シナリオ講座      一般社団法人シナリオ作家協会


     
   西岡琢也
  (シナリオ作家/日本シナリオ作家協会理事長)

  京都府出身、関西大学法学部卒業。フリーの助監督を経て、
  79年脚本デビュー。大阪芸術大学映像学科教授も務める。

  ■映画
  「沈まぬ太陽」「秋深き」「火垂るの墓」「陽はまた昇る」
  「金田一少年の事件簿」「マリアの胃袋」「はいからさんが通る」
  「犬死にせしもの」「ションベン・ライダー」「ガキ帝国」他多数
  ■TV
  「京都迷宮案内シリーズ」「松ヶ枝町サーガ」「静かなるドン」
  「十七歳の戦争」他


                            


2008年6月9日(月曜日)

新聞休刊日。朝刊代わりに佐野眞一「甘粕正彦 乱心の曠野」(新潮社)を読み始める。甘粕宛てのおネェ言葉の手紙、興味をそそる。佐野氏の分析、チト固い。

11時、歌舞伎座昼の部。文耕堂・三好松洛ほか「新薄雪物語」。芝翫、染五郎もよいが、詮議の場に役者が揃った。
海老蔵襲名以来、話題に欠ける梨園だが、かねて不仲を噂されていた幸四郎・吉右衛門兄弟が、ここん所一緒に板の上に立ち始めている。実力者の二人が出ると、さすがに舞台は締まる。今日は二人に富十郎が加わり、その口跡のいい台詞が朗々と劇場に響き渡った。
最後の合腹の場には驚いた。子供を逃がす為に腹を切った二人の男と妻の一人(芝翫)が、今生の別れにと三人一緒に笑うのだ。別名『三人笑」の場と言う。作家たちは死の間際に笑いを要求する・・・究極の役者苛めだ。三人の役者は懸命にそれに応えようとする。見応えがあった。

帰って「シネアスト市川崑」(キネマ旬報社)をパラパラ繰る。「細雪」をめぐって淀川長治の鑑賞眼の確かさ、批評の鋭さ。 こんな批評家、今日本のどこにもいやしない。

CSで阪神−オリックスを2回オモテより観戦。4−1で阪神完勝。下柳・金本・矢野の40歳トリオがお立ち台。これで5連勝。

寝る前、又「甘粕―」読む。大杉栄殺害後、甘粕を裁いた軍法会議の詳述、読ませる。眠くならぬが中断して寝る。





2008年6月10日(火曜日)

10時、東京駅より新幹線で大阪行き。3年前から週3日、大阪の芸術系大学でシナリオを教えている。TVドラマの激減、衰弱した日本映画にも出番なく収入確保の為始めたが、一年の半分27週の内、火・水・木は大阪と言うのは、さすがに辛い。

車内で丸谷才一「月とメロン」(文芸春秋)、読む。丸谷流ウンチク評論は読むのに体力が要る。元気な時しか読めない。首狩り族の合唱、ディープキスの話は面白かった。
「われわれはリアリズムではうまく捕捉しにくい対象に立向ふとき、リアリズムにこだわりすぎてゐないか。」
松本清張について触れた一節、我々のシナリオの仕事にもはね返って考えさせられる。

大学へ着いて、三回生二名のシナリオ面接。続いて4限目、5限目の二回生のシナリオの授業。
R・スコット「テルマ&ルイーズ」上映。上映後、構成(ハコ)の解説。

終えてホテルへ帰ると、7時前。もうぐったり。今日は移動日で阪神戦はない。寝転んで、青木玉「小石川の家」(講談社文庫)を読んでるとウトウトする。この前、関川夏央「家族の昭和」(新潮社)を読んでたら、青木玉を読みたくなった。本は一冊読了して終わりでなし。一冊読み終えるとネズミ算式に読みたい本が増える。家の中の決して減らない本の山、何とかならぬか。





2008年6月11日(水曜日)

10時半に大学へ。行きの電車で、志ん朝一門「よってたかって古今亭志ん朝」(文春文庫)を読む。この手の芸能もの、芸談ものが大好きで、必ず買う。単行本で買っとかないと絶版になるものが多いが、これは文庫になると睨んでたらやっぱりそうなった。弟子たちが亡き師・志ん朝を語る。志ん朝に心酔して入門した弟子ばかりと思ってたが、殆どそうでないのは意外。

