シナリオ講座      一般社団法人シナリオ作家協会


     
    真辺克彦 (シナリオ作家)

  1969年、大阪生まれ。第一回札幌映像セミナーに参加した際、
  オリジナル脚本が脚本家の荒井晴彦氏、長谷川和彦監督から
  高い評価を受ける。
  1995年オリジナルビデオ「ミッドナイトストリート〜湾岸ドリフト族」
  で脚本家デビュー。

  ■映画
  「歓喜の歌」「サイドカーに犬」
  「真救世主伝説 北斗の拳 ラオウ伝 激闘の章」
  「真救世主伝説 北斗の拳 ラオウ伝 殉愛の章」「油断大敵」「少女」
  「スリ」 他
  ■TV
  「新・京都迷宮案内」「アストロ球団」 他


                            


2008年6月23日(月曜日)

夕立くさい雨がやんで晩メシを食いに行く。その前に銭湯に行きたかったが、ひと風呂浴びてズブ濡れになるのはヤなのでやめた。
二十日から神楽坂の旅館で脚本の直しをしている。
今日は脚本家の藤田さんと亡くなった鈴木尚之さんの息子の遊くんが別件で来て一緒に飲んだ。鈴木さんとは家族や親しい友達でもないのに、勝手になんとなく繋がっていると感じている。自分が知らないメシ屋や居酒屋に鈴木さんに連れてってもらいながら、ある時には面倒くせえと思いつつ、もう味わえないいい時間を過ごさせてもらったと三歩で忘れる酉年のオッサンが思い出す。いい年こいて何者でもないテメーでいいと思いながら、そうやないと思いたいセコい自分にとって忘れられない自慢したい時間だった。これからまた飲みに行ってきます。



2008年6月24日(火曜日)

眠い。どこで飲んでいつ帰ってきたのか全く記憶がない。仕事は進まない。足の親指に違和感がある。痛風の前兆だろうか。タバコの箱に折り畳まれた紙が入っていた。開いて見ると丁寧な字で豚女オンラインと書かれ、その横にアドレスもあった。どこで手に入れたかもちろんわからない。太った女かマゾの女か、仕事から逃避したい好奇心が沸き起こる。ネットは繋がるので銭湯に行く前に覗いてみた。『奉仕したい女と奉仕されたい男』奴隷と御主人様の出会い系サイトだった。無料だったので試しに登録した。銭湯の後飲んで帰って来たら、ノッチと名乗る女から返信があった。



2008年6月25日(水曜日)

朝方まで眠れず、仕方なく睡眠薬を飲む。あまり食うと何故か尿が緑色っぽくなるので三錠にする。昼前にすっきり目が覚める。ただ今日もクソの出が悪い。起きてからまだ二回だ。家で仕事をしている時は八回は堅い。口と肛門が直結しているんじゃないかと知り合いによく笑われるが。
ノッチは、パヒュームのノッチに似ているとよく人から言われて名乗っているということだった。
「デンジャラスのノッチじゃないよ」とこっちが書く前に送ってきたのでそれなりに年は食ってるようだ。テレビのドラマがどうだとかあの芸人は終わったとかどうでもいいメールばかり送ってくるので、これは叱ってくれというサインだなと思い「この奴隷め!全裸にしてシベリアに宅配便で送ったろか!」と返信したら、それきりメールは来なくなった。御主人様になるにはまだまだ修行が足りません。



2008年6月26日(木曜日)


