「リミテッド」 小沢修博                         登場人物 堺 裕之 (二二)  六班のメンバー 真砂洋一 (二〇)  六班のメンバー 越智信二 (二〇)  六班のメンバー 山田美幸 (二〇)  六班のメンバー 柳沢真澄 (二四) 六班のメンバー 中野道夫 (二六) 六班のメンバー 大石富雄 (六〇) ラーメン屋のおやじ 北浦   (五二) 六班の担任 真田典子 (二八)  裕之の姉。 真田博文 (三五) 典子の旦那 真田五郎 (五) 典子の息子 その他 ○ 一番亭 ラーメン屋の店内   正面の壁に掛けてある、昔の写真。   堺裕之(二二)、カウンターでラーメンを   食べながら、店の主人・大石富雄(六〇)   と話し込んでいる。 大石「今日、卒制のメンバー発表だって」 裕之「ええ。アッという間の二年でしたよ」 大石「遊んでばかりいたからな」 裕之「(苦笑して)ハハハ…冗談きついな」   真砂洋一(二〇)、スケッチブックに、裕   之と大石をスケッチしている。 裕之「ラーメンが、のびちまうぞ」 洋一「(スケッチを続けている)」 大石「だいぶ描きためただろう。一度、見せ  てくれないか?」 洋一「(スケッチを続けている)」 裕之「愛想がない奴だ」 大石「…らしくて、いいじゃないか」   洋一、スケッチをしている手が止まる。 洋一「あの写真ですけど…」 大石「んっ!」 裕之「写真…アレが、どうかしたのか?」 洋一「よく見てみろよ」   裕之、マジマジと写真を見る。 裕之「あっ! 監督の宮野さんに、イラスト  ライターの横井さん…」 洋一「その道で、有名になった人ばかりです  ね」 大石「(笑って)偶然だよ」 裕之「どうしたんですか、この写真?」 大石「先輩だよ、お前さんたちの…」 裕之「(驚いて)嘘!」 大石「まだ、知り合った頃は…皆、個性豊か  なタマゴだったがな」 裕之「じゃ、俺たちも有名人になれるかもし  れないってこと?」 洋一「軽いんだよ、お前は」 裕之「年上に向かって、お前はないだろう」 洋一「だったら、年上らしく振る舞えよ、堺  さん」 裕之「(軽いのりで)それは、ムリムリ。俺の  キャラクターじゃないからさ」 洋一「(笑って)…だよな」 大石「お前さんたちを見ていると、宮野と横  井を思い出すよ」 裕之「じゃ、やっぱり、俺たちって有名人に  なれるんじゃないの」 大石「無事に卒業できたらな」 裕之「またまた、きつい一言」 大石「(笑う)」 洋一「皆、北浦組だったんですね」 大石「ああ」 裕之「北浦って、誰だ?」   壁にかけてある昔の写真。   ―卒業生と北浦先生。 ○ デザイン学校 門   黄葉する銀杏並木。   山田美幸(二〇)が自転車で来る。 ○ デザイン学校 キャンパス   バラエティーにとんでいる生徒たちの格   好、いかにもデザイン学校らしい雰囲気   である。   その中で、一際目立つ、セーラムーンの   コスプレをした柳沢真澄(二四)ら漫研   の部員たち。   大声を上げて、同人誌を販売している。 真澄「今なら、一部、千円です」 学生 A「感動できて、泣けますよ」 学生B「将来、プレミアがつくこと間違いな  しです」   自転車に乗った美幸が通りかかる。   真澄が目の前に飛び出す。   美幸、あわててハンドルを切って、自転   車を止める。 美幸「危ないじゃないの」 真澄「一冊、どうかしら?」  と、美幸に同人誌を渡す。  美幸「ふざけないで」  真澄に、同人誌をつき返す。 真澄「そう言わずに」 美幸「ダサいわよ、コレ」 真澄「えっ!」 美幸「装丁のセンスを磨いたら」   と、捨てゼリフを吐いて、自転車に乗って   去る。 真澄「(不機嫌に)中身を見ないで、よく言う  わよ。(美幸の口調を真似て)ダサいわよ、  コレ…」   中野道夫(二六)が来る。 真澄「(微笑んで)一冊、千円だけど買いませ  んか?」   と、道夫に同人誌を渡す。 道夫「(ペラペラ捲り)面白そうだね。十冊、  もらうよ」 真澄「(驚いて)そ、そんなに…」 道夫「小銭がないんだ」   財布から万札を一枚出す。 真澄「(嬉しいやら悲しいやら)……」 ○ デザイン学校 撮影室   一六ミリカメラで、自分の描いた動画を   撮影している、越智信二(二〇)。   仲間の日高(二〇)と杉山(二〇)が呼   びに来る。 日高「ボチボチ卒制の発表だぞ」 信二「ああ」   と、返事をするものの、我関せずって顔   で撮影を続けている。 ○ デザイン学校 アニメ科の掲示板   群がる生徒たちの一喜一憂の顔、顔、顔。   卒業制作の班が発表されている。   「六班、北浦組のメンバー。越智信二、   堺裕之、真砂洋一、中野道夫、柳沢真澄、   山田美幸」と名前が載っている。      タイトル。   「リミテッド」 ○ デザイン学校 教室   美幸、黙々と雑誌を読んでいる。   洋一、美幸をスケッチしている。 裕之「(呆れて)よくも続くよ、飽きもせず  にさ…」 洋一「『継続は力なり』って、言うだろう」   道夫が入って来る。 道夫「ここが、六班の教室ですか?」 裕之「はい」 道夫「中野道夫をと言います。よろしくお願  いします」   と、適当に空いている席に坐る。 裕之「堺です」 洋一「真砂です」   美幸、チラリと道夫を見るが、また雑誌   に眼をやる。   信二が入って来る。   洋一、裕之、道夫が見る。   信二、美幸の横に坐る。 信二「ヨオ!」 美幸「久しぶりね」 信二「もう、とっくに、やめたかと思ってい  たよ」 美幸「(苦笑する)」   真澄、息を切らして入って来る。 真澄「(ハアハアと)間に合った」 道夫「(アレッと)…セーラムーン?」 真澄「柳沢と言います」 道夫「読んだよ」 真澄「どうでした?」 道夫「すごく、幸せな気分になったよ」 真澄「(嬉しそうに)ありがとうございます」   と、道夫の横に坐る。 美幸「(ボソッと)あんな本、買う人たちの  神経が分からないわ」 真澄「どういう意味ですか、それって」 美幸「事実を言ったまでよ」 裕之「やめないか、これから一緒に卒業制作  をやっていく仲間だろう」 美幸「やだ、仲間だって」 信二「(フンと)甘いな」 北浦の声「この教室は、いやに賑やかだ」   一斉に、ドアに注目する一同。   担任の北浦(五二)が入って来たのだ。   緊張して張り詰めた雰囲気になる。 北浦「私が、これからの四ヶ月間、君たちの  卒業制作の担任を引き受けることとなった  北浦だ。さっそくだが、各自に聞きたいこ  とがある」   緊張する一同。 北浦「アニメーションの制作にとって、一番  に大切なことは何だと思う?」 信二「才能でしょう」 洋一「情熱です」 北浦「他には?」 真澄「創造力です」 道夫「夢です」 美幸「どれだけ好きになれるかだと思います  けど…」 北浦「…けどが、つくのか?」 美幸「……」 北浦「堺、お前はどうだ?」 裕之「お、俺ですか…(考えながら)チーム  ワークですかねぇ」 北浦「お前たちの思っていることはわかった」   一同、黙って聞いている。 北浦「いいか、よく聞け。お前たちの目指す  モノは、プロだ。素人が趣味で作るのとは  違うんだ。夢だ、情熱だ…そんな甘っちょ  ろいモノは、たった今、この場で捨ててし  まえ」 一同「……」 北浦「今日から二週間後に、まずは、企画書  と絵コンテを提出すること。以上だ」   と、厳しい口調で言って、去る。 裕之「何だよ、ありゃ…嫌な感じだぜ」 道夫「北浦さんが担任になった班は、必ず卒  業できないっていう噂、知っているかい?」 真澄「聞いたことがあります」 裕之「本当かよ」 真澄「漫研の先輩が、去年の卒業制作の担任  に北浦先生が当たって、ひどい目にあった  って言っていました」   北浦が戻って来る。 北浦「堺!」 裕之「(振り向き)は、はい」 北浦「お前に、一つ仕事をやろう」 裕之「仕事?」 北浦「リーダーは、お前がやれ」 裕之「リ、リーダーって…俺が…」   北浦、薄ら笑いを浮かべて、再び教室を   出て行く。 裕之「リーダーなんて出来るわけないだろう」 洋一「お前なら出来るよ」 裕之「簡単に言ってくれちゃって」 道夫「北浦先生が、わざわざ堺君をリーダー  に選んだのは、何か理由があるんじゃない  かな。ほら、さっきだって、チームワーク  って言っていただろう」 裕之「あれは、苦し紛れですよ。俺には、皆    のように一言で言い切れるモノがない    から…」    美幸、バンと机を叩く。 美幸「いい加減にしてくれない。そんな話を  するために、まだここに残っているわけ」   と、雑誌を鞄にしまう。 信二「俺も帰る。馬鹿馬鹿しくて付き合って  いられない」 裕之「お、おい」   信二と美幸、教室を出て行く。 裕之「あいつら、やる気があるのかよ」 洋一「あるから、一応来たんだろう」 裕之「…まったく、ついてない」 道夫「そう言わずに、フォローするから」 真澄「頑張って下さい」 裕之「…言ってくれちゃってさぁ」 洋一「もう少し、自分を信じたらどうなんだ」 裕之「よくまあ、そんな歯の浮くようなセリ  フが吐けるよ」 ○ デザイン学校 門   信二と美幸が歩いて行く。 