シナリオ講座      一般社団法人シナリオ作家協会


     
   浪江裕史 (シナリオ作家)

1957年 兵庫県西宮生まれ
主な作品 「大好き!五つ子」シリーズ(99〜09)
「金田一少年の事件簿」「こいまち」「聖夜の奇跡」
「ひとりっ子同士」など

落語台本 「娘の結婚」「福の神」「カレーなる一族」など


                            


2009年10月5日(月曜日)

脚本家兼人生セラピスト・若月ユウ陽氏からバトンを受け、今日から書くことになりました。
浪江です。

約20年前、若月氏も僕も、故井手俊郎先生の門下生だった。同門ってヤツですね。

あの頃の僕は、「脚本家になる!」と、大見得を切って制作会社をやめたばかり。
なんて言うのは、ちょっとカッコつけすぎで、
ホントは、照明部さんに「君は早くシナリオライターになった方がいいよ」と、進言されるような役立たずの助監督だった。

「脚本家になる!」って宣言したものの、何の当てもなし。
「歳も30に近づいてるのに、参ったなぁ」と、思いながら、朝からパチンコなんかしてる毎日。
そんな時に、見つけてしまったのだ。
「月刊シナリオ誌」の片隅に。

それは、「そろそろ現役の仕事も終わりに近づいてきたので、シナリオを教えようと思います 井手俊郎」という小さな広告だった。
「これや! これしかない!」
部屋の中で、一人で叫んでいた。

だけど、「これしかない!」と思ったクセに、井手先生がどんな脚本を書かれてきたのか。日本映画史にどれほどの多くの、そして大きな仕事を残されたのか、ほとんど知らないアホでした。
ホント、失礼な話。

こんな失礼千万な門下生に、井手先生は、
「あなたは、そんなにモノを知らないで、よくシナリオを書こうなんて思いますねぇ」と、何度も言われた。
そう言う先生の顔は、いつも笑顔だったけれど、きっと目の奥は笑ってなんかいなかった……ハズ。
その頃は、全然気がつかなかったけど。

ロクな門下生じゃなかったなぁ。
先生、すみませんでした。でも、今なら、先生の言われてたこと、少しは分かります。


師匠と弟子。
擬似親子みたいなものだけど、本当の親子とは決定的に違う点がある。
それは、子供は親を選べないが、弟子は師匠を選べるってこと。

立川談春の『赤めだか』に、談春が談志師匠に怒鳴られる下りがある。(引用します)
「前座の間はな、どうやったら俺が喜ぶか、それだけを考えろ。患うほど気を遣え。お前は俺に惚れて落語家になったんだろう。本気で惚れてる相手なら死ぬ気で尽くせ。サシで付き合って相手を喜ばせられないような奴が何百人という客を満足させられるわけがねぇだろう」

痺れた。
談春に怒鳴った立川談志に。そして、立川談志を師匠に選んだ談春に。

人が落語家という道を選ぶには、誰かの弟子になるしか他に方法はない。
全ての落語家には師匠がいる。そして、前座という修行時代がある。

だから、落語家っていう職業は、人種は、まぶしい。(と、僕は思う)

で、ここ数年、新作落語の台本を書き始めた。
噺家になれないなら、台本を書いて、憧れの噺家さんとお近づきになりたいという、ヨコシマな魂胆だ。
悪いか。

てなことで、初日はこのへんで。
お後がよろしいようで……。

こんなんで、日記になってるのかな?



2009年10月6日(火曜日)

シナリオを仕事にしてから、約20年が経つ。
そのうち、13年、僕は昼の帯ドラマを書いてきた。
別に、そんな気は全然なかったんですよ。
いや、むしろ昼帯を書くの、本当はあんまり好きじゃなかった。今だから言うけど……。

とにかく長い。20話、25話、30話、35話……、書いても書いても書いても書いても終わらない。
こんなこと言うのは恥ずかしいけど、毎回、毎回、最終週は、息も絶え絶えだった。
それが毎年毎年……。
前回なんか、逃げないように、ほとんど収録スタジオに収監されて書いてました。解き放しても逃げませんけどね。

でも、いつからか、その長さが愛おしくなった。
長いから、毎日毎日放送されるから、うっかり飛ばしてしまうような部分に、ドラマを見つけることが出来た。
小さな小さな日常の中に、キラリと輝く宝石があることに気付いた。
それは、昼ドラにしかない武器だと思った時、いつの間にか、昼ドラを書くのが好きになっていた。

しかし、その昼のドラマが、テレビからほぼ消滅した……。
……ったく。

今日は半日、コミックの原作のアイデアを練っていた。
飲み屋で会った編集者のコミック誌に、原作を書く約束をしたのだ。
顔なじみの漫画家が、「浪江さんが原作を書くなら、あたしが絵を描く」と、めちゃめちゃ忙しいクセに酔った勢いで言ってくれた。
酒の勢いも、たまには役に立つ。

で、今夜も今から、ちょっとだけ飲みに行く。
と言っても、カミさんの店ですけどね。

ウチのカミさんは酒場をやってる。
もう35年になる。
こっちは、シナリオをぼそぼそ書き続けて20年。
全然敵いません。



こいつに、こんな風にジャマされながら毎日生きてます。




2009年10月7日(水曜日)