午後一時間ほど時間が出来たので散歩がてらに墓参りに行く。志ん生、馬生、志ん朝の親子が水道町の寺の墓地に眠っている。志ん生の月命日は二十一日だから五日も過ぎてていい加減なもんだ。セコなビニール雪駄をペッタラペッタラいわせながら赤城神社を下ればあっという間に江戸川橋。印刷屋が並ぶ町を通り抜け、神田川を渡る。そば屋を右手に行くとうなぎの石ばしがある。生唾がわく。以前この近くに住んでいた時、サラ金から金を借りてふらっと何度か食いに行った。予約しなくても昼遅めに入れば難なくありつけた。運が良けりゃ奥の座敷でゆっくりやれる。スポーツ新聞読みながら酒飲んで鰻巻やらあて食って、もうお腹いっぱいなのに旨いと笑顔になる鰻丼だった。テメーの金で食おうがサラ金の金で食おうが旨いもんは旨いんだと初めて知った。
そのまま真っ直ぐ行った通りを左に行けば環国寺がある。一度その前を通り過ぎて酒屋で菊正宗を買う。「あら久しぶりね」前に来たのは三月だっけか。仏花は買わなかった。志ん生の娘さんというか志ん朝のお姉さんがまだ花を供えたばかりだろうし。墓前に着いたが花もなく少し汚れていた。お姉さんは来てないんだろうか。二年前初めて顔を合わせた際、「弟子も来なくってねえ」とえらく喜んでくれて元々墓参りに誘ってくれた友人と俺に小遣いを渡そうとする。年金暮らしの年寄りから金もらっちゃバチあたんだろうし、その頃はまめに来てたから墓守にさせられちゃかなわねえなと何度も断ったが、あたしの気持ちだからと譲らない。後で中を見たら五千円も入っており、お三方のCDを買うことでこっちも無理やりテメーを納得させた。谷中に住んでるから不忍通りをバスで一本だと思い、「面倒くさくなくていいね」と言ったら「バスは昔っから苦手なのよ」と顔をしかめた。山手線で池袋まで来て地下鉄に乗り換えて江戸川橋まで来るのだという。ヤなもんは楽だろうが何だろうがヤなのだ。背筋がピンとした江戸前の女性だった。
次はちゃんと月命日に行ってみよう。お姉さんに会えるかもしれない。小雨の中、墓石を拭きながら蚊を殺した。盆じゃねえからまあいいかと思ったが、小さな声で泣いたような気がした。



2008年6月27日(金曜日)

頭が痛い。何やろ…。ボーッとしながら前を見たらサラリーマンの四人組が笑っている。「殺せやーッ!」訳がわからぬまま叫んだら四人組は蹴りを入れながら歩き去った。追いかけようとしても動けなかった。携帯を見たら日付が変わっていた。通りを挟んで、鋳物工場で働くオッサンの像が目に入り川口の駅にいるとわかった。蹴られてちょっと酔いが覚めたらしい。旅館のある神楽坂からタクシーで家のある川口まで行き、飲み足りないと駅近くのショットバーに入ったのを思い出した。アハ体験並みに何でこうなったか記憶を探ったら、やけにはっきりと蘇ってきた。「裸にして縛った女の体に口でクチュクチュしたブルーチーズ吐き散らすの。で、おめー本当クセーって言ったら女がめっちゃ喜ぶんだよ」部下らしき若いアンちゃんに、三十代の上司が半笑いで自慢してて、それが頭にきたのだ。カタギでちゃんと生活してるヤツがもうひとつの顔で御主人様をやってることに、嫉妬による理不尽な怒りを向けたのだった。こっ恥ずかしさとそのことを忘れたく近くで飲もうと思ったが、旅館には帰らないと伝えなかったので、最後に帰る客が鍵をかけなきゃと慌ててタクシーに乗り込んだ。「神楽坂?春日部の方ですか」と運転手に聞き返された。気持ちを落ち着けてこれから帰ります。



2008年6月28日(土曜日)


猫と遊ぶ。先に猫が飽きる。襖を開けろと鳴く。もう少し付き合えよ、とも思うが猫に媚びるのも気に食わない。こっちも飽きたという顔で見送る。
猫は一度もこっちを振返ることなく行きやがった。





2008年6月29日(日曜日)

旅館を出る。次こもる予定も決まってるので中抜けみたいなものか。
夕方から飲む。
ガツンとやられた。身体だけじゃなく精神にも贅肉がついてしまった。
今ならまだ落とせるか。

来週からは向井康介さんです。飲み屋で顔を会わすことがあるが、若いのに崩れた姿を見たことがない。見習いたい。オリジナルを書いて勝負しているところも尊敬する。


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