界のことしか      記事にしない新聞もあれば、一定の距離を保ちながら、独自の編集方針を      もっている新聞もある」   哲也「環境タイムスは、どっちなんですか」   征司「後者だな」      哲也、ほっとする。   征司「でも、業界の人間に負けないくらい、色々なことを知ってなきゃ、バカにされる。      もちろん、記事なんて書けるわけがない。まず、これくらいの知識は頭に叩き込め」      と、本を渡す。      題名「産廃処理入門」      哲也、ページを開く。      文字がびっしり。   哲也「(思わず)うわ……」   征司「家に持って帰っていいぞ。それから、午後から、取材のアポどりだ。電話して約束をとれ」   哲也「電話で話すのって、苦手で」   征司「だめだ。そんなこと言ってちゃ」   哲也「(気圧され)はい」      ×   ×   ×      哲也、電話をかけている。   哲也「もしもし、環境タイムスの佐々木と申します……その、すいません、取材の件で、え、      ですから、取材(電話の切れる音)」      哲也、唖然。   征司「どうした」   哲也「切られました。取材って有料だろうって、なんで?」   征司「記事書いて載せといて、あとで請求書送りつける会社もあるんだ……」   哲也「はあ……」 ■××クリーン・応接室      征司、工場長相手に取材をしている。   征司「御社は、焼却灰はどうされてます?」  工場長「埋め立てだよ」   征司「それ以外、たとえばリサイクルされる予定は?」  工場長「考えてはいるんだが、なかなかいいやり方がなくて」   征司「私の知ってる中では安くて性能のいい再生プラントも出てきてますよ」  工場長「ほう」   征司「原田工業って会社のプラントで、特殊加工して砂にするんです」  工場長「安全性については大丈夫? 焼却灰には、砒素とかカドミとか有害重金属が混じっている      可能性が」   征司「もちろん。まず、入っていると思ったほうがいいですね。いくら特殊加工しても、それが      後から染み出してきたら大問題。でも、この製品は大丈夫です。検査会社の試験もクリア、      保証付きです」  工場長「でも、高いんだろう?」   征司「御社の規模ですと、一億円。よければ、私が仲介しましょう。多少は割安にできます」  工場長「どのくらい?」   征司「半値の五千万」  工場長「そんなに? 一度見せてもらえるかな?」   征司「わかりました。話をしておきます」  工場長「取材のほうは、いいのかな?」   征司「いいんです。それに、こういう情報提供も、記者の仕事の一つですから」 ■山間部の工場      看板「原田工業」。 ■同・中      原田正基(48)、装置の組み立て作業をしている。      征司、来る。      原田、気づいて、手を止める。 ■同・事務所・中      征司、原田、話している。   征司「来週あたり、お客さんが来るぞ。現物を見たいって、また一台売れそうだ」   原田「あんたには感謝してる」   征司「こっちだって助かってる。俺の会社の給料聞いたらびっくりするぞ。だから、      これで稼がなくちゃ。家族もいるんだ」   原田「言いづらいんだけどね、いまあんたに売値の三割、一千五百円の紹介料払ってるが、      少し取りすぎじゃ?」   征司「社長、前にも言ったろう。このプラント売るには、仕込がいるし、元手もかかる。      社長がつくって、俺が売る。別に人雇うこと考えたら、はるかに安いじゃないか」   原田「わかったよ。でも、記者も、結構大変なんだな」 ■環境タイムス社のフロア      哲也、電話している。   哲也「次回また……」      と、受話器を置く。      哲也、さえない表情。元気がない。      入ってくる征司、哲也に   征司「どう? アポイントは?」   哲也「ゼロです」   征司「何件かけて?」   哲也「二十件」   征司「しょうがないな。明日の午後、カメラ頼めるか」   哲也「はい……」 ■県民ホール・表      看板「セミナー 環境問題と廃棄物処理事業」 ■同・内部      二百人ほどの聴衆を前に征司が講演している。      式次第       「記者から見た廃棄物処理事業の今後」              環境タイムス記者 今尾征司   征司「廃棄物を出す側の企業の意識も最近はだいぶ変わってきました。たとえば、      本紙のアンケート調査でも、埋め立てもいいけど、できるだけリサイクルしたい      と考えている企業が多くなっています」      聞き入っている一同。      フラッシュがたかれる。      哲也、興奮した表情で撮影している。     ×   ×   ×      控え室。      征司、封筒に入った謝礼をもらう。      征司、ちらっと中を見て、カバンに入れる。    ■環境タイムス社フロア      征司の席。      征司、パソコン画面を見ている。      講演会の写真が並ぶ。      征司のみの写真がある。   征司「僕の写真なんか撮っても、しょうがない。掲載するわけじゃない」   哲也「……今尾さんの話が一番わかりやすかったです……」   征司「三百六十五日、産廃のこと取材して、記事書いてるりゃ」   哲也「講演料、いくらもらえるんですか」   征司「五万円。でも、六割は会社に没収」   哲也「(唖然)え」   征司「がっかりだろう。でも、講演やれば、多少顔は売れて、色々と仕事がしやすくなる。      悪くない」   哲也「(頷いて)」 ■コーヒーショップ・中      ガラス張りの壁際のカウンター席。      哲也、コーヒーを飲んでいる。      外の道を、河野千秋(25)がやってくるのが見える。      哲也、千秋に手を上げる。      気づいた千秋、小さく手を振る。      千秋、コーヒーカップを持って哲也の隣に座る。   千秋「待った? 急に残業になっちゃって」   哲也「(笑って)社員みたい」   千秋「毎月、ウェブデザイン提案してるんだけど、なかなか社員にしてくれない……」   哲也「いいセンスしてると思うけどな」   千秋「ありがと。そっちはどうなの?」   哲也「採用はされたけど……。取材して記事書くって、思ってより大変というか」   千秋「でも、よかったじゃない。夢叶って」   哲也「夢?」   千秋「物書き、新聞記者」   哲也「業界紙の記者だよ。でも、ほかの仕事よりいい。それに、ラッキーだった。      頼りになる先輩がいて……」 ■環境タイムス社フロア(数日後)      哲也、電話している。   哲也「料金の動きとか、一度お話を……あ、よろしいですか(明るい表情になる)      では、明日午後3時に……」      哲也、受話器を置くと、征司の席へ。   哲也「(にこにこと)今尾さん、アポ取れました。明日、取材に行ってきます」   征司「一人で大丈夫か」   哲也「はいッ」      哲也、自分の席にいきかけるが   哲也「(不安な色を浮かべ)すいません。できれば、一緒に」   征司「(ため息)そうするか」 ■××工業・前      征司、哲也、やってくる。      征司、立ち止まり、カバンからICレコーダーを取り出し、哲也に渡す。   征司「メモを取るだけじゃ、間に合わないときがある。録音したほうがいい」      哲也、ICレコーダーを見て   哲也「これで録音できるんですか」   征司「小さいが、精度はいいぞ」      と、二人、中へ入る。 ■××工業・応接室      征司、哲也、工場長。   哲也「まず、御社の事業内容、特長などを教えてください」      征司、小声で「録音」      哲也、あわてて取り出し   哲也「すいません、念のため、録音させてください」      哲也、ICレコーダーを机の上に置く。 ■環境タイムス社フロア      哲也、パソコンに向かって記事を書いている。      自分で書いたノートを開いている。      ×   ×   ×      征司の席。      哲也、印字した記事原稿を持って、やってくる。   哲也「できました」      征司、受け取る。      赤のボールペンを取り出し、書き込んでいく。みるみる、真っ赤になっていく。      哲也、唖然としている。      征司、記事原稿を哲也に戻し、   征司「はい。書き直し」      哲也、びっくりしたような表情で席に戻る。      ×   ×   ×      哲也、印字した記事原稿を征司に渡す。      征司、赤のボールペンを持つと、書き込んでいく。真っ赤になる。      哲也、棒立ち状態。      ×   ×   ×      哲也、印字した記事原稿を征司に渡す。      征司、赤のボールペンを持つ。      ところどころ赤が入る。      哲也、それとなく、眼で追いながら、じっと待っている。      ×   ×   ×      哲也、印字した記事原稿を征司に渡す。      征司、じっくり読む。      赤のボールペンを持つ。      