信二「相変わらず突っ張っているな」 美幸「……」 信二「そういうのって、疲れないか?」 美幸「仲間とか、情熱とか…そういうことを  言う人たちって大嫌いなの。嘘っぽいんだ  もの」 信二「……」 美幸「越智君だって、そう思っているんでし  ょう」 信二「俺は、ただ団体って奴が嫌いでね」 ○ 真田家 キッチン (夜)   裕之の姉、真田典子(二八)、夫の博文   (三五)、息子の五郎(五)と、裕之が   夕飯を食べている。 博文「学校の方はどうだい?」 裕之「ボチボチです」 博文「(笑って)ボチボチか…」 典子「もっと、ましな言い方があるでしょう」 裕之「(軽いノリで)頑張ってまーす」 博文「就職の方はどうだい?」 裕之「どうにかなるでしょう」 典子「他人事みたいに、もう…」 裕之「(うるさいなって顔をして)…そんなつ  もりはないけど」 博文「アニメの何をやりたいんだい?」 裕之「制作の方を…」 博文「プロデューサーか…夢が叶うといいね」 典子「ちゃんと就職しなさいよ」 裕之「わかっているよ」 典子「わかっていないから、なれもしない夢 ばかり追っているんでしょうが」 裕之「人生なんて、気持ち次第でどうにでも  なるから」 典子「アンタは、人より二年も遅れているの」 博文「若いうちの二年なんて関係ないさ。僕  も大学時代に、一年留年しているし…」 典子「あなたは留年でしょう。裕之は二浪な  のよ、二浪…」 裕之「姉さん、口うるさいところなんて段々  とお袋に似てきたな」 典子「人の親になって、母さんの気持ちがわ  かってきたの。今は、大学生だって、就職  が厳しい時代なのよ」 裕之「……」 典子「心配だってするわ」 博文「大丈夫さ。アニメの世界って、実力の  世界なんだろう。だったら…」 典子「だから、ますます心配なのよ。三浪す  る勇気はなく、就職する決心もつかず…専  門学校に逃げ込んでしまったんだから」 裕之「そんな言い方はないだろう」 典子「本当のことでしょう」 裕之「……」 五郎「ごちそうさま」   と、席から立つ。   元気がない様子で出て行く。 典子「あら、あの子ったら、こんなにおかず  を残して」 博文「幼稚園で、何かあったのか?」 典子「別に聞いてないけど」 裕之「ごちそうさん」   と、席を立つ。 典子「話は、まだ終わってないのよ」 裕之「五郎の様子を見てくるから」   急いで、キッチンから出て行く。 典子「調子だけはいいんだから」 ○ 真田家 五郎の部屋 (夜)   五郎、スケッチブックにクレヨンで犬の   絵を描いている。   裕之が入って来る。 裕之「それ、クロベエか?」 五郎「うん」 裕之「上手だな」 五郎「……」 裕之「明日、クロベエに会いに行くか?」 五郎「(パッと明るく)う、うん」 裕之「(微笑む)」 ○ 寺 境内 (翌日)   裕之と五郎、クロベエのお墓に手を合わ   せている。 ○ 街   裕之と五郎が歩いて来る。 五郎「クロベエは、どこに行っちゃたの?」 裕之「(言葉に詰まる)」 五郎「お兄ちゃん」   裕之、風俗の看板が眼に入る。   ―ピンクパラダイス。   『ピチピチギャルと極上の幸せを』 裕之「ピ、ピンクパラダイスさ」 五郎「ナニ、それ?」  裕之「誰もが、幸せになれる場所さ」 五郎「どこにあるの?」 裕之「ずっとずっと、遥か彼方さ」   空を指さす。   五郎、空を見上げる。 五郎「……」 裕之「(もう一度、風俗の看板を見て)幸せに  なりてぇな」   ○ デザイン学校 職員室   信二と北浦が話をしている。 北浦「…やめたい?」 信二「はい」 ○ デザイン学校 校舎の出入り口   裕之が走って来る。 裕之「やべえ、遅刻だ、遅刻だ」 ○ デザイン学校 職員室の前   裕之が通りかかる。   信二と北浦先生の声が聞こえる。 裕之「(立ち止まって)……」 ○ デザイン学校 職員室 北浦「リタイヤするのか?」 信二「個人制作で、勝負をしたいんです」 北浦「自信があるんだな」 信二「その方が、自分のためになると思いま  すので」 北浦「そうか」 信二「認めてくれるんですね」 北浦「考えておく」 信二「……」 ○ デザイン学校 教室   ガヤガヤと。   洋一、一同をスケッチしている。   美幸、雑誌を読んでいる。 真澄「何を読んでいるの?」   と、覗き込む。   美幸、あわてて雑誌を閉じる。 真澄「隠さなくたっていいじゃないの」 美幸「私の勝手でしょう」   裕之が入って来る。 裕之「ごめん。野暮用ができちゃってさ」 道夫「まだ、越智君が来ていないんだ」 裕之「……」 ○ デザイン学校 職員室   「まいど」っと、大石が出前のラーメン     を持って来る。   信二、北浦に一礼すると、出て行く。 大石「どうだね、今年の北浦組は?」 北浦「最低の奴らでしょう」 大石「(ニヤリと)最低ね。こりゃ、楽しみだ」 ○ デザイン学校 教室   一同、話し合っている。 道夫「これをやったらどうかな?」   と、真澄の同人誌を机に五冊置く。 真澄「(驚いて)えっ!」 道夫「結構、泣けるいい話なんだ」 真澄「で、でも…(恥ずかしい)」   信二が入って来る。   一同、見る。   信二、何も言わずに席に坐る。 裕之「柳沢さん、よかったら、ストーリーを  話してくれる?」 真澄「は、はい。主人公は、五歳の男の子で  す」   ○ 真澄の描いた同人誌の漫画がアニメーシ ョンになってー。 真澄の声「晴れたある日、男の子は、森にピ  クニックに行きます。そこで、迷子になっ  てしまうんです。男の子が悲しんでいると  犬のおまわりさんが来て、家まで送りとど  けてくれるんです。そこで、男の子が、ハ  ッと眼を覚ますと…、実は、今までみてい  たのは夢だったんです。男の子は、以前か  ら犬を飼いたくてしょうがなかったんです。  両親は、それを知って、誕生日の日に、子  犬をプレゼントしてあげるんです」 ○ デザイン学校 教室 裕之「メルヘンチックな話だね」 道夫「だから、いいと思うんだ。現実を描く  んだったら実写で十分だろう。柳沢さんの  描いた漫画には、アニメーションでしか表  現できないモノがあると思うんだ」 洋一「例えば?」 道夫「夢のシーンとか…」 美幸「(ボソッと)つきなみね」  一同、美幸を見る。 裕之「意見があるなら、ハッキリと大きな声  で言って下さい」 美幸「私…用事があるから帰ります」   席を立ち、鞄を持って出て行く。 裕之「なんだよ、アイツは…」   真澄、美幸の席の下に、英単語帳が落ち   ているのに気づき、拾う。 真澄「……」 ○ 真田家 裕之の部屋 (夜)   裕之、真澄の同人誌を読んでいる。 裕之「キャラクターは可愛いけど、話は今二  だよな」   ドアのノック。 裕之「どうぞ」   典子が顔を出す。 典子「お風呂が沸いているわよ」 裕之「うん」 典子「今日は、ありがとう」 裕之「何のこと?」 典子「クロベエよ」 裕之「(ああと)どう、五郎は?」 典子「行った時はよかったんだけどね、また  戻っちゃって。相当、ショックだったのね」 裕之「そりゃまあ、五郎がオギャーっと産ま  れた時から、傍に居てくれたんだからな」 典子「……」 裕之「俺も、ガキの頃、飼っていた犬に死な  れた時はショックだったよ」 典子「そんなこともあったわね」 裕之「また飼ったら?」 典子「あんな目に会うのは、こりごりよ」 裕之「…だよな」 典子「所で、ピンクパラダイスって、何?」 裕之「(曖昧に)ええっと…つまり、その…」 ○ マンション 道夫の部屋 (夜)   道夫、パソコンで日誌を書いている。   妻の孝子(二六)、温かいコーヒーを入   れて持って来る。 孝子「あなた、一休みしたら?」 道夫「ありがとう」   孝子、机にコーヒーを置く。 孝子「仲間の人たちは、どう?」 道夫「個性の強い奴らばっかりだから、疲れ  るよ」 孝子「やだ、オジサンみたい」   と、道夫の顔をマジマジ見る。 道夫「何か、顔についている?」 孝子「あなた、本当に二年でやめられるの?」 道夫「そういう約束だろう」 ○ デザイン学校 キャンパス   信二、日高、杉山が登校して来る。 杉山「お前ら、どんなモノを作るんだ?」 信二「さあな」 ○ デザイン学校 教室   一人ずつ真澄の描いた漫画について意見   を述べている。 裕之「話よりも、だいぶキャラクターに助け  られている感じだね」 真澄「そうですか」 洋一「テーマは、何?」 真澄「テーマですか…(困ってしまう)」 洋一「じゃ、このストーリーから、読んでく  れた人たちに、何を感じ  てもらいたかったんだ」 真澄「(答えられない)」 裕之「面白ければ、いいんじゃないの」 洋一「どんなに面白くたって、それはその場  限りのモノだろう。作品を観てくれた人た  ちは、何に泣いたり、笑ったり…感動した  りしていると思うんだ」 裕之「それは…(言葉に詰まる)」   美幸、チラリと腕時計を見る。 