【タイトル】 

「機(はた)の音」

【作者】 

松木 三代子(まつき みよこ)

【E−mail】 

miyo923@gmail.com

【シナリオ】

非公開

 

《梗概》

 北関東・K市郊外のある寺で、円徹司の一周忌法要が営まれている。遅れて入って来た長男の久志は若い女と一緒で婚約者のまゆだと紹介する。ざわつく面 々をよそにさめた様子の前原糸吉は染め職人、徹司亡き後に廃業が決まった円織物の片腕だった人物である。

 十代のころワルだった久志は、高校入学後立ち直り母校の教師になっていた。久志はK市に姉妹校を作る準備のため結婚したまゆを伴い母・登紀子と同居する事になる。旧家意識をむき出しにしてまゆを敵視する長女、その夫の市議は久志の高校新設に反対している。

 ある日、円織物に「幻の布」についての照会がある。織機会社の社員、次女の画廊でその布を知った画家…しかし登紀子は久志とまゆに15年前のことを語ろうとはしない。頼みの糸吉も酒におぼれる毎日だ。

 まゆは偶然手にした布が糸吉の手になるものであり、高校時代自分が立ち直るきっかけとなったのもまた徹司の布だったことを知り、染と織りに目覚めていく。糸吉の大切な布を脱色したり、やっと染め上げた布を隣の犬に踏まれたり。懸命なまゆを見て登紀子が助け舟を出す。そんなまゆの姿を見て、久志もまた自分がかつて彼女に言った言葉を思い出し勇気づけられるのであった。

 まゆは伝説になった布の秘密を糸吉に聞くが相手にされない。が、まゆの言動に親身なものを感じた糸吉は次第に心を開いていく。

 久志は高校設置の鍵を握る人物と接触し地域再生事業と合体すればまちも元気になると説得する。彼は政治家が大きな権力に弱いことを逆手に取りしたたかに利用したのだ。

 ある日、まゆは染色の作業中倒れたことで微妙な色を出すコツをつかみかける。まゆのセンスを感じ取った糸吉は本腰を入れて染色を伝授し始めた。しかし、今度は糸吉が倒れてしまう。

 糸吉は15年前、新しい色を出すことに全力を傾けていた。妻の急変を知らせる電話と納得のいく色に染め上がったのとが同時…それ以降、糸吉は同じ色を染めることはなく、徹司もまたその意を汲んだのである。糸吉は病床でまゆが持参したその布を頬にあて閉じられた瞼から涙を流す。

 1年後。糸吉の仏壇に手を合わせるまゆ。まゆは生まれた子に「結」と名づける。赤城山を背に、まゆは糸吉の残した思いを機の音に乗せて織り続けることを誓う。