哲也、息を殺す。   征司「オーケー。いいだろ」   哲也「(力が抜けたようになり)ありがとうございます」      と、席へ戻るのへ   征司「どう。一杯飲みにいくか」   哲也「(慌てて)すいません、今夜は先約が」   征司「そうか」   哲也「大学のゼミ仲間の飲み会で、めったにやらないんですけど、珍しく、急に決まっちゃって」   征司「わかった。また誘う」      と、行く。      哲也、残念な表情で見送って――。 ■居酒屋・表(夜)     「カンパーイ」と、明るい声が聞こえる。 ■同・内部・個室      数名がジョッキを飲んでいる。      西川秀雄(29)、河野千秋、佐々木哲也がいる。   西川「(哲也と千秋を見やり)二人、まだ続いてたのか」   千秋「意外ですか?」   西川「確か佐々木にはほかに好きな女が」   千秋「(固まって)え」   哲也「西川さん、そうやって、人をはめるのやめてください」   西川「冗談。ホントは、千秋がすっかりきれいになってるから、妬けたのさ」   千秋「(睨み)冗談でも、やめてください」  仲間1「哲也、ライター養成の講座か何かに通うんじゃなかった? 面接受けたって」   哲也「キャンセル。就職決まったんだ。小さな出版社だけど、編集の仕事につけた」  仲間2「小説書くんじゃ?」   哲也「仕事をしながら通うんじゃ大変だし。取材して記事を書いたりするって、面白そうだし……」   西川「会社はなんて?」   哲也「聞いても知らないと思う……環境タイムス社」   西川「環境? いいじゃないか。時代にあってる」   哲也「環境タイムスといっても、中身は産廃です」   西川「(驚き)産廃? おまえ、そっちの記者やるのか、よし、何か面白いネタあったら教えろ。      俺、いま、報道二十一世紀っていうニュース番組の担当なんだ」   哲也「地味なもんですよ。それに、まだ入ったばっかだし」   西川「砒素とかで地下水汚染とか、発がん物質の土壌汚染とか、とにかく、えぐいやつ、頼むぞ」   哲也「無茶言わないでください」 ■環境タイムス社フロア(日替わり)      できたばかりの環境タイムス。      哲也、広げる。      ××工業の記事。      哲也、じっと見入っている。笑みがこぼれる。 ■同・外      出てきた哲也、携帯電話をかける。   哲也「(浮き浮きとして)哲也だけど。俺の書いた記事がさ、新聞に載ったよ。会社が出してる      新聞。家に送るから、みんなで見てよッ」      と、切る。また、かける。   哲也「俺、哲也だけど……仕事中だった? 悪い……俺の書いた記事がさあ(笑みがこぼれる)」 ■走るタクシー・中      征司、哲也。      哲也、ノートを取り出し、書いている。   征司「初めてのインタビューだから、緊張するかもしれないが、思い切ってやってみろ」   哲也「何を聞けば?」   征司「埋め立て処分場の現場に光をあてるというのが今度のテーマだ」 ■××興産・応接室      テーブルをはさんで社長と哲也、征司が対面している。      哲也、ICレコーダーをテーブルの上に置き、スイッチを入れる。   哲也「……インタビューを始めます。御社の創業当時のお話から聞かせてください」   社長「もともと、養豚場をやっていたので」      哲也、メモを取っている。      征司、カメラを構え、撮影する。 ■ごみ埋め立て処分場      征司、哲也、社長、やってくる。      社長、しゃがむと、シートの表面にさわり   社長「このシートの上に埋めるんだ。でも、こんなやわなものじゃすぐに破れて、      汚れた水が染み出るんじゃないかって言われる、だから、厚くしてるし、付近住民が      いつでも見られるようにしてる、つまり、隠し事はしないってことだ」   哲也「住民には気を使うと?」   社長「結局、迷惑施設だからね。本音じゃ、こんな施設ないほうがいいってみんな思ってる。      そんな中で商売させてもらうわけだから、一番大事なのは信頼関係。日ごろからの      付き合いも手が抜けない。清掃だ、防災訓練だ、なんでも参加する。少しでもこちらの      気持ちがわかってもらえるように」   哲也「(胸打たれ)……」   社長「……つくるのも大変だけど、続けるのも大変。それに埋め立てが終わったあとも、環境に      影響があるかどうか監視しなくちゃならない。儲かるときは儲かるけど、ま、楽な仕事じゃない」      哲也、夢中でメモを取っている。      征司、社長の顔写真を撮影。 ■環境タイムス社・フロア      夜。哲也、征司だけ。      哲也、録音を聞きながら、パソコン画面で記事を書いている。      征司、来て、記事原稿を置く。   征司「よく書けてる、いいじゃないか……(怪訝)書き直してるのか」   哲也「なんか感動しちゃって、社長の話、もっとうまく伝えられないもんですかね」   征司「それで、また録音を聞き直してるのか。どこの処分場でも、ああいう話はつきものさ」   哲也「そうなんですか。でも、なんだか申し訳ない気持ちになります。こういう人たちがいるから、      環境が守られてるんだって」   征司「産廃業界が好きになれそうか?」   哲也「そんな気分になってきました……」   征司「その調子だ。いい記者になるためには、業界を好きになることが一番の早道だ」   哲也「(頷いて)」 ■環境タイムス      一面の半分を使った記事。      その見出し。     「処理施設最前線」     「××興産 社長 ××××氏」     「住民との信頼関係が第一」     「一貫して情報公開にも努力」      を読んでいる哲也。      環境タイムス社フロア。      営業部の岩瀬正樹(45)、来て   岩瀬「こういう記事載せるなら、前もって言ってくれなきゃ。広告出してくれたかも。      もったいない、最高のちょうちん記事なのに」   哲也「(ぽかんとして)ちょうちん?」      征司、来る。   征司「(岩瀬に)何か?」   岩瀬「こちらの新人さんが書いた記事、いいんだけど、広告と連動させてたらと思ってね」   征司「彼はまだ、入ったばかりだ」   岩瀬「でも、どうせ、経験するんだから」      と、行ってしまう。   哲也「(征司に)ちょうちんって何ですか」   征司「金をもらって、書く記事。記事というより、PRだな。持ち上げるから、      ちょうちんっていう……」   哲也「(まだ混乱して)」   征司「読者からメールが来てた。君が書いた記事がよかったって。参考になるから、      コピーして使わせもらうって」   哲也「(瞳を輝かせ)え、ホントですか」      征司、メール文書を印字したものをわたす。   征司「匿名だけど……」      哲也、見て、喜びが湧き上がり   哲也「やった!」 ■居酒屋・中(夜)      征司、哲也、ジョッキを持ち上げ   征司「乾杯。読者の絶賛コメントに」   哲也「(にこにこと)先輩のおかげです」      征司、哲也、乾杯、飲み干す。   征司「どう? 産廃の記者、面白いか?」   哲也「記事を書くのは、楽しいです」   征司「給料は安いかもしれにないが、それもやり方次第」   哲也「とりあえず、書く仕事につけたので」   征司「だったら、いい」   哲也「今尾さんみたいに、講演してお金もらうとか、そういうことですか?」   征司「ま、いい。もう少ししたら教えてやる」   哲也「はい」 ■環境タイムス社フロア(日替わり)      哲也、出かけていく。   哲也「いってきます」      征司、見送る。      長妻、怖いような顔で来る。   長妻「ちょっと奥へ」      征司、立ち上がり、行く。 ■同社・応接室・中   長妻「佐々木君、どうかな。特に問題はないようだが」   征司「取材のアポもだんだん取れてますし、記事も書けるようになって、もっと      本数こなせば……」   征司「文章はいいんですがね……」   長妻「うちは文才のある記者なんかいらない。営業もできる、マルチな記者が      欲しいんだ。佐々木君、営業、できるかな」   征司「営業ですか」   長妻「実は迷っててね……試用期間延長にしようかと」   征司「(驚き)そりゃきついですよ」   長妻「正社員にしたら、厄介だぞ。簡単に解雇できなくなる……」   征司「でも、そんなこと言われたら」   長妻「怒って辞めるかもしれん。でも、それならそれで、また募集する」      と、出ていく。      征司、何か考えている。 ■走るタクシーの中(日替わり)      乗っている征司、哲也。   征司「藤川産業さんが、焼却灰のリサイクル事業を拡大する。それを記事にして、      広告をお願いする」   哲也「ちょうちんみたい。いやだな」   征司「(眼をむいて)君の首が、かかってる」   哲也「(仰天)え!」   征司「このままだと、試用期間延長にするそうだ。ったく、うちの編集長も何考えてるんだか。      君の文章があんまり上手いんで、嫉妬してるのかな(と笑う)」   哲也「でも、いいんですか。