シナリオ講座      一般社団法人シナリオ作家協会


     
    木田紀生 (シナリオ作家)

  1970年、大阪府生まれ。早稲田大学商学部卒業。
  TV番組制作会社勤務、フリーの助監督などを経て、94年脚本デビュー。

  <主な作品>
  【映画】
  「突然炎のごとく」(共作)、「KISS ME」、「けものがれ、俺らの猿と」
  「記憶の音楽−Gb−」、「バトル・ロワイアルU鎮魂歌」(共作)
  「銀のエンゼル」、「ワルボロ」、「激情版エリートヤンキー三郎」など。
  【Vシネマ】
  「新ヤンママトラッカー涙街道・爆走かぐや姫!」(共作)など。


                            


2010年5月10日(月曜日)

ソウルフラワーユニオンの中川敬からライブに出てくれと頼まれて快諾。セットリストを早く決めようぜと勢い込んでスタジオ入りしたが、バカ!お前は一曲だけだと頭を叩かれたところで朝、目が覚めた。

初めまして木田です。この二月に協会員になったばかりです。これから一週間、よろしくお付き合い下さい。

午後二時、電話の前に正座して吉報を待つが、ついにW杯代表の呼び出しはかからず無念。次は四年後を目指すと大学時代の先輩からメールが届くが、僕は秋のドラフトを目指すことにする。

特に予定がなかったので喫茶店で読書しようと家を出る。途中、野良猫数匹と遭遇。遊んでやろうと思いしゃがんでチッチッと声をかけると、こっちにおいでとばかりに尻を向け尻尾を横に振るので、いそいそとついて行こうとしたら、いやあれは昼寝の邪魔だから早く行けと言っておるのだよ、と通りすがりの猫仙人に注意される。
野良猫はたやすく人に心を許したりはしない。飼い慣らされた犬のような君には分からんだろうがね。
説教までされてしまった。これは夢ではない。

夜、今年初めて蚊に刺された。



2010年5月11日(火曜日)

朝から腹痛。知人の部屋中にケチャップをまき散らし、それをせっせと雑巾で拭きまくっている夢を見て目が覚めたのだが、起き抜けにトイレに駆け込みながら、あまりにもひねりのない夢の暗示に朝から情けなくなる。

午後、読んで貰っていたプロットの感想をとあるプロデューサーから聞く。感触はよくない。ここでもまた、もうひとひねりがないと映画にならんよ、と言われてまたまた情けなくなる。

こんな日はなにをやってもうまくいくはずもなく、朝から雨も降っていたし、家で大人しくしているのが一番だったが、エレカシ聞いて喝を入れて映画を観にいく。
町には不快な音があふれていた。野良猫も猫仙人の姿もなかった。
途中、立ち寄ったおしゃれ風カフェの店員も格安居酒屋ばりにうるさくマニュアルを繰り返していた。

映画を観た後、後輩を誘って飲む。昔付き合っていた彼女にお酒飲んでもなにも解決しないよ、と言われたことを思い出す。目が覚めたら三鷹だった。しこたま飲んで終電車に乗り込んだところまでは覚えていた。降り続く雨の中、改札を出て立ち尽くす。武蔵野の森にはトトロが棲むという。だけど僕の心はまっくろくろすけ。自宅は千葉にあるから。ねこバスは迎えに来ない。



2010年5月12日(水曜日)

昨日のうちに胃にあった異物を残らず処分してしまっていたので、軽い頭痛がするだけで思ったより体は元気だった。夢はなにか見たはずだがまったく思い出せない。

午後、やらなければならないことがあるのでやる。少し遅れ気味。気分に流されずやるべきことをゴリゴリ押し進めなくてはならないと、いつものように反省する。

君には厳しさが足りんのだよ、猫仙人の言葉を思い出す。飼い犬はお手をすれば餌が出てくるが、野良猫はそうはいかない。僕にはまだ野生の牙が残っているのだろうか。。

昨日、後輩と合流する前に入った大型書店で、某有名女流作家がサイン会を開いていた。整理券を握りしめて列を作るファンの姿を見て、小説であれブログであれ、単純に自分が書いたものを読んでくれる読者がいるということはとても幸せなことだと思う。

この場を提供して下さった管理人の方々に感謝しつつ、夜、日記を書き、映画を観ながら寝る。



2010年5月13日(木曜日)


朝から少し肌寒いがまずまずの天気。昨夜は寝酒を控えたので体調もいい。汚ねえババアだな〜、ラジオから聞こえてくる毒蝮三太夫の毒舌をBGMに、冷蔵庫のありあわせで朝昼兼用の食事を作って、慎ましく食べる。