2限目の大学院の授業から。作曲専攻の院生にシナリオの話。院は他学科の学生も受講するので面白いと言えば面白いが、手間がかかるのは確か。主人公像を掘り下げようとああでもない、こうでもないと語り合う。

昼食後、図書館へ行って来年一月スタートのTXの昼オビのハコ、考える。テレビのドラマ枠が減る中、TXがドラマを増やしつつあるのは心強い。

午後は四回生のシナリオの授業と、四回生の制作する映画のシナリオの面接指導。登場人物をキチンと具体的に造形せずにストーリーを作るプロットやシナリオ多し。毎回口をすっぱくして言うが、中々直らぬ。根本的に映画教養不足、即ち映画を観ていない。小説も読まぬし音楽も聴かぬし芝居も観ないし落語も聞かぬし絵も知らない。それでシナリオ書こう、映画作ろうと言う図々しさ。怒るより呆れる。
夜、西武-阪神をTV観戦。ややせったゲームになるも、4−6で阪神辛勝。6連勝。セパ通じて初の40勝。4時間を越える試合。野球は長い。くたびれる。しかし勝てばよく眠れる。



2008年6月12日(木曜日)


いつも通り6時起床。朝刊に堤未果「ルポ 貧国大国アメリカ」(岩波新書)が日本エッセイスト・クラブ賞を獲ったと出てた。今年読んだ中で最も面白かった一冊。読むと、よくアメリカなんかに住む気なれるなと思う。でも実は現在のアメリカの姿は何年か先の日本のようにも読める。戦慄の書だ。お勧め。

今日は1限目の9時10分から授業。文芸学科の「シナリオ制作」。3年前に開講したが、一年目50人近く受講したので、去年は25名に人数制限。三年目の今年は手違いで制限を忘れたせいで、70余名も受講希望者が出て、本来の時間割りでこなし切れず、木曜1限目を急遽増やした。授業でシナリオのいろはを教え、一年間で30分のドラマシナリオを全員に書かせるのだが、70余名相手に一人でそれぞれのプロット、ハコ、シナリオを読んでアドバイスしなければならない。今日は14本のプロット提出あり。読むだけでひと仕事だ。
2限目が空くので、図書館へ行って、TXの昼オビのハコの続き。12週もあるドラマなので、4人で手分けして書く予定。作協で井上由美子さん、柏原寛司さんと教えた“花の43期”(と勝手にそう呼んでる)の生徒3人に手伝ってもらう。出来るだけ先生の手をわずらわせず書き切ってくれる事を切に祈る。

3限目は再び文芸学科の「シナリオ制作」の面接。4限目は三回生の制作のシナリオ指導。
5時に大学を出て、新大阪へ。車中、「よってたかって―」「小石川の―」を読み継ぐ。京都駅、名古屋駅で、ケータイで阪神戦の途中経過をチェック。西武にリードされている。結果3−6で負け。ま、たまには負ける事もあるさ(昔はたまにしか勝ってなかったんだから)。
家に帰ったら10時。風呂に入って寝る。体、バラバラなり。



2008年6月13日(金曜日)

午前中、閉幕迫る「横尾忠則展」(世田谷美術館)へ行く予定だったが、疲れて動けぬ。今月号の「芸術新潮」の横尾特集をじっくり読んだし、ま、いいかと納得させ諦める。でも横尾氏お得意の「ピンクガールズ」のグッズ、欲しかったなぁ。

「シネアスト市川崑」を拾い読み。中井貴一が「俳優は絶対まばたきするな。何故なら観客は俳優の目を見ているから」と崑さんに言われたとか。成程と感じ入る。崑さん助監督の頃、「山道持って来い」と言われウロウロした。「山道」とは手ぬぐいの隠語なり。初めて知った。

2時から銀座・東映本社で打ち合わせ。八月撮影のTV「京都迷宮案内」のスペシャルのプロット検討。ゲスト主役がドラマの最後にその人生や事情を語る(所謂2Hドラマお馴染みの断崖の場ですな)のはやめよう、アキアキしたとダダをこねる。しかし結局「断崖ドラマ」になりそう。

4時半に永田町へ。放送文化基金の表彰式。去年8月NHKで放送した「鬼太郎が見た玉砕」がテレビドラマ部門の本賞を受賞した。他に多数受賞者あり、表彰式は延々2時間。その間に色々考えたが、ここに書くと各方面、各人に甚だしく差し障りがあるので控える。一言で言えば、テレビの未来は暗い。明るく弾んだ声を挙げ式後のパーティへ向かう受賞者たちを尻目に、ブルーな気持ちで帰る。