僕が営業して、今尾さんのお客さんじゃ?」   征司「気にするな」   哲也「今尾さん、どうして、よくしてくれるんですか……」   征司「さあね……昔の自分を見てるような気がするからかな……」 ■藤川産業      産廃処理施設。      タクシー、来て、入る。 ■同社・応接室      征司、哲也、待っている。      社長の藤川が入ってくる。      征司、哲也、さっと立ち上がり   藤川「(哲也に名刺をわたし)はじめまして、いつも今尾さんにはお世話になって」   哲也「よろしくお願いします」      と、頭を下げる。 ■同社・工場      藤川、哲也、征司。     「焼却灰リサイクル施設」の表示。      一同、奥に入っていく。   藤川「焼却灰を特殊加工して砂にする、で有効利用する。埋め立て料金と同じ値段で、      リサイクルできるというのがセールスポイント。今尾さんのほうが詳しいと      思うんだけど」      哲也、メモを取っている。 ■同社・応接室      哲也、緊張した表情で藤川に   哲也「社長、実は、お願いが」      と、資料をテーブルの上に置く。      藤川、見る。     「広告料金表」。   哲也「今回、大きく取り上げますで、広告のほう、よろしくお願いします」   藤川「サイズは……」   哲也「ぜ、全面でお願いします」   藤川「いいだろ」      哲也、急いで申込書を取り出す。      藤川、署名し、金額を書き込む。     「90万円」      哲也、笑みがこぼれる。 ■環境タイムス紙面      藤川産業の記事。      プラントの大きな写真。      その見出し。     「リサイクル最前線」     「焼却灰を低コストでリサイクル」     「処理コスト半減でdあたり1万円」 ■環境タイムス社フロア      長妻、哲也に「辞令」を渡すと   長妻「今日から正社員だ。一層頑張って欲しい」      哲也、緊張した表情で受け取る。      ■同社・付近の道      征司、やってくる。      哲也、追いかけてきて   哲也「今尾さん」   征司「よかったな。これで俺の仕事は終わった」   哲也「これからもよろしくお願いします」      と、頭を下げる。 ■征司のマンション・表(日替わり)      日曜日。      普段着の哲也、千秋、やってくる。      手には菓子折り。      千秋、マンションを見上げて   千秋「(驚き)ここ?」   哲也「どうした?」   千秋「高そう……」   哲也「先輩、稼ぎがいいらしい。給料はそう変わらないはずなんだけど」   千秋「哲也も見習って」 ■同・部屋・表      哲也、千秋、呼び鈴を鳴らす。      ドアが開く。      征司、迎えて   征司「すぐわかった? 入って」      哲也、千秋、入る。 ■同・中      哲也、千秋、入ってきて朝子にあいさつ。      哲也、菓子折りを渡す。      朝子、菓子折りを加奈へ。      嬉しそうな加奈。   征司「座って、座って」      哲也、千秋、座ろうとする。      千秋、窓の外の景色に気づく。      海が見える。      千秋、窓際へ。   千秋「(見とれて)……」   哲也「いいところだ」   千秋「哲也も住めるようになる? こんなところ」   哲也「……」      ×   ×   ×      征司、朝子、哲也、千秋、加奈、食事している。   朝子「聞いていい、きっかけって?」   千秋「別に。大学でゼミが一緒だったので」   朝子「私達と同じ」   征司「腐れ縁」   朝子「ひどい」      一同、笑う。   征司「二人は、将来?」   哲也「まだ」   征司「自分のことで精いっぱいか」   千秋「子どもなんですよ」   哲也「何言ってんだよ」   千秋「ほら、すぐ怒る」   哲也「(腐る)」   征司「男は仕事と家庭だっていうが、もう一つ大事なものが抜けてる……」   哲也「何ですか……」   征司「金だよ。現実の稼ぎさ。それがなきゃ惨めなもんだ」   千秋「でも、こんないいお宅で」   朝子「うちの人、要領がいいから」   征司「人聞き悪い」 ■環境タイムス社・会議室(日替わり)      長妻、征司、岩瀬、高津。   長妻「夏季特集号の会議を始める。佐々木君は?」   征司「いま、コピー中。提案したいことがあるそうで」      入ってきた哲也、コピーを配布していく。      征司、題名を見る。     「特集企画書 焼却灰リサイクル事業」      征司、一瞬、険しい色が浮かぶ。哲也を睨むように見る。      哲也、気づかない。   哲也「この間、藤川産業さんの焼却灰のリサイクル事業を取材して、自分でも、      何社か回ってみたんです。で、全国で色々な施設が動いているみたいで      施設マップみたいな感じで紹介したら、料金を一覧表でまとめたり」   征司「ちょっと待ってくれ。この分野は俺の取材先とダブる。できればほかのテーマに      してくれ」   哲也「でも、この分野、めちゃくちゃ面白いと思って、すっごく、モチベーション上がって。      やりたいんです」   征司「しかし」   哲也「(熱っぽく)やりたいんです、是非、お願いします」   長妻「(征司に)君はこんな提案しなかったじゃないか。(高津に)君の意見は?」   高津「いいと思います……。まだうちの新聞に広告を出していない企業さんがいそうで、      営業面でも期待、大ですね」   岩瀬「(頷いて)そのとおり。(征司に)ベテラン記者さんなら、ほかにいくらでも、      ネタがあるでしょう。この際」   哲也「今尾さん、僕にください。藤川産業さんにもまた取材に行きたいし」   征司「(黙り込む)」   長妻「(やや呆れ)潔く、新人に譲ったらどうだ。それも、先輩としての度量じゃないか」   征司「ほかのことならともかく……」   哲也「今尾さん……」   征司「(哲也に)なぜ相談してくれない?」   哲也「すいません」   征司「もういい。とにかく、今回限りにしてくれ」      征司、立ち上がり、出ていく。      哲也、呆然としている。      高津、哲也のもとへ   高津「なんで、また?」   哲也「広告とると、奨励金が出るって聞いたから。ちょっと稼ごうと」   高津「(呆れて)別に、食べるのに困るってわけでもないだろ」   哲也「(落ち込んで)バカだ、俺。今尾さんを怒らせちゃった……」 ■藤川産業・オフィス      藤川、電話で話している。   藤川「先週、佐々木君から連絡あってね、焼却灰の特集やりたいって、うちの      施設のことだけ書いてくれたらいいんだけどね」 ■道路      歩きながら、携帯電話で話している征司。   征司「すいません、駆け出しの新人ですから、大目にみてやってください……      ともかく、社長に迷惑がかからないようにします」 ■環境タイムス社フロア      征司、資料を読んでいる。      哲也、来て   哲也「この前は、すいませんでした」   征司「もういいさ。君に任せる」   哲也「でも」   征司「編集長にいうとおり。潔く後輩に譲る。いい記事書いてくれ」   哲也「(恐縮して)……」 ■××開発・応接室   哲也、高津、工場長と話している。  工場長「焼却灰のリサイクルといっても、要は、コスト。トンあたりいくらか」   哲也「御社はどのくらいで」  工場長「うちは、高い。自社グループ内で出る焼却灰を処理するのがメインだからね」 ■××実業・応接室      哲也、高津、工場長と話している。  工場長「受け入れ料金、うちも安くしてるけど、あんまりお客を増やすつもりが      ないんだ、能力的にも大きくないしね」   高津「広告のほうはいかがですか?」  工場長「お付き合いで出してもいいよ。こういう企画はおたくの新聞でなきゃ、やれないしね」 ■××建材・応接室      哲也、高津、工場長と話している。   哲也「色々な業者さんを回っていますが、県内は、藤川産業さんの施設で決まってきてる      ようです」 工場長「トンあたり一万円以下だもの。でも、よくあの値段でできると思うよ。一度中身を     見てみたい」   哲也「それが、技術だと思いますけど」  工場長「そう? 何か誤魔化しがあるような気がするんだけどね」   哲也「誤魔化し?」  工場長「実はね、グリーンサンドは粗悪品で、有害なんだけど、分析会社がデータを誤魔化      しているって噂がある。真偽のほどは知らないけど」   哲也「どういうことですか?」  工場長「あくまでうわさだけど、藤川産業が分析会社の連中を買収してるって」   哲也「事実なら大問題です」  工場長「実際、事実かどうかなんてどうでもいいんだけどね、とにかく、あまりに安値って      いうのはよくないんだってこと、裏に何かあるってイメージもたれちゃうってこと、      環境タイムスさんもたまにはそういうこと書いてくれるとね」   哲也「……」 ■居酒屋・中(夜)      哲也、高津、飲んでいる。   