【タイトル】 

「夏が散る」

【作者】 

本橋 美枝(もとはしみえ)

【E−mail】 

mie_motohashi@mail.goo.ne.jp

【シナリオ】

非公開

 

《梗概》

 6年前の夏、母さんが交通事故で死んだ。

たぶんあの時から、俺は夏が嫌いになった。

朝倉岳(14)は、長野県でもトップクラスの中距離ランナーだ。傲慢な態度でクラスでも陸上部でも孤立しているが、800M走という過酷な競技にひたすら打ち込んでいた。  

母の死以来、画家である父一臣(44)は酒に溺れ、ポルノ小説の挿絵を描いて生活費を稼いでいる。弟の森(11)は心臓病で入退院を繰り返していた。一臣とは衝突してばかりの岳だが、森にだけは優しかった。  

6月。岳が地区大会で優勝した日、森が病院に担ぎこまれた。岳は一臣から森の余命が後数ヶ月と聞き衝撃を受ける。死への恐怖、父への反発、弟への思い、さまざまな思いがぐちゃぐちゃになって岳は混乱する。

岳は発作的に山間の谷にかかる橋の欄干に立つ。手を離し、眼をつぶり、死の恐怖に向き合う岳。そんな岳を同級生の松枝ひとみ(14)が目撃する。気の強いひとみは岳に「深刻ぶるな」と言い放つが、それ以来岳のことが気になり始める。

森の秘密。それは岳に成りすましてブログを書いていること。病弱な森は岳に成りきることで果たせぬ夢を追っていたのだ。

ある日岳は亡き母のスケッチブックを見つける。そこに書かれた文から母の自殺を疑った岳は、ますます混乱する。

森が退院して間もなく、県大会が開催される。だが岳は他校の選手に接触されて転倒し、その選手を殴ってしまう。謹慎処分になり失意に沈む岳。心配して訪ねてきたひとみを追い返そうとしてもみ合いになり、間に入った森はまた発作を起こしてしまう。

 落ち込む岳に、天文部員のひとみは「星を見に行こう」と誘う。病院の屋上で星を見ながら、岳はひとみに自分の無力さを吐露し、どこか吹っ切れた気分になる。

 母の親友だった野木翔子(44)との会話も岳の気持ちを少し落ち着かせてくれた。

 ある日、入院中の森から何故走らないんだと激しく責められた岳は、陸上部の部員たちに今までの態度を謝り、再び走り始める。

 森の病状は悪化していた。森は岳に頼む。8月13日の夜に、ペルセウス座流星群を見に連れて行ってくれと。大好きな「星の王子さま」と自分を重ね合わせた森は、自分は死ぬのではなく、身体を置いていくだけだと言い張る。流星群の日に、心から願えば、自分も別の世界に行けるはずだと。

 岳とひとみは深夜の病院から森を連れ出す。森をおんぶして草原に向かう岳。そして、星の降る草原で森はついに望みを果たす。

岳は森の死に打ちのめされる。走る気力もなくした岳に、一臣が森の荷物の整理を頼む。岳は森のブログを発見し、その痛いほどの生への思いを知る。岳は決意する。森のために走ろう。走って走って、愛する者を奪った夏を粉々に蹴散らしてやると。