大学の同僚でもある太田米男氏が送ってくれたDVD「何が彼女をそうさせたか」を観る。鈴木重吉監督の昭和5年公開の傾向映画。大ヒットし、かつキネ旬ベストワン。20年位前、ロシアでプリントが一本だけ残っていると判り、そのプリント(本編の37%欠落)を太田氏たちが修復・復元した。一見し、驚愕した。映画の原型が生々しくここにある。後づけのドイツ人作曲家の音楽も絶品。久しぶりに映画で心を揺さぶられた。必見!



2008年6月14日(土曜日)


朝から日中合作テレビ作品のシナリオ執筆。45分×25話の大河ドラマ。去年からこれを二人で手分けして書き続けている。小生は13話分がノルマ。奇しくも今日はその13話目を脱稿する。ラスト、ペラ40枚を書く。

同郷の若者二人が運命の星に操られ立身出世して行く姿を清朝末期の政争劇と絡めて描くこの原作は、文庫本4冊の大冊だが、さすがに25話分のボリュームはないだろうと予想して、あっちの資料、こっちの資料と漁りまくってふくらませて行ったが、どうも取り越し苦労だったようで、何とか小生担当分は約束の13話分、書き終える事が出来た。後は有能な相方がラストまで突っ走ってくれるだろう。

夕方散歩に出て、近所のブックオフに立ち寄る。この店、最近中古DVDの品揃えが充実し始めたので、週に一度は必ず顔を出すようになった。ここは本でもDVDでもその値打ちを知らず考えず、機械的に値づけするので驚くような作品が驚くような安値で手に入る。この前、P・ジェルミ「刑事」を見つけ、即買った(980円!)。
今日は「恐怖のメロディ」「誓いの休暇」「夏の嵐」を買う。「夏の嵐」は250円也。これじゃあ泉下のヴィスコンティに叱られるよ、売る方も買う方も。

帰ると阪神完敗のニュース。先発のアッチソンの乱調。好調阪神の唯一の不満は、投打の外国人選手の不作。即帰国させよ。



2008年6月15日(日曜日)

午前中は、この前ボツになった「迷宮」スペシャルのプロットを再考する。何とか事件も謎ときも犯人探しもなしで二時間ドラマを作ろうとするから、難しい。でもどれも似たりよったりのテレビドラマばかりじゃつまらないでしょ?昔のテレビはもっと自由でしたたかで挑発的だったけれど(それは昔の日本映画も同じ)、いつからくだらないドラマしかやらなくなったのだろう。

午後は脱稿した日中合作テレビの第一稿ニ話分の直し。果たして撮影に突入出来る作品になるかどうか。
続いて大学から送られて来たニ回生の提出プロット15本に目を通す。来週火曜日の面接分。学生の書く大量の提出物を読むのは、将に苦役。

阪神はロッテとデイゲーム。大敗模様が終盤一変、九回表で9−9まで追いつくも、その裏にサヨナラ負け。今季初の3連敗。

夜、DVDでR・ワイズ「アンドロメダ・・・」を観る。1971年製作のSF映画(原作/M・クライトン)。封切時、15歳の時確か亡父と一緒に観に行った記憶があるから、37年ぶりの再見。CGのない時代の、工夫に工夫を重ねたSFシーンがほほえましくかつ力強い。

9時から、最近唯一楽しみにしている(ニュースとスポーツ以外、全くテレビを見ない)TV番組「NHKスペシャル・激流中国」を観る。13億人の医療体制の現状報告だが、富裕層と貧困層の格差に焦点を当て、図式化・単純化してまとめた点が不満。理解しやすいが、それ以上に何も語れない。

今日で小生の日記も打ち止め。明日から井上正子さんにバトンタッチ。そこでここまで読んでくれた人に耳よりな情報を一つ。
ここ2年続けて水木洋子賞受賞者は、井上さんの周辺から出ている。シナリオ指導に抜群の力を発揮される人と見ていい。今後シナリオ講座の講師や特別講義で彼女の名前を見たら、シナリオライター志望の諸君は、何をおいても駆けつけるべし。あ、「井上淳一」じゃないですよ。「井上正子」さんです!


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