哲也「分析会社のデータ改ざんの件、本当かな」   高津「有害なものを無害にしてリサイクルしたというのは嘘で、偽装だと? ……まともに      聞く話じゃない」   哲也「(食って掛かり)なんで?」   高津「珍しくもないさ。要は嫉妬さ。藤川産業への、県内じゃ独占だもの」   哲也「……」 ■川辺分析・表      小さなラボラトリー。      看板が出ている。 ■同社・オフィス      十数名の社員が働いている。      その一角。若林幸一(26)、カバンを持って部長の片橋宗雄(43)の席へ来る。   若林「(頭を下げ)お世話に、なりました」   片橋「今日までか」   若林「部長には、色々ご迷惑を」   片橋「(厳しい表情で)証拠もなく、騒ぎ立てるのはやめたほうがいい。損するのは君だ」   若林「(固い表情で)失礼します」      若林、出ていく。   片橋「(周囲に向き直り)ったく、辛気臭いやつだった。やめてくれて、ほっとしたよ……」    ■若林の部屋・中      若林、パソコンを打っている。      その画面。     「エコ製品のグリーンサンドはインチキ。環境に有害な欠陥品だ。分析会社を買収し、      組織ぐるみで隠蔽工作をしている。調べてください」      若林、印字する。      大きな文字で目立つように―― ■コンビニエンスストア・中      若林、ファックスを操作している。      先ほど印字した紙を送っている。 ■××県庁・表      八階建ての建物。      ××県庁の看板。 ■同・産廃対策課フロア      ファックスから文書が出てくる。      課員、通り過ぎる。 ■環境タイムス社フロア      ファックスが出てくる。      文書の内容は同じ。      哲也、やってくる。      哲也、読む。      哲也の表情がみるみる強張って。      征司の席。      哲也、征司に渡す。      征司、見て、あっと息を飲む。      しばし厳しい表情で見つめているが、次第に冷静さを取り戻す。   征司「暇な奴がいる。でも、それだけ、業界に敵が多いってことだろう」   哲也「(驚いて)これも、やっかみですか」   征司「こういうことして、喜ぶ連中はいるものさ。それに、差出人不明。どうみても怪しい」   哲也「でも、会社の不正行為は、内部のリークで発覚するケースが多いそうです。これだって」   征司「内部告発だから正しいともいえない。会社への逆恨みってこともある」   哲也「でも」   征司「たかがファックス一枚、そんなにむきにならなくても」   哲也「……」      長妻、やってくる。   長妻「なんだ、どうした」      征司、ファックスをわたす。      長妻、ファックスを受け取り、読む。      哲也、食い入るような目で長妻を見る。   長妻「かまわん、放っとけ」   哲也「(衝撃)そんな」   長妻「こんな業界のあらさがしなどして、何の意味がある。結局、損するのは誰だ?      業界だ、そして、うちの会社だ」   哲也「じゃ、腐ったままでいいと」   長妻「やりたければやれッ。でも、通常業務と違う以上、勤務時間外でやってもらおう。      それに、そんな記事を書いても、掲載はしない」   哲也「(征司に)今尾さん、何とか言ってください」   征司「まあ、落ち着け」   哲也「こんなの間違ってるッ」   長妻「ちょっと記事書いたからって、いい気になるんじゃない。いやなら、やめて      もらっていいんだぞ。いくらでも代わりはいるんだッ」   哲也「……」      長妻、傲然と行く。      征司、哲也に温和に   征司「編集長が言ったこと、気にするな。とにかく、冷静になれ……いいな」      哲也、何か言おうとする。      去って行く征司。 ■レストラン・中      哲也、憤慨した様子で千秋に   哲也「どうして、放っとくんだろう」   千秋「よくわからないけど、いろいろ事情があるんじゃない」   哲也「俺がおかしいのかな」   千秋「そうは思わないけど、哲也はなんで、そんなに気になるの」   哲也「なんでって」   千秋「哲也のそういうまっすぐなところ、好きだけど、でも、世の中、      それだけじゃ通らないんじゃない?」   哲也「性格の問題じゃない」   千秋「でも、本当かどうかわからないのよ」   哲也「だから、究明するんだ。千秋にはわからないかな。俺の親父は、      地方紙の記者だった。役所の汚職を暴いて、名前を残した」   千秋「哲也がマスコミに出したら。西川さんに連絡取って」   哲也「(はっとなり)そうか、それがあった。でも、だめだ」   千秋「どうして?」   哲也「今のままじゃ。根拠はファックス一枚。誰が送ってきたかもわからない。      せめて、本人とコンタクト取れれば」   千秋「全然無理じゃない」   哲也「(苦しげな表情)……」 ■県庁・産廃対策課・会議室・中      課長の清水、係長の佐山、主査の長嶋が机に座っている。      中央には告発ファックス。   清水「(不機嫌そうに見て)困るよなあ」   佐山「このファックス、今回が初めてじゃないらしいです」   清水「じゃ、いつから?」   佐山「先週も何枚か。誰も腫れ物に触るみたいに放っておいて報告しなかった      みたい。今回私が気づいたんで」   清水「気づいてくれて、礼を言うよ」   長嶋「調べますか? 役所にこんなファックスが来たけど、おたくは大丈夫ですかって」   佐山「そりゃ変だ……」   清水「……あと2カ月で異動になるんだよ、わかるかい、こんなものに関わっている      暇があると思う?」   佐山「……」   長嶋「怪文書ですしね。悪質な悪戯かも……」   清水「よし、こうしよう。これは来なかった、だから、誰も見なかった……」   長嶋「……」   佐山「……」   清水「シュレッダーにかけて」      と、佐山に投げるように渡す。 ■哲也の部屋・中(深夜)      哲也、ノートパソコンに向かっている。      ネット検索をしている。     「川辺分析」「焼却灰」「データ改ざん」      を打ち込み、エンターキーを押す。      一つをクリック、2ちゃんねるのサイトが出る。      哲也、クリックし、中を見ている。      ×   ×   ×      疲れた表情で画面を閉じる哲也。      ごろりと寝転がる。   哲也「……だめか」 ■藤川産業・オフィス      哲也、藤川、話している。   哲也「××県の焼却灰リサイクルは、御社の施設がかなりのシェアを占めていると      いう感じですが?」   藤川「埋め立てより安い料金で引き取ってリサイクルするんだから、他社さんに負ける      わけない。うちの悪口流して妨害してるのもいるけどね。こっちは横綱相撲、      眼中にない」   哲也「見せるかどうか迷ったんですけど、これが弊社に」      哲也、ファックスのコピーを藤川に見せる。      藤川、見る。      一瞬、ぽかんとなる。   藤川「なんだ、これは。バカバカしい」   哲也「なぜですか?」   藤川「根も葉もないでたらめだ。しょうがない連中だ」   哲也「確かですね」   藤川「分析会社を買収? 冗談じゃない、うちはそんなことしてない。困るね。      こんなもの真に受けちゃ」   哲也「では、なんでこんなものが」   藤川「知るわけないだろう。な、こんなことにあんまり首突っ込まないほうがいいぞ。      でないと、東京湾に埋められちまう」   哲也「(驚いて)冗談はやめてください」   藤川「冗談じゃないさ」   哲也「(見返して)」 ■市民ホール・玄関      看板。     「シンポジウム」     「暮らしと産業廃棄物を考える」      やってくる若林、中へ入る。 ■同・ホール内      シンポジウムが行われている。      入ってくる若林。      空いている前の席へ。      前の席。      哲也、話を聞きながら、メモを取っている。      若林、一つ置いて座る。      哲也、ちらりと見るが、すぐ手元の資料に目を落とす。      若林、壇上のパネリストを見ている。     「××県産業廃棄物対策課係長                 佐山茂」      佐山が座っている。      若林の目が鋭い光を帯びる。      ×   ×   ×   司会「会場の皆さんから、パネリストに何かご質問がございましたら……」      一同、静か。      若林、手を上げる。      マイク係が来て、若林にわたす。   若林「焼却灰のリサイクル品が県でもいくつか認定されてます。安全性に問題は      ないですか、その辺、どうですか」      哲也、はっとなって若林の顔を見る。   佐山「品質でも安全面でも問題ありません」   若林「でも、チェックは? どうなってます?」   佐山「定期的に監視、指導などを行っております」   若林「抜き打ちで?」   佐山「抜き打ちのときもあります」   若林「嘘だ。