美幸「用事があるので、帰ります」 裕之「また」 信二「俺も。どうせ決まらないだろう」 裕之「越智は抜けるんだからいいけどさ」   一同、えっ!て顔で信二を見る。 道夫「抜けるって?」 裕之「うちのグループが、気にいらないんだ  ってさ」 道夫「本当かい?」   信二、何も言わずに出て行く。   美幸も出て行く。   一同、沈痛な顔。 ○ 道 (夕方)   裕之と真澄が歩いて来る。 裕之「まったく勝手な奴らだよ」 真澄「悪い人たちじゃないと思いますよ」 裕之「どうして?」 真澄「だって、同じ世界で生きようと思って  いる人たちじゃないですか」 裕之「そうだけど」 真澄「きっと、今にわかってくれると思いま  す」 裕之「……」   少し離れて、洋一と道夫が続いて。 道夫「卒業したら、このままアニメの仕事に  就くのかい?」 洋一「今、俺たちがやらなければいけないの  は、作品を完成させることだと思っていま  す」 道夫「そうだけど」 洋一「誰も、先の人生はわからないでしょう」 道夫「…」 ○ デザイン学校 教室 (二週間後)   一同、揃っている。 北浦「企画は決まったか?」   一同、黙っている。 北浦「お前たちの班は、さっそくリタイヤだ  な」 裕之「企画が多過ぎて、決まらないんです」 北浦「言い訳を聞きに来たわけではない。さ  っそく、リタイヤと報告しておく」 洋一「待って下さい。企画なら決まっていま  す」   と、真澄の同人誌を出す。   一同、唖然となるものの…。 洋一「この漫画をやります」 北浦「堺、どういうことだ?」 裕之「…じ、実は、やるモノは決まっていた  んですが、企画書と絵コンテが出来上がら  なくて…」 北浦「そうか」 一同、黙って見守る。 北浦「俺が、一番始めに、お前たちに言った  ことを覚えているか?」 一同「……」 北浦「お前たちの目指すモノは、プロだ。確  か、そう言ったはずだが…」 一同「……」 北浦「この時点で、お前たちには仕事は来な  い。これが、どういうことかわかるか?」 一同「……」 北浦「期限内にやる、それがプロの仕事だ。  時間を無駄にするな」 一同「……」 北浦「今回だけは大目に見よう。二度と同じ  失敗は繰り返すな」   信二、自分には関係ないという澄ました   顔で聞いている。 北浦「(そうそうと)…越智、例の件だが、  認めないこととする」 信二「認めない…」 北浦「お前には、モノを作る資格などない」 信二「はぁ?」 北浦「聞こえなかったのか。お前に、モノを  作る資格などないって言ったんだ」 信二「(憤慨して)あんたに、そんなことを  言う権利があるのかよ」 北浦「お前みたいな、自分に才能があると思  い込んでいる奴ほど、一番タチが悪い。グ  ループだから、認めたんだ」   信二、北浦を睨みつけると、席を立ち、   教室を出て行く。 北浦「以上だ」   教室を出て行く。   一同、ホッと安堵する。 裕之「いいきみだ」 道夫「あそこまで言われると、気の毒だな」 美幸「(フンと)同情する暇があって」 裕之「いつも途中で帰る人に、そんなことは  言われたくないね」 美幸「……」 道夫「やめないか」 裕之「だって」 真澄「あの…」 裕之「何?」 真澄「本当に、やるんですか?」 裕之「やるしかないだろう」 洋一「絵コンテを描く前に、一つ提案がある  んだが…」 裕之「提案?」 洋一「幼稚園に行って、取材してみないか?」 道夫「面白そうだね」 裕之「どうして、そんなことをするんだ?」 洋一「俺たちは、何も五歳の子供のことを知  らないからさ。柳沢さん、この漫画を描い  た理由は?」 真澄「子供たちに読んでもらいたかったの。  ドラゴンボールのような漫画ばかりじゃな  いってことを知ってもらいたかった」 裕之「なんだ、ちゃんと言いたいことがあっ  たんじゃないか」 真澄「うまく言葉にして言えなかったけど…  やっと言えたって感じ」 洋一「でも、それは、柳沢さんの思いだけだ  ろう」 裕之「それで、いいんじゃないの」 洋一「それじゃ、ただの一方通行さ」 裕之「一方通行って?」 道夫「一番大切なのは、今の子供たちが何に  感じ、何を考えているか、それを、じかに  僕たちが知らなければいけないってことさ」 裕之「……」 道夫「知ることにより、僕たちの作る作品も  よりアピールができるんじゃないのかな。  少なくとも、僕たちの、あの頃って、テレ  ビゲームはなかったんだし…だいぶ生活環  境が違うだろう」 裕之「わかった。姉さんに頼んで、甥っ子の  通っている幼稚園を紹介してもらうよ」 真澄「越智君は、どうするつもりですか?」 洋一「もちろん、仲間に入ってもらうさ」 裕之「あんな奴、ほっといたら」 洋一「そうは、いかない」 裕之「どうして?」 洋一「彼は、大切な仲間なんだ」 美幸「(ボソッと)…仲間ね」 真澄「どうやって、説得するの?」 洋一「それは、リーダーの仕事です」 裕之「へいへい、割りの悪い仕事は、全部、  おいらの仕事なわけね」   裕之の憂鬱そうな顔。 ○ デザイン学校 キャンパス (夕方)   真澄が歩いて来る。   自転車に乗った美幸が、追い抜いて行く。 真澄「(声を掛けて)山田さん!」   美幸の乗った自転車が止まる。 美幸「何?」 真澄「コレ」   と、英単語帳を美幸に渡す。 美幸「……」 真澄「大切なモノなんでしょう」 美幸「……」 ○ 道 (夕方)   真澄と、自転車を押しながら歩いている   美幸。 真澄「…美幸ちゃんでいいかしら?」 美幸「どうぞ」 真澄「どうして、専門学校に来たの?」 美幸「話す必要はないと思うけど」 真澄「私は、自分に嘘をつきたくないから来  たの」 美幸「……」 真澄「単語帳を、わざわざ雑誌で隠す必要な  んてないのに」 美幸「……」 真澄「もっと、素直になったら」 美幸「……」 真澄「じゃ、明日」   足早に去る。 美幸「そんなこと、わかっているわよ」 ○ デザイン学校 撮影室 (夕方)   ムスッとした信二、一六ミリカメラで動   画を撮影している。   そこへ、日高と杉山が来る。 日高「さっそく、個人制作か?」 信二「……」 日高「北浦と、やりやったんだって」 信二「お前らには、関係ないだろう」 杉山「そう、とんがるなって」 日高「まずは、六班が一番始めに潰れるって 噂だぜ」 信二「誰が、そんなデマを流しているんだ?」 日高「北浦らしいぞ」 信二「……」   裕之が入って来る。   日高と杉山、コソコソと逃げるように去   る。 裕之「あいつらと何を話していたんだ?」   信二、無視して撮影を続けて。 裕之「これ、一人で描いたのか?」   山のように積まれている動画用紙を手に   取る。 裕之「パワーがあるな。俺も、見習わなくち  ゃいけないな」 信二「……」 裕之「もう一度、考え直してみないか?」 信二「……」 裕之「一人じゃ、卒業制作も認められないん  だろう」 信二「……」 裕之「待っているから」   と、撮影室を出て行く。   信二、撮影する手が止まる。   動画用紙の上にメモが置かれてある。   メモの内容―   『明日、××区の××幼稚園に取材に行   くので、現地に集合』   ―と書かれてある。 信二「お節介な奴だ」   ○ アパート 信二の部屋 (夜)   信二、トレス板の上で動画を描いている。   おもむろに、描いていた動画をグチャグ   チャに丸める。 信二「(裕之からのメモを取り)……」      ×     ×     ×   インサート。 日高「まずは、六班が一番始めに潰れるって  噂だぜ」 信二「誰が、そんなデマを流しているんだ」 日高「北浦らしいぞ」      ×     ×     × 信二「……」      ×     ×     ×   インサート。 北浦「お前には、モノを作る資格などないっ  て言っているんだ」      ×     ×     × 信二「敵としては、もうしぶんない相手だな」 ○ 幼稚園 門 (朝)   一同が集まっている。 道夫「越智君は?」 裕之「来てないよ」 道夫「そう」 真澄「もう少し待ってみましょうか?」 洋一「そうだな」 美幸「どうせ、無駄だと思うけど」   「何やっているんだ?」と信二の声。   一同、えっと振り返る。   信二、保母さんと一緒に校舎から出て来   る。 裕之「あの野郎」   パッと明るい顔になる。      ×     ×     ×   真澄と道夫、保母さんに質問しながら、   色々とメモを書き止めている。 保母「基本的には、今も昔も変わらないと思  いますよ。ただ、今の子はテレビゲームで  遊ぶせいか、対個人はいいんですけど、皆  で遊ぶってことがヘタなようすですね」       ×     ×     ×   信二と美幸が話しをしている。 美幸「どういう心境の変化?」 信二「(苦笑する)」 美幸「団体は嫌いなんでしょう」 信二「俺にも、プライドはあるさ」 美幸「くだらないわ」 信二「美幸は、どうするつもりなんだ?」 