朝の10時から、赤坂にて制作会社のプロデューサーと打合せ。
何故、午前10時? いやがらせ? 
ま〜、いいけどね。

二人で、来年のドラマ企画を、あーだこーだと、こねくり回す。

このプロデューサー、小生よりも20歳も若い。

この若者が予想外にガンコ者で、脚本の直しに粘る粘る。去年今年と、なかなか往生した。
もう勘弁してちょうだい。顔見るのもうんざり……って、日もあった。お互いに様でしょうけどね。

で、番組が終わってから、しばらく会っていなかった。

再会の切っ掛けは、通夜だった。
ドラマで乳ガンを取り上げることになり、プロデューサーの知り合いの女性に乳がん治療の経験を取材させてもらった。その女性が亡くなったのだ。

お会いするまでは、「乳ガンを克服された」と聞いていたのだが、彼女は開口一番、「あたし、末期なんです」と言った。
「今は、リンパから骨、肝臓に転移してて、医者には、余命一年て言われてるの」と、笑顔さえ浮かべて話す。

僕は、取材しなくちゃいけないのに言葉をなくした。
意気地なしだ。

一度目の手術のあと、再発。
今度は、乳房を全摘出。
そして、転移。

その間に、経営していた小料理屋を閉めて、恋人と別れて、別の男性と出会い、結婚。

後悔していることは、何にもないけど、
たったひとつだけあるとすれば、最初からもっと深刻に病気のことを考えるべきだったかな、と、淡々と話してくれる。
悲壮感は感じられなかった。

逆に、病気になってよかったと思えるのは、「ガン」という病名を聞いても、ひるまずに一緒に受け止めてくれる男性と出会えたこと。

「病気のことを話した瞬間に、どういう反応をするかで、だいたい相手のことがわかっちゃうのよ、。私、よーく見てるの」
「今の旦那は、チャラチャラした年下のチャラ男だったんだけど、びっくりするほどしっかりしちゃってね」
と、彼女はチャーミングに笑った。

病気を抱えた彼女は幸せそうに見えた。

別れ際、「正直なとこ、頑張って、あと4年だと思う」
と言った彼女。
年下の旦那さんとライブハウスをやりながら、若いミュージシャン達の新しい才能を羽ばたかせようとしていた。

その後、ドラマの打上げにも3次会まで参加されて、「あんなこと言ってたけど、まだまだ元気じゃん」と思ってたのに……。

突然の訃報だった。

お通夜の帰り、久しぶりに飲んだことから、プロデューサーと新しい企画の話が始まった。

彼女のお蔭で、ガンコな若造プロデューサーとの縁が続いている。

いいドラマ作らなくちゃな。



2009年10月8日(木曜日)


今日は、お世話になっている林家時蔵師匠の独演会に行って来た。
時蔵師匠は、僕の書いた新作落語を、東京で初めて高座に掛けて下さった恩人だ。

そこで師匠と、「一両は今の何円か?」という話になった。

これは、一口にはなかなか言えないらしいのだが、
時蔵師匠は、「大体7〜8万円と考えてやってるね」と仰ってました。

一両が8万円とすると、50両は……400万円か……。
「柳田格之進」という噺では、50両のお金を作るために、娘が吉原に身を売ることになる。

そのお金が、約400万円。

高いのか、安いのか……。

ん〜…………。


ま、それは、ちょっと置いておいて。
江戸時代のお金のことを、もうちょっと調べてみた。

まずお金の単位。

1両=4分
1分=4朱
1朱=250文

ということは、1両を8万円とすると、

1分は2万円。
1朱が5千円。
1文は20円。

蕎麦は、「時そば」に出てくるように(上方では「時うどん」ですな)一杯が16文だから、今に換算すると320円ということになる。
「時そば」(「時うどん」)は、たったの20円をちょろまかすために、あんなに色々苦労するんやね。
そう思うと、あの噺がもっと面白くなってくる。

しかし、こんな基本的なことをちゃんと知らなかった。
勉強不足の自分が情けない。
恥ずかしい。

今日も反省の一日だ。



2009年10月9日(金曜日)

今日で5日目か……。
あと2日……。もうヘトヘト。

昨日は、時蔵師匠の独演会からの帰り、電車に乗っていると、知り合いのミュージシャン(サックス奏者です)からお誘いメールが入り、地元でそのままちょっと一杯。(結局、家に着いたのは午前3時になってしまった。反省)

そのサックス奏者がバンマスをしているバンドが、先月、吉祥寺の歴史のようなライブハウスでライブを行った。

故高田渡氏が、よくライブをやっていたお店で、店の奥には、鮎川誠氏のバンドにブルースブラザーズが飛び入りした時の大きな写真が貼られている。
ジョン・ベルーシが痩せていて、ちょっと見ただけでは、ブルースブラザーズとは思えないけど。正真正銘、ジョン・ベルーシとダン・アイクロイド。
この写真を見る度に、あの場に立ち会えたら幸せだったろうなぁと、羨ましくてたまらなくなる。