時間と場所を知らせて、そのときだけ、形式化しているはずだ」   佐山「そんなことは、ありません」      若林、きっと見返す。      マイク係が来て、奪うようにマイクを取る。      若林、悔しそうな表情を浮かべる。      と、食い入るように、若林を見ている哲也。      若林、視線に気づき、振り向いた。      哲也、反射的に目をそらす。      若林、不審そうに見る――。      哲也、振り向く。      若林はいない。      哲也、あわてて出口のほうを探すように見る。      出ていこうとする若林。      哲也、追いかけていく。 ■同・ロビー      哲也、出てくる。      誰もいない。      哲也、残念そうな表情。      と、トイレから出てくる若林。      哲也、近づいて   哲也「さっき、会場にいましたね?」   若林「そちらは?」   哲也「環境タイムスの記者です」   若林「何か用ですか」   哲也「先ほどの質問に興味があって」   若林「灰のこと? 安全なんて嘘だよ」      と、行ってしまう。   哲也「ちょっと」      若林、ゆっくりと外へ出る。      やってきた佐山、哲也に   佐山「彼の知り合い?」   哲也「環境タイムスです」   佐山「……彼が言ったこと、本当かもな」      哲也、驚くが、若林が気になり、追って出る。   佐山「……」 ■付近の道路      哲也、若林から離れないよう歩きながら   哲也「話を、聞かせてもらえませんか」   若林「(振り向かず)嫌だ」   哲也「でも、さっき、あなたの話やことは、とても重要なことでしょう」   若林「すごくね」   哲也「話してもらえませんか」   若林「君が記者? 話したら記事にする?」   哲也「……それは」   若林「どうせ、しない」      と、いきなり走り出す。      哲也、虚を突かれる、慌てて追いかける。      街角。      走ってくる若林。      追ってくる哲也。      ×   ×   ×      人ごみの中。      若林、早足で押し入って進む。      哲也、必死で追う。      ×   ×   ×      公園。      若林、来る。      哲也、来て、腕をつかみ   哲也「なんで、逃げる?」   若林「逃げてない……」   哲也「じゃ、話聞かせろ」      若林、哲也の手を振り切り、走り出す。      哲也、いらだつ。追う。      ×   ×   ×      人ごみの中。      若林、早足で押し入って進む。      若林の表情、どこか虚ろ。      哲也、必死で追う。      ×   ×   ×      街中。      コーヒーショップがある。      追いかけてきた哲也、あたりを探す。      若林の姿はない。      と、コーヒーショップの中を見る。      若林、列に並んでいる。      哲也、見る。      若林、振り返り、笑う。お茶を飲むしぐさをする。哲也を誘っているようだ。      哲也、醒めた表情でゆっくり中へ。 ■コーヒーショップ・中      哲也、若林、コーヒーを飲んでいる。   哲也「さっき話していたこと、焼却灰のリサイクルについて不正があったって、      うちの会社にファックスが来た」   若林「届いてたのか。じゃ君は?」   哲也「環境タイムスの記者、佐々木。ファックスの中身は本当か」   若林「もちろん」   哲也「じゃ、君が言ってることが本当だと証明できるものがある? たとえば、      書類とか写真とか」   若林「そんなもの、ないよ」   哲也「(驚き)え」   若林「うちの会社が不正をしていたのは事実だ。僕はやってないけど、片橋部長が      話しているのを聞いた。藤川産業のグリーンサンド、あれは有害な粗悪品なんだ」   哲也「そいつがデータ改ざんを指示した?」   若林「藤川産業だけじゃない。ほかにも」   哲也「(驚き)ほかにも?」   若林「そんなこと、やめたほうがいいって言ったんだ、でも、誰も聞いてくれなかった」   哲也「待ってくれ。ほかにもって、グリーンサンド以外にもってこと?」   若林「詳しいことはわからない。でも、グリーンサンドって名前は言ってた。電話で      誰かと話してた」   哲也「(考えて)」   若林「僕の話、信じるの、信じないの」   哲也「信じたい……証言は、できる?」   若林「たぶん……」   哲也「マスコミの前で」   若林「できるさ。でも、ホントは忘れたいんだ、新しい仕事も見つけたいし……でも、      僕は、間違ってない。だから妥協したくない」   哲也「(哀れになり)……」 ■環境タイムス社フロア(日替わり)      征司の席。      哲也、征司、話している。   哲也「どう思います」   征司「(呆れた様子で)例のファックス、まだこだわってたとは。藤川社長にも      見せたんだって、電話が来たぞ」   哲也「嘘とは思えないんです」   征司「藤川社長は買収なんてしてない、そう言ってるぞ」   哲也「藤川社長の言うことだけ、信じるんですか」   征司「君こそ彼の言うことだけ信じているじゃないか?」   哲也「だから、真実を知りたいんです」   征司「君はまだ入ったばかりだ。産廃業界のことなんか何も知らない。業者といっても      ピンきりだ。不法投棄を恥とも思わない連中だっている。藤川産業はましなほうさ。      ただ、敵が多い」   哲也「あくまで嫌がらせだと?」   征司「あの社長のことなら、俺が一番よく知ってる。強面だから誤解されやすいが、      中身は違う。世間にさんざんいじめられ、苦労してきた人だ。灰を埋め立てずに      リサイクルできれ処分場はまだまだ長く使える。グリーンサンドは画期的な製品なんだよ」   哲也「(驚いて)……」 ■歩道橋      哲也、千秋、橋のたもとにもたれている。   哲也「(じっと考えていたが)決めた。マスコミに知らせる」   千秋「バカなことしないで」   哲也「(驚き)でも、この前は?」   千秋「この前はこの前。取り消す。なんか怖くなってきた」   哲也「勝手だなッ、俺は嫌だ。悪い連中の手先になるのなんてごめんだ」   千秋「……」 ■環境タイムス社フロア      征司、哲也、話している。   征司「マスコミに?」   哲也「大学の先輩がテレビの製作会社にいて」   征司「(唸る)しかし、証拠が」   哲也「本人が証言します」   征司「その彼に、会わせてくれ。直に話を聞きたい」   哲也「じゃあ、味方になってくれるんですか」   征司「会ってからだ」 ■歩行者天国(日替わり)      普段着の哲也、立っている。      サングラスにマスクをかけた若林、ちょっと異様な雰囲気を漂わせた風体でやってくる。   若林「(後ろを振り返りながら)尾行されてないかな?」   哲也「君が、なぜ?」   若林「いろいろ妨害が来てる。ブログで書きまくってるから」   哲也「君のブログってそんなに知られてるのかな」   若林「疑うの?」   哲也「……とにかく、ここじゃ、話ができない」      哲也、若林を促し、歩き出す。 ■コーヒーショップ・中      人が混んでいる。喧騒。      哲也、若林。   哲也「マスコミに話そう。君が証言するんだ。俺の大学のゼミ先輩が、テレビ番組の製作の      仕事をしている。二十一世紀報道って番組」   若林「知ってる。よく見てる」   哲也「その前に、僕の上司が話したいと言ってる」   若林「誰?」   哲也「環境タイムスの記者だ。でも、いい人だ、信用できる」   若林「急にずるいぞ(ふっと暗い表情になる)……なんか、気分が悪い……」   哲也「大丈夫か」   若林「薬を飲むと、こうなる。うつの……」   哲也「原因は、やっぱり今度の?」   若林「医者はストレスだっていう。過剰なストレス」   哲也「会社のせいか」   若林「ほかに考えられる?」   哲也「ひどいな」      若林、ふっと笑顔になる。      征司、来る。   征司「(見据え)川辺分析にいた、若林さん?」   若林「そうだけど」   征司「話を聞く前に、ちょっと確かめたい」   哲也「(戸惑い)今尾さん」   征司「君には、会社の資料を、勝手に持ち出してたって疑いがある」   若林「嘘だ」   征司「君は、最初から会社で浮いてた。異端児だった。だから、面白くなかった」   若林「違う」   征司「実際の試験にも関わってない。データ改ざんなんてわかる場所にもいなかった。      下っ端なんだから。全部、でたらめだ。そうだろう?」      若林、立ち上がり、出ていく。   哲也「今尾さん。こんなやり方って。彼は僕を信用していたのに」   征司「あいつと付き合うな。いかれてるぞ」   哲也「そんなありません」   征司「手を引け。最後の忠告だ」   哲也「(困惑して)……」 ■ある製作会社・表      哲也、若林、来る。   哲也「この間は悪かった。今日は僕らだけだ。