美幸「……」 信二「やめるなら今のうちだぞ」 美幸「……」      ×     ×     ×   洋一、スケッチブックに、子供たちを写   生している。 裕之「なぁ」 洋一「んっ?」 裕之「どうして、あの時、柳沢さんの漫画を  やろうって言ったんだ?」 洋一「子供たちが、喜んでくれそうな話だっ  たからさ」 裕之「……」 洋一「自分の手がけたアニメーションを観て  喜んでくれる子供たちの笑顔を見たいから、  作るんだ」 裕之「子供が好きなんだな」   洋一、砂場に眼をやる。   一人で砂山を作って遊んでいる五郎に気   づく。 淋しそうな顔をした五郎。 洋一「あの子は?」 裕之「例の甥っ子だよ」 洋一「あの子が…」   信二と美幸が来る。 信二「あの子が、どうかしたのか?」 裕之「最近、可愛がっていた犬が死んじゃっ  て、元気がないんだ」 信二「だったら、変わりの犬を飼えばいいだ  ろう」 裕之「姉貴には、そう言ったけどね」 美幸「そんなことをしても駄目よ。あの子に  とっての代わりの犬はいないもの」   裕之、洋一、信二が、意外そうな顔で、   美幸を見る。 美幸「な、何?」 裕之「山田らしくないから」 美幸「もう十分取材をしたんじゃなくて、早  く帰りたいわ」   と、輪から離れる。   道夫と真澄が来る。 道夫「手ごたえがあったよ」 洋一「そう」 真澄「あれ、美幸ちゃんは?」 信二「あそこ」 真澄「(見て、微笑む)」   美幸と五郎、砂山を作って遊んでいる。   二人の顔に笑顔。 信二「あいつ、突っ張っているけど、悪い奴  じゃないんだ」 真澄「知っているわ。ただ、少しだけ生き方  がヘタなだけね」 裕之「……」 ○ 真砂家 洋一の部屋 (夜)   洋一、スケッチブックに写生した子供た   ちの絵に、絵の具で色をつけている。   洋一の手から筆が落ちる。   苦しそうにうずくまり、腹を押さえる。 洋一「……」 ○ デザイン学校 教室   一同、それぞれが考えたストーリーにつ   いて、話し合っている。 裕之「次は、山田さん」 美幸「主人公は、五歳の男の子です。ある日、  男の子の飼っていた子犬が交通事故に会い  死んでしまいます」   一同、聞いている。 美幸「男の子は、子犬が大好きだったので、  悲しくてしょうがありません。幼稚園に行  っても、いつも一人で、いるのです」 ○ 幼稚園内   五郎、一人でブランコに乗っている 美幸の声「天国にいる子犬は、そんな男の子     の様子を見るたびに悲しくなるのでした。  神様は、そんな二人を可愛そうに思い、合  わせることにしたのです」   五郎の淋しげな顔。 美幸の声「子犬は、男の子と再会します。子  犬は、『どうして、いつも泣いてばかりい  るの?』と男の子に尋ねるのです。すると、  男の子は、『君がいないから』と淋しく答  えます」 ○ デザイン学校 教室   一同、黙って聞いている。 美幸「子犬はニッコリ笑い、『もし、僕に会  いたくなったら瞼を閉じてごらん。僕は、  いつも君の傍にいるから。だから、元気を  出して』。そう言うと、男の子の前から去  って行くのでした。男の子も、子犬と、い  つでも会える思うと元気を取り戻すことが  できました」 裕之「どこかで聞いた話だな」 洋一「五郎君だろう」 真澄「いい話ね」 洋一「テーマは?」 美幸「テーマって言われても…」 道夫「テーマならあるよ」 真澄「友情?」 道夫「八割だね」 裕之「相手は子犬だぜ」 道夫「おかしいかい?」 裕之「……」 道夫「相手が何であり、共に思い合える仲間  は、親友と呼べるんじゃないかな」 裕之「……」 洋一「俺も、そう思うよ」 裕之「じゃ、親友がテーマってこと?」 道夫「親友はシュチュエーション。大事なの  は、男の子と子犬を結んでいる心の内面」 裕之「心の内面?」 道夫「そうさ」 裕之「わかるように話してくれよ」 道夫「例え、死という別れがあったとしても、  その当事者を引き離すことはできない。そ  れは、お互いの存在が各々の心の内に永遠  に存在しているからさ」 裕之「ますますわからんわ」 洋一「五郎君の心の中には、クロベエが生き  ているってことだよ」 裕之「納得」 洋一「俺も、山田さんの考えていたような話  をやりたかったんだ」 裕之「では、決をとります」 洋一「賛成」 真澄「私も」 道夫「もちろん」 裕之「越智、お前は?」 信二「まかせるよ」 裕之「じゃ、山田さんのストーリーに決定し  ます」 美幸「…ありがとう」 裕之「キャラクターだけど」 信二「(ボソッと)柳沢さんのを使ったら、  今さら新しいのを考えている時間もないだ  ろう」   一同、信二を見て、ニッと笑う。 裕之「そうすることにします」   洋一、子供たちを写生したスケッチブッ    クを開く。   ワイワイガヤガヤと。 ○ 真田家 五郎の部屋 (夜)   五郎、スケッチブックに描いてあるクロ   ベエの絵を見ている。   裕之が入って来る。 裕之「お兄ちゃんたちが、五郎とクロベエの  話しを作ってやるからな」 五郎「……」 裕之「もう一度、クロベエに会えるんだぞ」 五郎「(半信半疑に)本当に」 裕之「だから、元気をだせ」 五郎「うん。約束だよ」 裕之「ああ。男と男の約束だ」   指きりをする。 ○ 絵コンテが一枚一枚出来上がっていく   一枚、一枚、教室の壁に貼られていく。    十数枚目…最後の一枚が貼られる。   一同の歓喜の声、声、声。 ○ デザイン学校 職員室   北浦、企画書と絵コンテにチェックを入   れている。   一同、緊張している。 北浦「いいだろう」   一同、喜び合う。 北浦「浮かれるには、まだ早いぞ」   一同、黙る。 北浦「今なら、まだやめられる。無駄な時間  を過ごすこともないぞ」 信二「出来ます」 北浦「相変わらずの自信家だな」 信二「あんたの鼻をへし折ってやりますよ」 北浦「(フンと)できるかな」 裕之「絶対に、満足させられる作品を作りあ  げてみせます」 北浦「そう、願いたいものだな」 ○ デザイン学校 廊下   一同、職員室から出て来る。 美幸「スーッとした」 真澄「越智君、かっこよかったわ」 道夫「見直したよ」 裕之「これからも、ヨロシク」 信二「ああ」 洋一「ただし、スタンドプレーはするなよ」 信二「なんだよ、それ」   と、洋一を睨む。   洋一も睨み返す。 裕之「(間に入って制して)まあまあ」 道夫「(そうそうと)今日は、六班にとって  記念すべき日だから、皆でパッとやらない  か?」 裕之「賛成!」 ○ マンション 道夫の部屋 (夜)   ささやかな宴会をやっている。 裕之「冷たいよな、皆…」 道夫「それぞれ事情があるからしょうがない  よ」 裕之「せめて、洋一ぐらいは来てくれると思  ったのに」 道夫「真砂君の頭の中は、卒制のことしかな  いよ」   部屋に、沢山のぬいぐるみが飾ってある。 裕之「あの…ぬいぐるみは、奥さんの趣味な  んですか?」 孝子「彼のよ」 裕之「似合わねぇ。(あっとなり)すみませ  ん」 道夫「いいんだよ。アレは、オヤジが開発し  た商品なんだ」 裕之「開発したって…アレは、××会社のキ  ャラクターグッズでしょう。まさか…」 道夫「オヤジが社長なんだ」   裕之、飲んでいた缶ビールを吹く。 道夫「驚かしちゃったな」 裕之「どうして、そんな人が専門学校に?」 道夫「好きだからさ」   缶ビールがない。 道夫「なんだ、もうないのか。ちょっと買っ  て来るよ」 孝子「私が買って来るわ」 道夫「いいよ。俺の代わりに相手をしていて  くれ」   部屋を出て行く。 孝子「あの人の夢なのよ」 裕之「夢?」 孝子「二年間だけの夢なの」 裕之「じゃ、卒業したら…」 孝子「お父様の後を継いで」 裕之「……」 孝子「だから、行きたいって言った時、それ  もいいかなって思ったの」 裕之「もし、約束を破って、このままやるっ  て言ったら、どうします?」 孝子「それなら、それでもいいわ」 裕之「アニメの世界って、俗に言う三Kです  よ」 孝子「私は、なにも彼が社長の息子だから結  婚したんじゃないわ。生活のことなら、私  も働いているから、どうにかなるし…」 裕之「……」 孝子「今の彼って、大学時代には見られなか  ったほど生き生きしているの」 裕之「……」 孝子「そんな彼が大好きなの。彼の夢は、私  の夢でもあるんですもの」 裕之「いい話だな」 孝子「(笑って)やだ、そんな真剣な顔をし  て言わないでよ」 裕之「じゃ、こんな顔で…」   と、ヘンな顔を作る。   孝子、笑う。 孝子「やだ、もう…」   道夫、缶ビールを買って戻って来る。 道夫「堺君、どんどん行こうよ」 裕之「いただきます」 ○ デザイン学校 教室 (数日後)    一同、ワイワイガヤガヤとー。   のんびりと動画を描いている。   裕之、壁に掛けてあるカレンダーを一枚   破る。   十一月である。 裕之「もう、あれから一ヶ月か…早いな」   洋一、真澄の描いた動画をペラペラ捲り  ながら、 洋一「動いてないじゃないか。