その、伝説のライブハウスが、10月一杯で、33年の歴史に幕を下ろす。

最近、僕が住んでいる吉祥寺から、老舗といわれるような店が次々に姿を消している。

仕事机のように使っていた喫茶店も、去年の暮れに店を閉めた。
これには参った。
企画を練ったり、ハコを作ったりするのに、不可欠な場所だったのに……。
未だに、ここ以上の仕事机は見つかっていない。

ライブハウスは、店を閉めたあと、ビルが解体され、更地になると聞いた。
街の歴史が消えてなくなる。
淋しいなぁ。

オーナーは、店を畳んだら北海道に帰られるそうだ。
これもなんだか淋しい。

でも、あのたくましいオーナーのことだ。また故郷の地で、新たな人生のスタートを切られることだろう。
グズグズと感傷に浸っているのは、きっと周囲の人間だけなのだ。

そういえば、吉祥寺のお好み焼き屋の有名な偏屈店主は、去年、突然店を閉めて、奄美に行ってしまったと聞いた。(ここのお好み焼きがホントに美味かった)

みんなたくましい。

僕も、四の五の言ってないで、ネコのエサ代稼がなきゃな。



2009年10月10日(土曜日)


午前11時起床。
二日酔い。

と言うのも、昨日、18時から吉祥寺にて制作会社のプロデューサー氏と企画書の打合せ。
が、場所は焼き鳥屋。すぐに打合せか飲み会か分からなくなる。
途中、某大手芸能プロのマネージャー氏が合流。
飲み屋をハシゴすることになる。
最期は、カミさんの店に。
けど、その頃のことは、記憶も曖昧。
困ったことです。

何か、毎日飲み続けてるみたいですが、ホントたまたまなんですよ。
誤解のないように。
別に、誤解されてもえーねんけどね……。

なので、今日は一日、家でおとなしくしていた。
録画してあった「刑事コロンボ 構想の死角」を見る。スピルバーグが監督したヤツだ。

以前にも見たはずだが、意外に、コロンボの推理のツメが甘いので、ちょっとびっくり。

こんなんやったかなぁ……。

阪神タイガース、昨日で終戦。
最後の最後で連敗。
ま〜、阪神らしいわね。
大体、勝率5割もないチームが日本一になる資格があるのか?
と、ちょっと負け惜しみ。
ヤクルトさん頑張って、日本一になっちゃってみて下さい。面白いから。

すみません、何のオチもありません。
考える気力もありません。
今日は、このへんで勘弁してください。

おやすみなさい。
また明日。



2009年10月11日(日曜日)



ようやく最終日です。
一週間、「日記を書かねば」というプレッシャーに潰されそうでした。
今日で開放される。幸せです。

ということで、この写真は、最近よく仕事しながら聞いているCDです。(無理やりだな)

IN THE SPIRIT of OSKAR
全然知らないアーティスト。

スウェーデンのジャズ・ギタリスト、ウルフ・ワケーニウスが、亡くなったオスカー・ピーターソンのジャズスピリットを継承していこうと結成した。と、ライナーには書かれている。

ま、そんなことより、ジャケットだ。
負けました。
一目惚れです。
CD屋の店先で、こいつがボクを放しませんでした。

で……中身を聴いてみると。

いいんですよ、これが。
ジャズのCD(昔はレコード)って、ジャケット買いをしても、ほとんどハズレがない。

ジャケットって、大事だ。CDは見ただけじゃ聞こえてこないから。(当たり前か)

映画やドラマ、小説のタイトルも同じようにとても重要だ。
最近は、「カタカナの入ったタイトルじゃないと当たらない」と、あるプロデューサーが言っていた。
それは本当かどうか分からないけれど、タイトルで“観たい”って思うドラマや映画って確かにある。
「時計仕掛けのオレンジ」
「俺達に明日はない」
「悪い奴ほどよく眠る」
「おくりびと」

「任侠ヘルパー」もいいタイトルだな。

ところが、僕は、自慢じゃないけど、タイトルを考えるのが苦手だ。(自慢なワケないか)
作品に込められた思いを、簡潔に、そしてインパクトたっぷりの言葉で表現するタイトル……と思いのだが、浮かばない。
今も、あるネタのタイトルが浮かばず、もう一週間になる。
困ったもんです。

と言ってると、携帯がルルルと鳴る。
明後日、飲みに行く約束が入る。
先日書いた、33年の歴史に幕を下ろすライブハウスに行くことになった。

店が閉まる前に、もう一度あの名物オーナーと話をしたいと思っていた。
いつも笑顔のオーナーは、ニコニコお酒を飲みながら、きっと僕達に勇気と元気をくれるに違いない。
もし、北海道で店を開いたら行きたいなぁ。

それにしても、結局、また飲むことになってしまった……。
でも、お酒は口実。本当は人と会いたいから出かけていくんです。
なんて……。
いや……逆かも……。

さて、一週間、貴重な時間を割いて駄文にお付き合いをいただいた奇特な方々、本当にありがとうございました。

いやいや、それにしても肩が懲りました。
物書き失格だな〜。


リレー日記TOP