言いたいこと、言ってくれ」   若林「……」 ■同社・会議室・中      西川、哲也、若林。   西川「つまり、話をまとめると、環境に有害な悪質なリサイクルが横行している、      それができるのは、リサイクル会社の人間が分析会社に出向しているからだと」   哲也「彼はその会社に」   西川「君はそれを見たのか」   若林「見たわけじゃない。でも、実際に検査をしている人が話しているのを聞いた」   西川「それだけか」   哲也「でも、わざわざこんな嘘つきますか」   西川「たぶん、事実だろう。でも、たぶんとか、おそらくとかじゃ困るんだ」   若林「やっぱり、証拠?」   西川「上に掛け合ってみるが……たぶん、これじゃ放送は無理だ」 ■付近の道路      哲也、若林、歩いている。   哲也「ごめん、期待に添えなくて」   若林「君は、悪くない。君の先輩も」   哲也「思ったんだけど、いつまでも、この件に関わっても、忘れろとは言わないけど、      就職してやり直したら」   若林「なんで急に」   哲也「君、病気なんだろ。まず、それを直すほうが先決じゃないか」   若林「じゃ、この問題は、おしまいってこと?」   哲也「そうじゃない。でも、時間がかかりそうだし、君だってこのままいつまでもって      わけにはいかないだろう」   若林「そうか。僕が薬飲んでるなんて言ったから、心配してくれて?」   哲也「僕の従兄弟が……そうだった。だから、他人事じゃない気がして」   若林「君っていい人だ……よかった」   哲也「悔しいが、手を引いたほうがいい。これ以上は」   若林「見せたいものがある」   哲也「?」 ■山の中の道      走ってくる車。      若林、運転している。      助手席に哲也。 ■廃工場・前      荒れ果てた様子。      若林の車、中へ入る。 ■同・場内      車、止まる。      降りてくる若林、哲也。   哲也「ここは? 誰もいないの?」   若林「廃業した産廃の施設。今は建物だけ残ってる」      と、建物の中へ。      哲也、続いていく。      建物の内部。      袋に入ったグリーンサンドが積まれている。      哲也、来て、眼を見張る。   若林「本物だ。これを調べれば」   哲也「(怒り)なんで? なんでいままで、黙ってたんだ」   若林「君が、本当に信用できるかどうか、わからなかった」   哲也「そんな」   若林「僕には喘息もちの姉さんがいる。僕らは、ごみ焼却場の近くで育った。      有害な灰が空気を汚したから、姉さんは……だから、僕は」   哲也「……」   若林「ここにあるものを調べれば」 ■環境タイムス社・中(夜)      征司、哲也のパソコンを調べている。      ファイルやメールをチェックしている。   征司「……」    ■同社・表      征司、立っている。      哲也、やってくる。   征司「飯でも食べないか」   哲也「……」 ■寿司屋・中      征司、哲也、入ってくる。   哲也「若林君のことならもう、気にしてません」   征司「彼は(胸を指し)の病気らしい、会社をやめたのもそれだ」   哲也「どうしてそれを?」   征司「調べたんだ。医者に通いながら、仕事をしてた。ところが、よくなったと      言われて、薬の量を減らしてしまった。そしたら再発して」   哲也「(眼をむいて)まさか」   征司「ホントさ。だから、一連の騒ぎは、彼の狂言かもしれん。俺はそう思ってる」   哲也「彼がどんな人であろうと、証拠が出て期やら、関係ないと思います」   征司「証拠?」   哲也「グリーンサンドの現物です」   征司「手に入れたのか」   哲也「彼が保管してました。でも、場所は言えません。彼と約束しましたので、      今尾さんにだけは教えないでくれと」   征司「でも、どうするんだ。ただ、持っているだけでは役に立たない」   哲也「だから、それを今考えてるところで」   征司「俺が引き受ける」   哲也「え?」   征司「分析会社に知り合いがいる。調べさせるよ、協力する」   哲也「(笑みが拡がり)ホントですか。いつかそう言ってくれるんじゃないかって」   征司「先輩、後輩の仲じゃないか……」    ■廃工場・外      トラック、やってくる。      中へ入る。 ■同・内部      袋入りのグリーンサンド。      トラック、止まり、男達が出てくる。      その中に、片橋がいる。      グリーンサンドを積み込んでいく。   片橋「よし、これで全部。(憎らしげに)ったく、あの野郎。とんでもない奴だ」      一同、トラックに乗り込み、出る。 ■同・外      数時間後。      車、来る。      哲也、若林、乗っている。      車、止まる。哲也、若林、降りる。      二人、中へ入る。 ■同・内部      やってきた哲也、若林。   哲也「(眼を見張り)ない!」   若林「……誰かに話した?」   哲也「(青くなり)……」 ■環境タイムス社フロア(数日後)      哲也、席に座っている。      哲也、ぼんやりしている。      征司、来て   征司「週末、暇?」   哲也「……」   征司「焼き肉やるんだけど、来ないか」   哲也「(きっと見上げ)それどころじゃない」   征司「気持ちは分かる、でも、持ってかれちまったんだ。仕方ない」   哲也「(悔しさにじませ)……」 ■鉄板の上で焼かれる肉      征司のアパートの居間。      征司、哲也、朝子、加奈が焼き肉を食べている。      哲也、黙々と食べている。      征司、にやにやしながら見て   征司「どうだ、美味いか」   哲也「(あえて不機嫌に)腹減ってますから」   征司「国産の和牛だ。ただし、肥料は食品残さ、つまり、食品廃棄物をたい肥にしたもの」   哲也「(思わず見る)」   征司「でも、消費者には明かしてない。食品廃棄物が肥料だって言ったら、イメージダウンに      なるからだ。行政も企業もみな環境に取り組む、リサイクルと口で言う。でも、それが      現状だ」   哲也「リサイクルでも、環境に有害じゃ、しょうがないでしょう」   征司「その件なら、もう忘れろ」   哲也「無理です」   朝子「(二人を見渡し)ちょっと、仕事の話ならあとでして」   征司「ごみ処理やリサイクルなんて誰もまともに考えてやしない、実際は安かろう悪かろうが      まかり通っている。そんな劣悪な状況で精いっぱい努力しているのが産廃業者なんだ」   哲也「それは、まともな業者の話でしょう。分析会社を買収して、粗悪品を売りつける藤川産業の      ような業者は悪徳業者です。そんなのは、業界から排除されるべきだと思いませんか?」   征司「(きっと見据え)そんなこと言ってると、排除されるのは君かもしれん」   哲也「(はっとなり)どういう意味です」   朝子「(迷惑そうに)もういい加減にして!」   征司「やめよう。こんな話」   哲也「(真顔で見据え)あの場所、藤川産業に教えましたね?」   征司「(見返し)教えるわけない」   哲也「(鋭く見据え)ご馳走様でした」      と、立ち上がり、出ていく。 ■藤川産業・オフィス      藤川、征司、話している。   藤川「例の新人記者、佐々木っていったな、今日、来てもらうことにした」   征司「ここに?」   藤川「もうすぐ来るはずだ」   征司「私が一緒にいるのは、まずいですね」   藤川「いや、ここにいて、あいつにいってやれ」   征司「会社の後輩です。青臭いところがあるが、見所もある。それに、私を慕ってます」   藤川「だから、先輩として心得を教えてやらなくちゃ」   征司「社長と一緒では、言えません」   藤川「じゃ、その後輩になめられたままでいいのか」   征司「どうせ何もできやしません」      と、征司、出ていく。      藤川、不審そうな目で睨みつけ   藤川「一緒だと思われたくないってわけか」 ■同社・裏口      出ていく征司。 ■同社・表      やってくる哲也。      哲也、カバンの中からICレコーダーを取り出し、胸ポケットへ入れる。      哲也、中へ入る。 ■同社・オフィス      哲也、来る。      藤川、迎えて   哲也「話って何です」   藤川「決まってる。グリーンサンドだ。なんでだ、なんでけちつけるんだ!」   哲也「事実を究明したいだけです」   藤川「マスコミごっこなんかやめて、産廃業界のために働いたほうがトクだぞ。      そうだ、広告だって何だって出してやる。君の先輩を見習うんだな」   哲也「今尾さんはそういう人じゃ」   藤川「十年前は、今の君と大して変わらなかったかもしれん。何もわからず、でも、      いまじゃ敏腕記者で通ってる。全部俺が教えたんだがな。いまの彼があるのは      俺のおかげさ」   哲也「もし、断ったら」   藤川「……東京湾にでも埋めるか」   哲也「脅しですか?」   藤川「俺は、おまえが考えてるほどバカじゃない……とにかく、よく考えるんだな。      