描き直し」 真澄「すみません」 信二「あいつ、最近、カリカリしてない?」 美幸「まだ三分の一しか終わってないから」 洋一「そこ、無駄口はよせ」 裕之「休憩にしょうや」 洋一「俺には、時間がないんだ」   と、バンと机に動画用紙を叩きつける。   一同、キョトンとして洋一を見る。 洋一「……」   北浦が来る。 北浦「堺、話がある」 裕之「はい…?」 ○ デザイン学校 職員室 北浦「自分の総合評価を知っているか?」 裕之「はい。Cです」 北浦「Cでは、就職も、あまりいい所にでき  ないのも知っているな」 裕之「……」 北浦「実は、今、私の所に××会社から、制  作部の人材が欲しいと話が来ているんだ」 裕之「制作部ですか?」 北浦「そうだ。確か、お前は、プロデューサ  ー志望だったな。またとない話だと思わな  いか?」 裕之「ええ、まあ」 北浦「よかったら、推薦状を書いてやっても  いいと思っている」 裕之「でも、どうして俺に…」 北浦「私は、つねづね学校の評価など、社会  では何も役にたたないと思っている。そん  なモノより、何があっても耐えられるほど  の情熱を持った奴の方が使えると思ってい  るんだ」 裕之「…で、いつからですか?」 北浦「早ければ早い方がいいだろう」 裕之「学校の方は?」 北浦「無論、やめるしかないだろう」 裕之「卒制は…」 北浦「お前は、何のために、この学校に入っ  たんだ?」 裕之「……」 北浦「コネが欲しかったんだろう。お前のよ  うな、業界に何の縁もゆかりもない奴が、  業界で仕事をする手段として」 裕之「……」 北浦「違うのか?」 裕之「……」 ○ デザイン学校 キャンパス (夕方)   裕之と洋一が歩いている。   洋一の顔色がよくない。 裕之「疲れているんじゃないのか?」 洋一「人の心配より、自分の心配でもしてい  ろよ」 裕之「……」 洋一「…すまん」 裕之「いいんだ」 洋一「北浦に、何か言われたのか?」 裕之「(笑って)アニメ科、始まって以来の  大傑作が出来るって、言ってやったよ」 ○ 真田家 裕之の部屋 (夜) 裕之、ベッドに寝そべって考えている。 裕之「……」      ×     ×     ×   インサート。 北浦「コネが欲しかったんだろう」      ×     ×     × 裕之「……」 ○ デザイン学校 教室   一同、動画を描いている。   裕之、ボンヤリと考えごとをしている。 道夫「堺君!」 裕之「えっ!」 道夫「鉛筆が逆さまだよ」 裕之「ハハハ…一服してくるわ」   と、教室を出て行く。 真澄「作業進行が遅いから、北浦先生に…、  きつい一言でも言われたのかしら?」 美幸「どうだかね」 洋一「……」 信二「ちょっと、ショベン行って来るわ」 ○ デザイン学校 喫煙所   北浦と裕之が話しをしている。 北浦「決心がついたか?」 裕之「もう少し、時間を下さい」   裕之を追って来た信二、あっとなり、身    を隠すようにして、二人の話を聞いてし   まう。 北浦「何を迷うんだ」 裕之「……」 北浦「お前の実力じゃ、××会社などは入れ  ないぞ」 裕之「……」 北浦「考えることなどないだろう」   と、去る。   裕之、上着のポケットから煙草を取り、   一服する。   信二が来て、缶コーヒーを裕之に渡す。 信二「ぼけた頭がさえるぞ」 裕之「ああ」   信二、缶コーヒーを飲む。 裕之「…話、聞いたのか?」 信二「何のことやら」 裕之「お前って、結構いい奴だったりしてな」 信二「なんだ、それ」 裕之「コレ、ありがとう」   缶コーヒーを飲む。 ○ デザイン学校 教室   美幸、腕時計を見て、 美幸「時間だから帰ります」 道夫「聞いていいかな?」 美幸「はい?」 道夫「いつも途中で帰るけど、どうして?」 美幸「(困る)」 真澄「お父さんが、入院しているのよね」 美幸「そ、そうなの」 道夫「大変なんだ」 美幸「(決まり悪そうに)う、うん」 洋一「帰るのはかまわないが、今やっている  仕事が終わったらな」 美幸「……」 真澄「私が、彼女の続きを描きますから」 洋一「そんな必要はない。それは、彼女が責  任を持ってやる仕事だろう」 真澄「でも」 美幸「いいのよ」   裕之と信二、皆の缶コーヒーを持って戻   って来る。  裕之「(陽気に)差し入れ、差し入れ」   シーンとした気まずい雰囲気に、 裕之「何かあったの?」 ○ 道 (夕方)   日高と杉山が歩いている。 日高「あれ、山田じゃないか?」 杉山「本当だ」   美幸、予備校に入って行く。 ○ 山田家 美幸の部屋 (夜)   美幸、模擬試験の結果を見ている。   第一希望の大学には遠く及ばない。 美幸「……」   カレンダーに、『××大学入試日 二月八   日』と書いてある。 ○ 真田家 裕之の部屋 (休日の朝)    裕之がベッドで寝ている。   典子、ドタドタと部屋に入って来るや、   裕之の寝ている布団を剥ぎ取る。 裕之「何をするんだよ。休みの日ぐらい、ゆ   っくり寝かせてくれよ」 典子「誰よ、起こしてくれって言ったのは」   裕之、ハッとなり、ベッドから飛び起き   る。 ○ デザイン学校 門   裕之、走って来る。 裕之「誰も、来てないだろうな」 ○ デザイン学校 教室   裕之が来る。   机に、塗りかけのセルとペイントが置か   れてある。 裕之「(あれっと)誰かいるのか?」   奥の机の影から手が見える。   裕之、?っと歩み寄る。 裕之「(驚いて)よ、洋一!」   洋一、苦しそうに腹を押さえて、倒れて   いるのだ。 裕之「どうしたんだ?」 洋一「……」   裕之「しっかりしろよ」   と、洋一の上半身を抱きかかえる。 洋一「すまん」 裕之「(塗りかけのセルを見て)山田の分じゃ  ないか…無理しやがって」 洋一「誰かがやらなければ、しょうがないだ  ろう」 裕之「だったら、俺がやるから。今日は帰れ」 洋一「もう、大丈夫だから」 裕之「どこが大丈夫なものか」 洋一「もう、この通り痛みもひいたから」   自力で立ち上がる。 裕之「お前、少し、やせただろう」 洋一「気のせいさ」 ○ 真田家 裕之の部屋 (夜)   裕之、卒制のスケジュール表の予定を組   み直している。   五郎が入って来る。 五郎「お兄ちゃん」 裕之「何?」 五郎「お話は進んでいる?」 裕之「えっ!」 五郎「男と男の約束だよね」 裕之「(パッと)そうだったな」 ○ デザイン学校 職員室 北浦「断るって」 裕之「はい」 北浦「こんないい話は、二度とないぞ」 裕之「わかっています。でも、約束があるか  ら」 北浦「約束?」 裕之「はい。男と男の約束です」 ○ デザイン学校 教室   一同、動画を描いている。 洋一「越智、この動きは違うんじゃないのか」   と、動画を越智につき返す。 信二「これでいいんだ」 洋一「こんなモノ、人に見せられるか」 信二「なにお」 洋一「描き直しだ」 信二「ふざけるな。いつから、お前がリーダ  ーになったんだ」 洋一「嫌なら、やめちまえ」 信二「なにお」 道夫「二人共、やめないか」 信二「悪いのは、そっちの方なんだぜ」 洋一「描き直しをしない、お前が悪いんだろ  う」   洋一と信二、掴み合いの喧嘩になる。   道夫、あわてて二人の間に割って入る。   美幸と真澄、ただ見守るだけだ。   裕之、駆け込んで来る。 裕之「どうしたんだ?」 美幸「真砂君と越智君が、動画のことで揉め  ているの」 裕之「(やれやれと)揉めている暇があったら、  動画を描けよ」 洋一「……」 信二「……」 裕之「北浦を見返してやるんだろう」   と、二人を怒鳴りつける。   洋一と信二、キョトンと裕之を見る。 道夫「(笑って)一件落着!」 ○ デザイン学校 教室 (夕方)   裕之が片付けをしている。   信二が戻って来る。 裕之「忘れ物か?」 信二「あ、ああ」 裕之「(察して)何だよ」 信二「北浦の話、ケリがついたのか?」 裕之「断ったよ」 信二「もったいない話だと思うけど」 裕之「俺も、そう思うよ。でも…」 信二「何?」 裕之「約束だからさ」 信二「なんだよ、それ」 裕之「いいじゃないか」 信二「残念だったよ。お前が抜けたら、俺が  リーダーになろうと思っていたのにさ」 裕之「今からでも、遅くないぞ」 信二「もう、その気は失せたから。」 裕之「あ、そう」 信二「北浦が、真砂じゃなくて、お前をリー  ダーにしたのか、わかるような気がしてき  たよ。じゃあな、明日」 裕之「手伝いに来たんじゃないのか?」 信二「おあいにくさま。リーダー、今日は、  ありがとう」   と、去る。 裕之「変な奴だ」 ○ デザイン学校 教室 (別な日)   一同、セルにペイントで塗っている。   裕之、駆け込んで来る。 裕之「納入日が決まったぞ」 洋一「いつだ?」 裕之「二月八日」 美幸「えっ!」 真澄「どうかしたの?」 美幸「べ、別に…」 道夫「頑張ってやるか」 信二「おお!」 美幸「……」  ○ デザイン学校 撮影室   十六ミリカメラで撮影をしている、裕之、   道夫、美幸、真澄。 