午後、某大学の某講義を聴講するために家を出る。現在の日本で流通するオタク系サブカルチャーの分析を通して、社会と物語について考察するという内容だが、ポストモダンにおける「大きな物語の衰退」をもっとも克明に反映しているのは、アニメやマンガ、ライトノベルといったオタク系サブカルチャーの作品や市場だという指摘は興味深く、現在の映画と物語のあり方を考える上でもたいへん参考になる。

終了後、僕をその講義に誘ってくれた大学時代の先輩と反省会と称して飲む。あては絶品のやきとん。彼とはもう二十年来の付き合いで、いまでも毎週のように酒の相手をしてもらっている。
話題は惨敗が予想される岡田ジャパンから松田聖子、普天間基地とマスコミ報道の問題まで一向に尽きない。今夜は自分にトドメを刺すまで飲まないと心に誓っていたが、いつの間にかネットカフェのリクライニングシートで僕は気絶していた。また来週、反省会をしなければならない。



2010年5月14日(金曜日)

ブログ読んだよという電話がいくつかかかってくる。ありがたい。それなりに面白く読んだよという声にホッとしつつも、少しカッコつけ過ぎじゃないのか、というある人からの指摘にハッと我に返る。

以前、どんな暮らしをしているの?と聞かれて、毎日が夏休み、宿題はあるけどね、なんてうそぶいたことがある。痛い。本当のところはままならない現実を前に冷や汗だらだら、必死であがいているのを悟られたくなくて、恥をかきたくなくて自分を取り繕っていただけだった。

夜、お世話になっているプロデューサーを訪問して、映画にならないかと読んでもらっていた小説をピックアップする。僕は本気で、夏休みを返上してでも、いや誰になんと言われようが切実にこの小説を映画にしたいと思っているのだろうか?

帰り道、以前から一度行きたいと思っていた老舗居酒屋の暖簾をひとりでくぐる。だが、ふとカウンターで孤独に浸るかのように飲んでいる自分の姿が滑稽に思えて、カッコつけてる場合じゃないよな、すぐに勘定を済ませて逃げるように店を出た。



2010年5月15日(土曜日)


午後から喫茶店でプロットを書く。僕は飲み屋だけじゃなくて喫茶店のはしごも好きだ。コーヒーの味がいいに越したことはないが、チェーン店を含めて程よい静けさと風通しのいい店がベスト。たまにネットカフェにこもったりもする。しかしなぜ上に昇るわけでもないのにはしごというのだろうか?

あーでもない、こーでもない、悶々とした一日。首を長くしてプロットを待っているだろう監督の顔がちらつく。実際、僕の一日なんてこんな風に地味なもんで、ブログに書いて面白い出来事なんてなかなか起こらない。野良猫にさえ出会わなかった。家に帰ってたまっていたDVDを観て、たまっていた日記を書く。なんだか夏休みの宿題に追われてるみたいだ。



2010年5月16日(日曜日)

顔がテレビの郵便配達人が我が家に線香を届けにきた。怪訝そうに誰の命日かと聞くと、蝶が死んだ日だという。蝶はまるで消えるかのように、誰も知らない場所でその短い生を終えるらしいと以前何かの本で読んだことがある。テレビ画面にはなぜかエスパー伊東が映し出されていた。彼は、僕にもテレポーテーションの能力があるんですよ、と自信ありげにそう告げると、自分でチャンネルを回して画面から消えてしまった、ザー。辺りは砂丘。僕はそこで目を覚ました。

こんにちは木田です。リレー日記最後の日です。毎日更新ができなかったのでこう書くと変ですが、泣いても笑っても最後の日。猫仙人やらトトロやら岡田ジャパンやら下らない夢の話やら、とりとめもない内容になってしまいましたが、とにもかくにも一週間お付き合いありがとうございました。貴重な経験になりました。あらためてこの場を提供して下さった事務局の久松さん、管理人の方々にも感謝いたします。

ところで最近また飛ぶ夢を見るようになった。心理学的にどうとか、夢占いではどうとか言いたいわけではない。地上から飛び上がり重力と風の抵抗を感じながら、知らない街の屋根を越えて、ビルの谷間を抜け、やがて風に乗り、海を越えて、どこまでも遠く、高く空を飛んでいくのは本当に気持ちがいい。その昔、物語は夢を語ることから生まれたというが、僕はこんな風に自由で伸び伸びとした躍動感あふれる物語を生み出したいと思う、けっして現実から目をそらすことなく。

夜、電車に乗ってDVDを返しにいく。今年初めての冷麺を食べた。
そしてソウルフラワーユニオンの荒れ地を聞きながら眠りについた。


リレー日記TOP