利口な脳みそ、持ってんだろ」   哲也「(必死に見返して)」 ■環境タイムス社フロア      入ってくる哲也。      征司、席にいない。      高津、来る。   哲也「今尾さんは?」   高津「戻って来たら、携帯に電話くれって」      哲也、携帯電話をかける。 ■中華料理屋・中(夕方)      机の上に餃子とビール、飲んでいる征司。      哲也、来る。   征司「(ほろ酔い気分で)お疲れさん」      哲也、立っている。   哲也「藤川社長と話しました」   征司「座れよ」      哲也、座る。   哲也「今尾さんのこと部下みたいに……」   征司「俺にはわからんよ。なんで業界のあら捜しなどする、俺たちは、産廃業界の記者だ」   哲也「でも、知った以上」   征司「君である必要があるか。誰かほかにやる人がいるかもしれない。君は産廃業界の      記者なんだ。ほかにやることは山ほどある」   哲也「……」   征司「誰に給料もらってる?」   哲也「会社です」   征司「違う。お客は産廃業者、つまり業界だ。そこから、お金をもらっているんだ」   哲也「では、黙っていろと」   征司「買収も、データ改ざんもない」   哲也「無茶苦茶です」   征司「無茶苦茶なのは、おまえだ。言いたくないが、誰のおかげで社員になれた?」   哲也「それは……」     征司「俺がいなきゃ、今頃、社員になれていたか、藤川社長が広告出してくれたから、      いまがある。のんきに月給もらっていられるんだ」   哲也「感謝してます。でも」   征司「だったら、俺の言う通りにしろ」        征司の顔をじっと見ている。   征司「おまえのために言うが、うちの会社の給料なんてバカ安い。ひどいもんだ。そうだろう?      でも、業界とうまく付き合えばいくらだって稼げる」   哲也「どういうことです?」   征司「プラントを売るのさ。いい機械をつくる人は営業や宣伝が苦手でね、しかも、ほかに人を      雇うゆとりはない。だから、手伝う。編集ってなれば、名刺一枚でどこにだっていけるし、      誰にだって会える。売れたら紹介料をもらう。どこが悪い? その金があったから、      あのマンションも買えた」   哲也「(衝撃)信じられない……」   征司「家族を持てばお前にも分かる」   哲也「今尾さん、自分が見えてない。脳の髄まで、産廃業界につかってる。眼を覚ましてください」   征司「(きっと見据え)見えてないのは、お前のほうだ」   哲也「違います」   征司「(笑って)読者からメールが来たな、匿名の。おまえの記事を素晴らしいって内容だった。      あれは嘘だ」   哲也「え(固まる)」   征司「おまえのやる気を出させるために、読者のふりして、俺が書いたんだ」   哲也「(血の気が引いて)そんな」   征司「読者をうならせる記事なんて、簡単に書けるもんじゃないッ、うぬぼれるな」   哲也「……」   征司「偉そうに、人のことをとやかく言う前に、自分をどうにかしろ」   哲也「(蒼白)」   征司「うちへ入ってくる連中はみんなそうだ。どいつもこいつも、産廃業界なんてバカにして。      二、三年で転職しやがって。この業界に骨をうずめようなんて腹の据わった人間など      いやしない。この業界は世の中に必要なんだ、おまえらとは違うんだッ」      哲也、ふらりと立ち上がり、出ていく。   征司「(哲也の背中に)これだけ言っても、わからなきゃ、こっちにも考えがあるぞ」 ■道路      哲也、心配そうな顔でメモを手に探しながら歩いている。 ■あるアパートの一室・前      哲也、来る。      表札を見る。何もない。      哲也、ドアを開ける。      中は空っぽ。      管理人のおばさん、来る。  管理人「若林さんなら引っ越したよ」   哲也「どこへ移ったか、わかりませんか」  管理人「知らないねえ」   哲也「そうですか」      と、去る。 ■歩行者天国      哲也、若林を探して、歩き回っている。 ■コーヒーショップ・表      哲也、外側から中の様子をうかがっている。      一人の客の後姿が若林に似て――。      哲也、中へ入る。 ■同・内部      哲也、来て、客の肩を押す。      別人の男、驚いて振り向く。      哲也、「人違いで」と詫びて出ていく。 ■環境タイムス社フロア(夜)      征司しかいない。フロアのほとんどは照明が消えて、暗い。      電話をかけている征司。   征司「××プロダクションさん? 西川さんて、います?」 ■ある製作会社・中      社員、向かいの机の西川に   社員「西川、電話」   西川「誰?」   社員「えっと、環境タイムスとかって」   西川「そ、了解。(出る)西川だけど……ああ、佐々木君の会社の(驚き)え!」 ■環境タイムス社フロア      征司、電話している。   征司「うちの会社の金を着服した疑いが出てきましてね。信じられないんですが、自分の      口座に振り込ませたらしくて。ええ、だから、このままだと裁判沙汰になるかも      しれないし、とにかく、彼が何か言ってもあんまり本気にしないほうが」 ■ある製作会社・中      西川、受話器を置く。   西川「(呆然と)哲也が、まさか」      と、携帯に電話する。 ■居酒屋・中(夜)      西川、哲也、飲んでいる。   哲也「(怒りの形相)全部でたらめですッ」   西川「そうだよな。おまえがそんなことするはずがない。俺にはおまえのほうが、      よくわかるし、信じられる」   哲也「西川さんに例の件を話したから……」   西川「ああ。でも、そのとおりなら、この件の信憑性も出てくる」   哲也「でも、証拠が」   西川「何か方法ないか」   哲也「なんとかします。このままじゃ」 ■環境タイムス社フロア(夜)      征司、パソコンに向かって打っている。      その画面。     「社長並びに編集長」     「残念なことですが、編集部員、佐々木哲也君が行った恐喝まがいの行為について      藤川産業様よりお怒りの苦情と、損害賠償請求も考えておられる件について、      お伝えさせていただきます」   征司「……」 ■同社・応接室・中(日替わり)      藤川、座っている。      反対側に長妻、哲也、征司、座っている。   藤川「びっくりしましたよ。頼んでもいない顧客リストをわたされ、手数料を要求されたんだ。      断ったら、悪質な製品だって、うわさを流すとね」   長妻「(怒気)佐々木君、本当か」   哲也「……」   長妻「佐々木君」   哲也「……」   藤川「(軽く笑って)編集長さん、彼も小遣いが欲しくて、軽い気持ちでやったのかもしれない。      今回は、今尾さんの顔を立てて表沙汰にするようなことはしません。佐々木君、二度と      こんな真似はするなよ」      哲也、征司、藤川の顔を見る。      征司、藤川、不敵に見返している。      哲也、押し黙ったまま立ち上がり   長妻「まだ話は終わってないぞ」      哲也、出ていく。      閉まるドア。 ■××開発      工場長、哲也に  工場長「(怪訝)サンプルを? まあ、うちは用がないから、いいけど」   哲也「すいません」      と、頭を下げる。 ■ある製作会社      哲也、西川、グリーンサンドを前にして   西川「いいんだな?」   哲也「はい」   西川「もし、何も出なかったら」   哲也「……」   西川「全部、茶番になる」    ■テレビ局・スタジオ     「報道二十一世紀」の番組。 キャスター「独占取材です。ごみ焼却灰のリサイクル品として認定されているグリーンサンドが、       実は環境に有害であるとの事実が判明しました」      カメラ脇に西川。 ■県庁・産廃対策課・会議室・中      課長の清水、係長の佐山、主査の長嶋が机に座っている。      中央に黒い砂粒の入ったビニール袋。   長嶋「グリーンサンドです」   清水「(怒気)ったく、あと少しで移動だっていうのに」   佐山「調べるほかないですね。ニュースを見て、環境省から電話が、いずれにしろ、      かなり面倒なことになりそうで」   清水「(佐山に)なんだか、楽しそうだ……」   佐山「いえ」 ■朝刊紙面      環境省     「リサイクル品の認定にメス」     「有害物染み出しの恐れ」     「分析会社、データ改ざん?」 ■藤川産業(日替わり)     藤川、座っている征司に新聞紙を投げつける。   藤川「(仰天)朝から苦情の電話が鳴りっぱなしだ。取引も中止だ。どうなってるんだッ」   征司「本当にやるとは」   藤川「本当なのか。グリーンサンドは、粗悪品だったのか」   征司「何かの間違いです。悪いのはマスコミ、いや、あいつの仕業です……全部」 ■環境タイムス社フロア      哲也の席。      電話が鳴る。   哲也「(出る)もしもし。もしもし」      哲也、受話器を置く。      硬い表情で考え込む。      電話が鳴る。      