道夫「(タイムシートを見ながら)そのセル  AとBが逆だよ」 美幸「嘘!」   タイムシートを覗く。 道夫「…だろう」 裕之「これ、全部取り直しかよ」 真澄「何秒のカット?」 道夫「十五秒だよ」   裕之、撮影メーターを見る。 裕之「あっ!、フィルムが切れているよ」 美幸「準備室からフィルムを持って来ます」  と、あわてて撮影室を出て行く。   ○ デザイン学校 教室   洋一と信二、黙々と動画を描き続けてい   る。 ○ デザイン学校 キャンパス (夕方)   一同、歩いて来る。 裕之「早く、ラッシュを観たいな」 道夫「楽しみだ」 真澄「ちゃんと動いているのかしら?」 信二「当たり前だろう、俺の描いたシーンだ  ぜ」 洋一「浮かれるには、まだ早いぞ」 裕之「まだまだ道のりは長いよな」 洋一「覚悟していたことだろう」 美幸「あの…」 日高と杉山が通りかかる。 日高「受験生の美幸ちゃんじゃないの」 杉山「卒制と受験で大変だ」 日高「中途半端なんだよな」   と、去る。 裕之「受験って?」 美幸「今日は、失敗続きでごめんなさい」   頭を下げて、走り去る。 真澄「大学を受験するらしいの」 道夫「途中で帰っていたのは、予備校に…」 真澄「たぶんね」 裕之「最後の最後まで、やり通すことができ  るのかな」 洋一「自分自身に聞いてみろよ」 裕之「わかっているさ。難しいことぐらい…」 洋一「だったら、やめてもらうか?」 信二「そこまで言うことないだろう」 洋一「これから、修羅場が待っているんだぞ。  来るか来ないか、そんな奴をあてにしてい  たら、ますます作業が遅れてしまう」 真澄「美幸ちゃんは、やめないと思うわ」 洋一「どうして、そう言い切れるんだ」 真澄「……」 洋一「この勝負、途中で降りるわけにはいか  ないんだ」  裕之「一つ解決したと思ったら、またこれだ  よ」   ふっとため息をつく。 ○ デザイン学校 教室 (数日後)   一同、セルにペイントで色を塗っている。   空白になっている美幸の机。 道夫「あれから一日も来ないね」 裕之「どうするつもりなんだろう?」 信二「受験を取ったんだろうな」 裕之「まだ、そんなことは分からないだろう」 洋一「無断欠席っていうのがいい例さ」 真澄「……」   北浦が来る。 北浦「進んでいるか?」 裕之「は、はい」 ○ 予備校の前 (夕方)   真澄、美幸を待っている。   美幸が出て来る。 真澄「美幸ちゃん」 美幸「……」 真澄「ちょっといい?」 美幸「……」 ○ 堤防 (夕方)   美幸と真澄が歩いて行く。 真澄「勉強の方は進んでいる?」 美幸「う、うん」 真澄「アニメーション、好きなんだよね」 美幸「……」 真澄「このままだと、未練が残るんじゃない  かと思って」 美幸「ほっといて下さい」 真澄「ほっとけないから」 美幸「……」 真澄「あなたを見ていると、昔の自分を見て  いるようで…」 美幸「……」 真澄「私も一度は夢を捨てたの。進学を口実  にね」 美幸「……」 真澄「大げさかもしれないけど、夢の重さに  自分が負けたのね」 美幸「……」 真澄「あの時は、それはそれでしょうがない  と思っていたの。ある日、本屋に行くと、  小学生の低学年の女の子が漫画を観て泣い  ていたの」 美幸「……」 真澄「もう、漫画は観ないって決心していた  んだけど、どうしても気になって気になっ  てしょうがないので、翌日、本屋に行って、  その女の子が観ていた漫画を手に取ったわ。  (笑って)どうなったと思う?」 美幸「どうなったの?」 真澄「感動して泣いちゃった」 美幸「……」 真澄「あらためて思ったわ、漫画って凄いモ  ノなんだって。どうして、今まで気づかな  かったんだって。離れてみて分かったのよ。  だから、もう一度、挑戦してみることにし  たの」 美幸「売れるかどうか分からないのに」 真澄「そんなことは関係ないわ。自分が納得  できる作品が描けるまでやり続けたいの」 美幸「一生売れなくても」 真澄「夢って、そういうモノだから」 美幸「きれいごとよ」 真澄「そうかもしれないわ。でも、やらない  よりは、やった方がいいと思うわ」 美幸「……」 真澄「一緒にやろう。一緒に卒業しょう。美  幸ちゃんなら、卒制も受験も両方できるわ  よ」 美幸「……」 ○ デザイン学校 教室 洋一「山田さんには、やめてもらう」 裕之「どうして?」 洋一「来ないんじゃ、そうするしかないだろ  う」 裕之「俺は反対だ」 洋一「皆に、迷惑がかかるんだぞ」 裕之「(皆に)それで、いいのか?」 信二「俺は、洋一に賛成」 真澄「私は、反対です」 裕之「…だよな」 道夫「そう結論を急がずに、もう少し様子を  みよう」 真澄「お願いします」 ○ 予備校 教室   美幸、授業を受けているが気がのらない。 美幸「……」 ○ 公園   美幸、ブランコに乗りながらボンヤリと   考えごとをしている。   「お姉ちゃん!」って声。   美幸、振り返る。   典子と、スケッチブックを持った五郎が   来る。 美幸「(五郎に)今日は」      ×     ×     ×   美幸をモデルに、五郎がスケッチブック   に絵を描いている。 美幸「幼稚園の宿題ですか?」 典子「ええ」 五郎「お姉ちゃん、動いちゃダメだよ」 美幸「ごめん」   五郎、夢中で描いている。 典子「ご迷惑でしょう」 美幸「気にしないで下さい」 典子「すみません」 美幸「その後、五郎君はどうですか?」 典子「少しは元気になりました」 美幸「よかった」 典子「どうですか、アニメーションの進み具  合は?」 美幸「(曖昧に)ええ、まあ…」 典子「裕之ったら、どうなっているか何も話  さないものですから」 美幸「……」 典子「五郎ったら、出来上がるのを楽しみに  しているんですよ。また、クロベエに会え  るって」 美幸「……」 典子「あなたが、お話を考えたんでしょう」 美幸「……」 典子「絶対に完成させて下さいね」 美幸「……」 ○ 真田家 玄関 (夕方)   裕之が帰って来る。   女性の靴がある。 裕之「お客さん?」   奥の部屋から、笑い声が聞こえる。 裕之「ただいま」   五郎が部屋から出て来る。 五郎「お帰りなさい」 裕之「誰が来ているんだ?」 五郎「お姉ちゃん」 裕之「お姉ちゃんって?」 ○ 真田家 部屋 (夕方)   五郎に連れられて裕之が来る。 美幸「今日は」 裕之「山田!」 典子「さてと、夕食にしょうかしら。手伝っ  て」 裕之「うん」 美幸「じゃ、私は…」 典子「いいじゃないの。一緒に食べてってよ」 美幸「でも」 五郎「一緒に食べようよ」   美幸の上着の袖を引っ張る。 裕之「そうしてくれよ。俺からも頼むよ」 美幸「……」 ○ 道 (夜)   裕之と美幸が歩いて行く。 美幸「五郎君って、いい子ね」 裕之「俺のガキの頃に、そっくりでさ」 美幸「本当かしら」 裕之「説得力ない」 美幸「(笑って)ないない」 裕之「これから、どうするんだ?」 美幸「……」 裕之「よかったら、また、皆と一緒にやろう  よ」 美幸「……」 裕之「たぶん、山田が抜けても作品は完成す  ると思うよ。でも、それじゃ、作る意味が  ないんだ。わかるだろう」 美幸「ここまででいいわ」   小走りに去る。 裕之「(見送りながら)やっぱり説得力ない  か」 ○ デザイン学校 教室 北浦「山田の姿が見えないようだが」 裕之「(困って)は、はあ」 洋一「山田さんには…」   美幸が駆け込んで来る。   一同、パッと明るい顔になる。 美幸「遅刻をしてすみませんでした」 裕之「い、いいんだ」   北浦、何も言わずに出て行く。 道夫「待っていたよ」 信二「ハラハラさせやがって」 裕之「(一同に)まあ、色々あると思うけど  …」 美幸「どうも迷惑をかけてすみませんでした。  二度と、こんなことはしません」   と、深々と頭を下げる。 洋一「山田さん」 美幸「はい?」 洋一「これの色塗り、頼むよ」   ドサッとセル画を、美幸に渡す。 道夫「受験はどうするの?」 美幸「やるわよ」 道夫「やるって、両立させるってこと?」 美幸「そう」 真澄「(美幸に微笑む)」 美幸「(微笑み返す)」 ○ 一番亭 ラーメン屋の店内   北浦、ラーメンを食べている。 大石「どうかね、六班の面々は?」 北浦「いわしのような奴らですよ」 大石「いわしか…(ふっとニヤリと笑って)  ありゃ、骨っぽい魚だからな」 北浦「……」 ○ デザイン学校 教室   一同、背景を描いている。 洋一「この背景を描いたのは?」 真澄「はい」 洋一「昼間なのに、夜になっているぞ」 真澄「すみません」   謝るものの、妙に明るい。 信二「いいことでもあった?」 真澄 「別に」 信二「顔に書いてあるけど」 ○ 本屋の店頭   真澄、漫画の雑誌を観ている。   コンクールの審査発表が載っている。   真澄の名前はない。 真澄「……」   自転車に乗った美幸が通りかかる。 美幸「(真澄に気づいて)……」 ○ 堤防 (夕方)   真澄と美幸、座って話し込んでいる。 