【タイトル】 

「恍惚エヴリデイ」

【作者】 

坂野 裕子(ばんの ゆうこ)

【E−mail】 

banban@rj9.so-net.ne.jp

【シナリオ】

非公開

 

《梗概》

 ドロップアウト少女と妄想の世界に生きる風変わりなばあさん。?真実がいつも正しく、幸せを与えてくれるモノとは限らない?――ばあさんの強烈かつ静かな生き様に触れた少女は、自らの弱さを受け入れ、再び自らの道を歩き始める。そんな、ひと夏の物語。

 名門音大でピアノを専攻する芳川藍は、マンション『メゾン・ド・芳川』の大家をしている祖父母と三人暮らし。昔からピアノが上手な藍は彼らの誇りであり、また幼なじみの桐谷謙二郎にとっては憧れだった。しかし、それまで自己流にピアノを楽しんできた藍にとって、大学は窮屈そのもの。初めての学内コンクールで、テクニックのなさと独特の演奏スタイルをこきおろされた藍は、スッカリやる気を喪失。大学もピアノも辞めてしまう。

 鬱屈した夏休みが始まり、ひょんなことから、藍は、マンションで一人暮らしをする柳井カナメと知り合う。屋根にのぼるなど、近頃ちょっとした騒ぎを起こしている風変わりなばあさんだ。退学のことを責め立てる祖父や兼二郎にウンザリの藍は、近所の絵画教室で教えるカナメのもとに入り浸り、ガラクタで何やら巨大オブジェを作り始める。工作に没頭することで、少しずつ元気を取り戻していく藍。カナメの人柄もあり、やがて、どうしようもなく音楽が好きな自分に気づくことになる。

 そんなある日。マンションの住人たちからカナメの退居を求める『嘆願書』が提出される。皆、カナメの奇行に迷惑しているらしく、カナメがボケたのではないかという声も上がっていた。なんとか『嘆願書』を撤回させようと奔走する藍だが、カナメの奇行はエスカレート。ついには、電柱によじのぼろうとして警察沙汰まで起こしてしまう。カナメには?家族?がいるらしいのだが、探せど探せど見つからない。藍の不安は爆発し、カナメ自身も己の変調を察することに。

 カナメの妹の出現で、藍は、カナメが少女時代の初恋の思いを引きずるあまり、架空の家族を作り出していることに気づく。高いところにのぼってしまうのも、どうやらそこに原因があるようだ。カナメを解き放ちたい一心で、真実の眠る場所へと向かう藍。しかし、そこに待ち受けていたのは、悲しくも残酷な現実だった……。

 カナメに真実を伝える覚悟で戻ってきた藍。その目に飛び込んだのは、町一番の高層建築物――銭湯の煙突――のてっぺんでボンヤリ佇むカナメの姿。思わず走り出した藍は、野次馬たちを蹴り飛ばし煙突のはしごをのぼっていく。そしてカナメを助けようと真実を突きつけるが、動揺し我に返ったカナメの口からこぼれたのは意外な言葉だった。“残酷な現実”だろうが“妄想”だろうが、カナメにとっては「幸せ」に違いなかったのだ。「ありがとう」と微笑むカナメに、藍はもう何も言えず、笑い返すことしかできない。と、その時、錆びついたボロはしごの手すりが外れ、足を踏み外すカナメ。目の前を落ちていくカナメの腕を、藍はとっさに掴むのだが……!?

 ――秋。妹のもとに身を寄せたカナメは、デイサービスに通いつつ、今日もまた周りの人々を巻き込み一騒動起こしている。そして、現実から逃げていたのはカナメでなく自分だと気づいた藍は、再びピアノを弾き始めた。