【タイトル】 

「ブランコはひとり揺れていた」

【作者】 

西澤 さとる(にしざわ さとる)
本名:西澤 悟(にしざわ さとる)

【E−mail】 

melvin14@r3.dion.ne.jp

【シナリオ】

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《梗概》

 加藤雄一(六二)は大手自動車メーカーの取締役部長として社のレースチームを率いている。そのレースチームが、この不景気とチームの成績不振で解散となった。
レースが生きがいだった雄一は、自分の老いと人生の終焉を感じざるをえなかった。
 金本桂(二九)が息子の文彦(三四)の嫁として加藤家に来た。クラブホステスをしてる彼女は、儚く美しい娘であった。文彦は一目ぼれしてしまったらしい。
 桂にとってこの結婚生活は、苦痛以外なにものでもない。安定していたが、セックス嫌いで遊びを知らない文彦との生活は無味乾燥であったのだ。
 庭に子供用のブランコがある。誰にも乗ってもらえずひっそりと朽ちているブランコ。桂は自分を見ているようで悲しかった。
 雄一は桂のためにブランコを直してやる。それだけのことで喜ぶ桂。雄一は、はしゃぐ桂を嫁ではなく女として意識している自分に戸惑いを感じ始める。
妊娠。一縷の希望を見出した桂だが、子ども嫌いの文彦に中絶しろと言われ、失意と絶望の中で、自殺未遂をする。
 そんな桂に寄り添う雄一。彼の優しさに縋ろうとする桂。二人は惹かれあいキスをしてしまう。人生の終焉を迎えた男と、不幸な女の心が触れ合ったのだ。
その現場を目撃した文彦は、数日後、交通事故を起こし亡くなる。まるで自棄になって衝動的に自殺したような事故だ。
 夫の死によって、新しい人生を夢見る桂は、罪の意識から渋る雄一に迫り、二人は獣のように愛し合った。
 その朝、桂は、文彦の骨壷の前で後悔し詫びる雄一を見て落胆する。そしてわが身の不運と女の性を恨み、そのまま家を出て行方不明になったのだ。
 雄一は桂を捜し求めて街を彷徨う。そしてついに彼女をみつけたのだが、そこには、それがまるで自分の天職であるかのように、せっせと身体を売ることを仕事にする桂がいた。
 雄一は、桂を見つけながらも、息子の死を思うと、やはり迷いがあった。
 一瞬、希望を抱いた桂だが、雄一の迷いを見透かし、彼から逃れ再び姿を消した。
 桂は、今日も街のどこかで温もりを与えてくれる男を探しているのであった。     了