美幸「コンクール、ダメだったんだ」 真澄「(苦笑する)」 美幸「何回目?」 真澄「忘れたわ」 美幸「真澄さんの漫画を評価しないコンクー  ルなんて、たいしたもんじゃないわ」 真澄「……」 美幸「もっと自信を持って」 真澄「……」 美幸「あなたなら、きっとなれるわよ」 真澄「……」 美幸「私…真澄さんに声を掛けられた時、本  当は嬉しかったの」 真澄「ありがとう」 美幸「頑張って」 真澄「うん」 ○ デザイン学校 教室 (朝) 裕之「…そう、柳沢さんが…」 美幸「皆で、励ましてやりたいと思って」 信二「お節介は、嫌いだったんだろう」 美幸「仲間だから」 信二「…仲間ね。もっと、嫌いな言葉だろう」 美幸「……」 道夫「これからは、忙しくなるばかりだし、  最後の息抜きを、パッとやりますか?」 信二「それもいいかもな」 裕之「洋一は?」 洋一「ああ」    ワッーと盛り上がる。 裕之「今度こそ、全員参加だからな」   真澄が来る。 真澄「お早うございます」 ○ 一番亭 ラーメン屋 (夜)   ワイワイガヤガヤと。   大石、ビールを持って来る。 大石「差し入れだ。よかったら、やってくれ」 裕之「ありがとうございます」 道夫「では、まず、堺君から一言」 裕之「俺?」 道夫「リーダーだろう」 裕之「色々あったけど、これからは目標に向  かって前進するだけです。皆、頑張ろう」   一同、乾杯する。   突然、洋一が腹を押さえながら倒れる。 裕之「お、おい」   洋一、意識がない。   騒然となる。 ○ 病院 手術室の前   一同、心配そうに待っている。 裕之「あいつのことだ、大丈夫だよ」   沈黙。 裕之「大丈夫ったら大丈夫だよ。まだ、あい  つには、やり残したことが一杯あるんだ」   と、つい荒げた声を上げてしまう。 信二「ここを、どこだと思っているんだ」 裕之「……」   道夫が来る。 真澄「ご両親は?」 道夫「連絡が取れたよ」 真澄「よかった」 道夫「こんなに体が悪くなる前に、どうして  一言相談してくれなかったんだろう」 裕之「…俺が悪いんだ…」 道夫「どういうこと?」 裕之「一度、倒れている所に出くわしたこと  があるんだ」 道夫「本当かい?」 裕之「あの時、強引にでも病院に連れて行く  べきだったんだ」 信二「なんで、そんな大事なことを黙ってい  たんだ」 裕之「あの時は、こんなことになるとは思わ  なかったから」 信二「そんなことを言っているんじゃない」 美幸「やめてよ、二人とも」 信二「お前のいう仲間って、一体何なんだ?」 裕之「……」 信二「(やりきれなくて)何とか言えよ」 裕之「……」 ○ 病院 病室 (夜)   洋一、ベッドで吸引機をつけて眠ってい   る。 医者「ここ、二、三日が峠でしょう」   洋一の両親が見守っている。 ○ 真田家 裕之の部屋 (夜)   裕之、なかなか寝られない。 裕之「……」 ○ デザイン学校 教室 (翌日の朝)   裕之が来る。   美幸、セル画に色を塗っている。 裕之「お早う」 美幸「お早う」 裕之「今朝は早いな」 美幸「堺君だって」 裕之「リーダーとしたら、これからの段取り  があるだろう」 美幸「真砂君の分なら、私がやるからいいわ」 裕之「大学に落ちても知らないぞ」 美幸「落ちるような受験勉強はしてないわ」 裕之「だったら、いいんだけど」   道夫、真澄、信二たちも来る。 裕之「今朝に限って、皆、早いじゃないか」 ○ 真田家 玄関 (夜)   裕之が帰って来る。   典子が現れ、 典子「真砂君のご両親から電話があって、意  識を取り戻したって」 裕之「(ホッとして)よかった」 ○ 病院 病室   洋一がベッドに寝ている。 裕之「大丈夫なのか?」 洋一「ああ。心配させちまったな」   と、上半身起きようとする。 裕之「無理するなよ」 洋一「俺には、時間がないんだ」 裕之「時間?」 洋一「(苦しそうに顔を歪める)」 裕之「卒制の方なら心配するな。ちゃんとや  っているからさ」 洋一「……」 ○ デザイン学校 教室   裕之が来る。   一同に混じって、大石がセル画に色を塗   っている。 裕之「おやじさん」 大石「早かったな」 道夫「大石さんに事情を話したら、手伝って  くれて」 真澄「昔、アニメの仕事をしていたんですっ  て」 大石「少しの間だけど…」 裕之「そうなんですか」 大石「真砂君の様子は、どうだね」 裕之「元気でした」 大石「それは、よかった」 信二「心配かけやがってよ」 裕之「皆に、よろしくってさ」 真澄「真砂君の退院する頃には作品は出来上  がっているかしら」 裕之「当たり前だろう」   一同の安堵した顔。 ○ 真田家 裕之の部屋 (夜)   裕之、タイムシートを見ながらセル画の   チェックをしている。   裕之「OKだな」   セル画をカット袋にしまい、机に置く。   次のタイムシートのチェックをしだす。   セル画をしまったカット袋がガタガタと   音をたてて動きだす。   すると、カット袋から、セル画が一斉に   パッと外に飛び出す。 裕之「(唖然となる)」   セル画が、自由きままに宙を舞う。   裕之、その一枚を取ろうとするが、窓か   ら夜空に飛び出して行く。 裕之「おい、どこに行くんだ」 ○ 道 (夜)   夜空を飛んで行くセル画。   裕之、必死で後を追う。 ○ 病院 (夜)   セル画がヒラヒラと地面に落ちる。   裕之が走って来て、止まる。   人影が見える。   落ちたセル画を拾う手。 裕之「誰?」   月明かりに照らされる顔。   洋一である。 裕之「こんな所で、何をしているんだ?」 洋一「このシーンは、俺が一番好きなんだ」   と、セル画を裕之に渡す。   すると、洋一、微笑を浮かべながら、ス   ーッと消えて行く。 裕之「!」 ○ 真田家 裕之の部屋 (朝)   机に顔をこすりつけて寝ている裕之、ハ   ッとなって目が覚める。 裕之「…夢か」   あわてて、例のカット袋の中からセル画   を出す。   ペラペラと早く捲る。   まるで、アニメーションのように動いて   いる。   五郎とクロベエの別れのシーンである。 五郎 (裕之の声)「クロベエと別れるの   は嫌だ」 クロベエ(洋一の声)「僕は、いつだって五  郎ちゃんの傍にいるよ。ほら、眼を瞑って  ごらん。僕の姿が見えるだろう。さぁ、元  気をだして」 裕之「えっ! 洋一」   部屋をキョロキョロと見渡す。   ドドド…っと階段をけたたましく上って   来る足音。   ドアが開き、典子が顔を出す。 典子「洋一君が…」 裕之「!」 ○ 真砂家 居間   告別式の最中。   中央の祭壇に洋一の写真が飾られてある。   洋一の両親、親戚たちがいる。   隅の方に、裕之、信二、道夫、美幸、真   澄たち。   裕之、泣き崩れている。 裕之「ばかやろが…」 ○ 走る電車の中   一同、俯いて黙っている。 ○ デザイン学校 教室 (翌日)   道夫、ビュワーにかけてラッシュフィル   ムをチェックしている。 北浦「他の奴らは?」 道夫「まだですけど」 北浦「そうか」   と、道夫を見る。 道夫「何か?」 北浦「さすが、御曹司は動揺しないんだな」 道夫「僕だって、ショックですよ。できれば、  皆と一緒で何もやりたくありませんよ」 北浦「やっているじゃないか」 道夫「遊べる時間は、後わずかしかありませ  んからね」 北浦「……」   信二が来る。 北浦「中野だけじゃないようだな」 信二「何のことですか?」   北浦、何も言わずに出て行く。 美幸と真澄が来る。 信二「考えることは一緒だな」 道夫「作品を完成させることが、一番の供養  だよ」   一同、頷く。 ○ 真田家 裕之の部屋 裕之、ボンヤリしている。 裕之「……」 ○ デザイン学校 教室 (数日後)   カレンダーは、十二月になっている。   一同、作業している。 信二「堺の奴、今日も休みかよ」 道夫「……」 ○ 真田家 裕之の部屋 (夜) 道夫「皆、待っているよ」 裕之「……」 道夫「真砂君が泣いているぞ」 裕之「……」 道夫「このまま、やめてしまうつもりかい?」 裕之「それも、いいかもしれません」 道夫「やめるって、そんな簡単に言えるのか  い」 裕之「……」 道夫「専門学校の二年って、堺君にとって、  一体何だったんだ?」 裕之「……」 道夫「……」 裕之「……」 道夫「いい大人が、こんな青臭いことを言う  と笑われるかもしれないけど…今の堺君に  は、やらなければいけないことがあるんじ  ゃないのか?」 裕之「……」 道夫「真砂君が見たら、がっかりするぞ」 裕之「そんな気分になれないんです」 道夫「うらやましいよ、まだ時間のある人は」 裕之「(ハッとして)…時間」      ×     ×     ×   インサート。 洋一「俺には、時間がないんだ」      ×     ×     × 道夫「僕には、もう二ヶ月しか自由のきく時  間がないんだ」 裕之「……」 道夫「今思うと、真砂君もそうだったんじゃ  ないかな」 裕之「どういう意味ですか?」 