哲也、ゆっくり出る。   哲也「もしもし……。誰だ、あんた、嫌がらせか……卑怯だぞ」      哲也、表情を強張らせ、受話器を置く。 ■道路      哲也、やってくる。      一台のワゴン車、来る。      哲也の前方に止まると、中から屈強な男達、出てくる。      哲也、反射的に逃げようとするが、つかまり、乗せられてしまう。      走り去るワゴン車。 ■走るワゴン車の中      逃れようと暴れる哲也、男達に殴られ、さるぐつわ、目隠しをされ、縛り上げられる。      哲也、股間、濡れる。    男「こいつ、漏らしやがった」      と、殴る。 ■ある場所      穴が掘ってある。      見ると、周囲は埋め立て処分場。      穴の底に放り込まれる哲也。      土をかけられていく。      哲也の首だけ出ている。      去っていく男達。      哲也、わめきちらす。      誰にも聞こえない。      翌朝。      ワゴン車がやってくる。      止まり、中から男達出てくる。      首まで埋まっている哲也。      まったく生気がない。      哲也の視界に征司の顔が入ってくる。   哲也「た、助けてくれッ」   征司「少しはこりたか」      藤川、姿を現す。   藤川「おまえには出てってもらいたい。俺が言いたいのはそれだけだ」      藤川、征司、去る。   哲也「行くな、助けてくれッ、戻ってッ」      殴られる。気を失う。      暗転。 ■公園(朝)      ベンチに寝かされている哲也。      縛られていない。      と、眼を覚ます。      哲也、ふらふらと起き上がり、歩き出す。 ■哲也の部屋・中(数日後)      哲也、布団にもぐりこみ、じっとしている。      天井を見上げる哲也。      その表情は虚ろだ。      千秋、心配そうに覗き込む。   千秋「何があったの」   哲也「何もない」   千秋「傷だらけだったじゃない」   哲也「……千秋、ずっと俺のそばにいてくれるか」   千秋「いるわよ、いてあげる」   哲也「(千秋をじっと見ている)」      と、千秋を抱きすくめる。      千秋、驚くが、なすがまま。      哲也、千秋の口を吸う。      千秋、目を閉じる――。 ■環境タイムス社・表      出てくる征司、一方を見て驚く。      原田、やってくる。   原田「分析会社、買収してたのか?」   征司「再生プラントを売って、その製品の分析を出すところにもいい数値を      出させればどこからも文句は来ない」   原田「だけど、環境によくない……」   征司「環境は、ものを言わん」   原田「俺も騙してたんだな?」   征司「また、やり直せばいい。新しいプラントに取り掛かれ」   原田「許さんぞ、絶対。おれの機械をめちゃくちゃにしやがって」   征司「完璧じゃあなかった。でも、その分安かったから、よく売れた。そういうことだろう。      違うか」   原田「(睨むように見て)」 ■藤川産業・表      藤川、電話に出ている。   藤川「原田工業? あんたとは話したくない、なに、今尾のことか?」 ■道路      原田、携帯電話で話している。   原田「社長のお耳に入れておきたい話がありありまして……奴は詐欺師、いや、裏切り者です」 ■道路      歩いている征司。      一台のワゴン車、来る。      前方に止まると、中から屈強な男達、出てくる。征司、反射的に逃げようとするが、      乗せられてしまう。      走り去るワゴン車。 ■産廃処分場      首まで埋められている征司。      傷だらけの顔。   征司「(眼を見開いて)そうか、それで……」      あたりには誰もいない。   征司「このまま死ぬのか」      誰かがやってくる気配。      藤川、やってくる。      征司、見上げる。   藤川「君とは縁切りだ。原田から全部聞いた。再生プラントも分析会社の買収も、全部、      君が仕掛けた。そのうえ、プラントの代金、五千万円のうち、千五百万も君がとっていたとは」   征司「すべて社長から学んだことです」   藤川「この野郎、色々面倒みてやったのに、飼い犬に手を噛まれるとは、このことだ……」   征司「私は、どうなるんですか」   藤川「殺しはしない。俺はまっとうな人間だ。これは戒めさ。でも、この後、助かるか      どうかは運次第」   征司「社長、謝ります。私が悪かったッ」      藤川、去っていく。   征司「社長、助けてくださいッ、助けてッ」 ■走る車・中      藤川、電話している。   藤川「藤川だ。もう話したくもないだろうが、面白いこと教えてやる」 ■哲也のアパート・中      哲也、電話している。   哲也「(驚き)埋めた?」 藤川の声「うちの処分場だ。仕返ししたきゃ、チャンスだ……」   哲也「どうして、そんなこと……」      と、電話、切れる。 ■産廃処分場      首だけ出ている征司。      誰かが近づいてくる気配。      征司の表情が一変する。      やってくる哲也。      手にバケツを持っている。      中には黒い水。   征司「(目をむいて)藤川が知らせたのか……」      哲也、近づいてくる。      征司、食い入るように見て      哲也、来る。      ICレコーダーを取り出す。   哲也「これ、編集長に聞かせます。中身、聞きたいでしょう?」      哲也、イヤホンを征司の耳に入れる。 征司の声「うちの会社の給料なんてバカ安い。ひどいもんだ。そうだろう? でも、業界と      うまく付き合えばいくらでも稼げる」   征司「(眼をむいて)いつのまに」   哲也「藤川との会話を録音するつもりで持っていったんです。これで会社はあんたを」   征司「出してくれ。頼むッ」   哲也「(悔しさがこみ上げ)あんたは、最低のクソ野郎だ。でも、世話になった。その      事実も消せない……それが一番悔しいッ」   征司「俺は色々お前を助けてやった。ここから出せ、また、やり直そう。な」      哲也、バケツを持ち上げると、水をぶちまける。      顔中、黒くなる征司。   征司「やめろ、何するッ」   哲也「グリーンサンドを溶かした水だ」   征司「な!」   哲也「嫌な気分だろう」   征司「!」   哲也「本当はただの水さ。どうした? 顔色悪い」      と、去っていく。   征司「おい、見捨てるのかッ、助けてくれッ、戻ってこいッ!」      と、哲也、立ちどまると、振り返る。   哲也「今日、辞表を。短い付き合いでしたけど……」      と、頭を下げ、去っていく。 ■道路      哲也、携帯電話で取り出す、   哲也「助けるさ……借りは返さなくちゃ(電話をかける)俺は、あんたとは違う人間だ。     (一一九番、出る)もしもし、産廃処分場に人が埋まってます。場所は……」      電話、鳴る。      着信表示「若林幸一」。   哲也「(出る)もしもし、今どこだ?」 若林の声「ごめん」 ■公園      若林、電話している。   若林「就職決まった。過去は忘れて、再出発しようかって」 ■道路   哲也「(笑み)そりゃあよかった……体、大事に……」      と、電話を切る。      ゆっくりと歩き出す。 ■環境タイムス社フロア      征司、パソコンに向かってキーを叩いている。かつての生気は消えうせ、      わびしさをにじませている。      長妻、来て   長妻「今回のことは目をつぶるが、もしまた同じことやったら、即刻解雇、いや、損害賠償で訴えるからな」   征司「(暗くうつむいて)……」 ■征司のマンション・洗面台      朝に近い夜。      鏡の中にパジャマ姿の征司の疲れた顔。目の下に隈。 ■同・寝室・中      寝ている征司、目が開いている。      目を閉じる、開いてしまう。      暗然と息を吐く。 ■メンタルクリニック・前      征司、やってくる。 ■同・内部      征司、医師に   征司「……私は、ある人を、追い出そうとしました。それが正しいことだと思って……      でも、本当にそれでよかったのか……時々、自分で自分が嫌になって、死にたく      なるんです……」 ■街中(一年後)      哲也、千秋、手をつないで歩いてくる。  マタニティ姿の千秋、お腹が目立っている。 ■居酒屋・内部      西川や大学のゼミ仲間がいる。その中に若林もいる。      哲也、千秋、入ってくる。   西川「おう! 久しぶりだな」   哲也「ご無沙汰してます」   西川「一年か。前の会社やめて」   哲也「その話、したくない」   若林「僕も」      若林、哲也、笑う。   西川「(哲也に)なあ、うちの会社、来ないか。いま、アシスタントディレクター      募集してる。ボーナスも出るぞ」   哲也「学校に通います。ライター養成の」   西川「ライター?」   哲也「俺には書くことしか……もう一度、チャレンジします」     (終)