道夫「彼の口癖さ」 裕之「口癖?」 道夫「時間がない、時間がないっていう、あ  れさ」 裕之「……」 道夫「自分の体のこと、実は、わかっていた  んじゃないのかな。だから、あんなに一生  懸命になれたんじゃないのか。立場は違う  けど、似たようなモノだから」 裕之「……」 ○ 寺 墓地   裕之、洋一の墓に手を合わせている。 裕之「……」 ○ 真田家 裕之の部屋   五郎が封筒を持って来る。 五郎「手紙だよ」   と、裕之に渡す。   裕之、封筒を裏返して差出人の名前を見   る。   真砂洋一とある。   裕之、封を切る。 洋一の声「この手紙が届く頃には…」 ○ 予備校 教室   美幸、黒板に書かれた数学の問題をノー   トに書き写しているものの、気が乗らず   に鉛筆を置く。 洋一の声「皆に、頼みがある」 ○ アパート 信二の部屋   信二、洋一に怒鳴られた動画を見ている。 洋一の声「この作品だけは完成させてくれ」 ○ マンション 道夫の部屋   道夫と孝子、セル画に色を塗っている。 洋一の声「それが、俺たちの始まりだから」 ○ デザイン学校 教室   真澄、洋一の描いた絵コンテを見ている。 洋一の声「俺たちにしか作れない作品だから」 ○ 真田家 裕之の部屋   裕之、手紙を読んでいる。 洋一の声「リーダー、頼むぞ」      ×     ×     ×   インサート。 洋一「「自分の手がけたアニメーションを観  て喜んでくれる子供たちの笑顔を見たいか  ら、作るんだ」      ×     ×     × 裕之「……」   洋一の手紙を握り潰す。   止めどなく頬をつたう悔し涙。 ○ デザイン学校 廊下 (翌日)   大石、様子を見に来る。   教室の中から、裕之の声が聞こえてくる。 ○ デザイン学校 教室   大石、教室を覗いている。 裕之「(気づき)おやじさん」 大石「ちょっと、通りかかったもんでな」 裕之「俺たちなら、もう大丈夫です」 大石「いわしか…北浦も、うまいことを言っ  たな」 裕之「なんですか?」 大石「たまには、ラーメン喰いに来いや。お  ごってやるから」 裕之「(元気に)はい」 ○ ××大学 門 (一ヵ月後)   入試会場の看板。   受験生たちが入って行く。   美幸の姿がある。 ○ デザイン学校 撮影室   壁に、『納入期日まで、後に週間』と書   かれた紙が貼られてある。   一同、撮影している。   美幸が入って来る。 美幸「進んでいる?」   一同、驚く。 裕之「試験は?」 美幸「だって、気になるんだもの」 裕之「気になるってな」 美幸「まだ、他にも入試はあるから」 裕之「でも」 信二「そんなことより早く撮影しろよ。今日  中に終わらせなきゃ、間に合わなくなる」      ×     ×     ×   一同、撮影の追い込みに大変だ。   シャッターの押す音が響く。      ×     ×     × 裕之「いよいよ、ラストカットだ」   一同、注目する。   裕之、最後のシャッターを切る。   カシャ!。   「やった!」っと歓喜な声が飛び交う。 ○ デザイン学校 音響室   ラッシュフィルムに合わせながら、裕之、   美幸、真澄がセリフを入れている。   調整室から、道夫と信二がOKのサイン   を送る。 ○ デザイン学校 教室   裕之、ラッシュフィルムに合わせてネガ   フィルムを、スプライザーでつないでい   る。 裕之「部屋が寒くて、くっつかないぞ」 信二「ストーブでもないのか?」 道夫「職員室から借りてきたら」 美幸「行って来ます」 真澄「手伝うわ」   廊下で、ガタンと音がする。   道夫がドアを開ける。   ストーブが置いてある。   北浦の後ろ姿。 道夫「……」 ○ デザイン学校の全景 (夜)   ポツリ、ポツリと雪が降ってくる。 ○ デザイン学校 教室 (深夜)   裕之の作業が続く。   信二、美幸、真澄らは、疲れているのか   寝てしまっている。 道夫「一休みしたら、変わるよ」 裕之「ありがとう」 ○ デザイン学校 職員室 (深夜)   北浦と大石の姿。 ○ デザイン学校 教室 (早朝)   裕之、ラストカットとシロミをつなげる。 裕之「(大声で)やった!」   その声で起きる、信二、美幸、真澄。 道夫「(微笑んで)無事終了だよ」 ○ デザイン学校 廊下 (早朝)   一同が出て来る。   北浦がいる。 北浦「ラボには、俺が持って行くから、今日  ぐらいはゆっくり休め」   裕之からフィルムを受け取る。 裕之「お願いします」 北浦「ああ。(そうそうと)大石さんが、ラー  メンを作って待っているからって」   と、急いで去る。 美幸「いい所あるじゃないの」 道夫「やさしい人さ」 裕之「うん」 ○ デザイン学校 キャンパス (早朝)   しらじらと夜が明けてくる。   一同、眩しそうに朝日を見上げる。   それぞれの思いが心によぎる。 道夫「真砂君に、報告しなくちゃいけないな」 真澄「そうね」 信二「あいつのおかげだ」 美幸「うん」 裕之「それは違う。皆が頑張ったから出来上  がったんだ」   積もった雪で、雪合戦が始まる。   無邪気な姿だ。 ○ デザイン学校 門 (数週間後)   『アニメ科、卒業生の作品展』   典子と五郎が来る。 ○ デザイン学校 会場   六班の作ったアニメーションが流れてい   る。   典子と五郎が観ている。   五郎、眼に一杯涙を溜めている。   裕之がそっと近づく。   典子、裕之に気づく。   裕之、シーっと唇に人差し指を当てる。  典子「(口パクで)ありがとう」 裕之「(微笑む)」 ○ 一番亭 ラーメン屋の店内 (後日) 大石「××会社に就職決まったんだって」 裕之「編集助手ですけど」 大石「よかったじゃないか」 裕之「本当は、制作をやりたかったんだけど」 大石「贅沢を言うな」 裕之「そうですね。取り敢えずは、一歩夢に  近づけたわけだし」 大石「これで、北浦組を卒業できたのは二班  に増えたよ」 裕之「まぐれかも」 大石「実力さ。お前たちなら、この世界で十  分やっていけるさ」 ○ ××会社 出入り口   道夫が部下を引き連れて来る。   高級外車が止まる。 部下「社長、今日の予定ですが…」 道夫「キャンセルにしてくれ。今日は、大切  な仲間たちと会う日なんだ」 ○ 山田家 美幸の部屋   美幸、時計を見ながら、 美幸「(イライラと)…遅刻しちゃうわ」   電話が鳴る。   受話器を取る。 美幸「(嬉しそうに)…合格、やったわ」 ○ アニメの撮影会社 撮影室 信二「まだ、終わらないんですか?」 撮影マン「もう少しだから」 信二「俺、これから用事があるんですけど」 撮影マン「新人のくせに、生意気言うね」 信二「(ボソッと)作画志望の俺が、どうして  制作進行をやらなければいけないんだ」 ○ 雑誌社   編集者が、真澄の描いた漫画を読んでい   る。 編集者「まだまだだね」   と、漫画の原稿を真澄につき返す。 真澄「(明るく)ありがとうございました」 編集者「ガッカリしないんだ」 真澄「自分を信じていますから」 編集者「新しいのが描けたら、持って来なさ  い。また、読んで上げるから(微笑む)」 真澄「はい」 ○ デザイン学校 教室 北浦「今日で、お前たちと顔を合わせるのも  最後だな」   一同、黙って聞いている。 北浦「いいか、アニメのセル画は、一枚一枚  を見ても何も変化はないな。でも、それが、  十枚、二十枚重ねて、捲っていけば一つの  動きが見られる。今のお前たちは、ただの  セル画一枚にしか過ぎない」   一同、聞いている。 北浦「ただの一枚だが、その一枚に色塗りの  間違いがあったり、ニュートンリングが出  ていたらどうする?」 裕之「取り直しです」 北浦「そうだな。どんなことにも手を抜くな。  精一杯やってみろ」   一同、聞いている。 北浦「堺」 裕之「はい」 北浦「中野」 道夫「はい」 北浦「越智」 信二「はい」 北浦「山田」 美幸「はい」 北浦「柳沢」 真澄「はい」 北浦「真砂洋一」 一同「はい」 北浦「お前たちを誇りに思う。卒業おめでと  う」   一同、教室を出て行こうとすると、 北浦「堺」 裕之「はい?」 北浦「プロに必要なモノは何だ?」 裕之「その仕事が大好きになることだと思い  ます。きっと、好きだということが、最高  の才能じゃないでしょうか」 北浦「堺さん、素晴らしい作品を作って下さ  い」 裕之「色々と教えていただいてありがとうご  ざいました」   一同、礼をする。 ○ デザイン学校 キャンパス   一同、集まっている。 信二「俺たちの祭りも終わったな」 裕之「いや終わってないさ」 道夫「それぞれ進む道は違うけど」 美幸「頑張りましょう」 真澄「私だって、負けないわよ」 裕之「これからが、本当の始まりだ」   それぞれ別々の方向に歩き出す ○ 一番亭 ラーメン屋の店内   正面に飾ってあるよう洋一の描いたスケ   ッチ。   裕之、道夫、信二、美幸、真澄の笑顔。                おわり。