シナリオ講座      一般社団法人シナリオ作家協会


     
    井上由美子 (シナリオ作家)

  85年、立命館大学文学部卒業、テレビ東京入社。
  88年、同社を退社。91年「過ぎし日の殺人」でデビュー。
  シナリオ講座第13期研修科修了生。

  ■TV
  「白い巨塔」「GOOD LUCK!!」「14才の母」「マチベン」
  「きらきらひかる」「タブロイド」「パンドラ」「大河ドラマ・北条時宗」
  「連続テレビ小説・ひまわり」他
  ■映画
  「ジャンプ」「MISTY」他
  ■受賞
  向田邦子賞(07)、芸術選奨文部科学大臣賞(07)
  芸術祭放送個人賞(06)、橋田賞(99)
  モンテカルロ国際テレビ祭AMADE賞(93)/他


                            


2008年9月15日(月曜日)

山田耕大さん、お疲れさまでした。
後を引き継いだ井上由美子です。
ほとんど外出することもなく、地味な日常を送っているので、面白い日記など書けそうにありませんが、それもまた脚本家の生活。気負わず書きたいと思います。
一週間よろしくお願いします。

まずは今日の新聞の見出しから。
・「麻生総裁」確実に、自民300票超の公算。
・「70歳以上」2000万人突破、人口の15.8%に。
・全日空システム障害、63便欠航。
・社保庁、年金原本260万件廃棄。
・GM創業100年。

こうして書き出してみると、どのニュースも「数字」が大役を担ってるんですね。
300票、70歳以上、15.8%、260万件…。
脚本家の仕事も、視聴率や観客動員数など「数字」とは無縁でいられません。
普段は「また視聴率の話ぃ?」と辟易することが多いけど、この機会に、あえて「数」にこだわった日記を書いてみたいと思います。時間とか枚数とか値段とか…。
「数えられるもの全てが重要ではなく、また重要なもの全てが数えられるわけではない」って言葉があったけど(アインシュタインだっけ?)、ちょっとは「数字」を客観的に見られるようになるかも知れません。

というわけで、今日の記録です。

6時15分   起床。子供の朝食と弁当づくり。

7時20分   子供が部活に行った後、新聞を読みながら、ひとりで朝ごはん。
         食パン1枚とミニトマト2個とコーヒー1杯とヨーグルト1カップ。

7時50分   ゴミ出し。連休なのに町内のゴミ当番。正直、面倒。

8時00分   テレビのワイドショーをザッピングしながら、台所の後かたづけを
         しながら、洗濯機をまわしながら、掃除機をかける。

8時50分   クリーニング屋さんが来る。1ヶ月分の支払い。4850円なり。

9時05分   パソコンをつける。すぐには原稿を書きたくなくて、メールをチェック。
         仕事のメールが2通来ていたので返信。
         続いて、昨日、大学時代の友人から来ていたメールに返事を書く。
         いわゆる「おひとりさま」の彼女の悩みは老親との関係。
         「同じことで悩んでるよ」と、あんまり慰めにもならないが本音を書く。

10時10分  そんなことをしていたら1時間以上たってしまったので、あわてて
         仕事を開始。
         10月から始まるTBSの連続ドラマ『SCANDAL』の第5話。
         台本7ページぶん書く。
         お昼までに10枚書きたかったけど、全然書けないこともあるから、
         まあまあのペース。

12時45分  NHKの朝ドラの再放送を見ながら昼食。ごはんと昨日の残りもの。
         味噌汁だけはつくって卵を入れた。

13時30分  父の墓があるお寺へ出かける。10月に13回忌なので、その打ち
         合わせ。
         とは言っても、法事に来る人数を知らせるだけ。費用は約7万円
         とか。
         高いのか安いのか相場を知らないのでわからない。
         父は若い頃、造船所で働いていたことがあり、アスベスト被害による
         肺がんで亡くなった。病院探しには苦労したが、当時はアスベスト
         禍なんて取り沙汰されてなかったので、本人は知らないまま逝った。
         治療費やらなんやらを遡って請求できる期間は過ぎており、
         理不尽さを感じる一方、船の進水式が好きだった父は知らない方が
         よかったのかもと思ったりもする。

15時30分  家から歩いて5分の喫茶店で打ち合わせ。今回のドラマは登場人物
         のひとりがブログをやっているという設定で、二人の女性スタッフが
         番組HP用のブログを書いてくれることになっている。
         細かいニュアンスの希望を伝え、後は女同士3人でケーキを
         食べながら雑談。テレビや映画のことなど。

17時10分  帰宅。洗濯物を入れて、犬の散歩。

18時      近所のスーパーで夕食の買い物。
         仕事が忙しいときは煮込み料理に限るってわけで今夜はビーフ
         シチュー。牛スネ肉とにんにくとルーを買って3138円なり。

18時30分  ビーフシチューを煮込みながら、原稿の続きを書く。台本10ページ
         ぶん。
         なんか違うと思う箇所もあるが、もうちょっと書き進めないと何がダメ
         なのかわからないので、ひたすら書いた。

20時40分  家族と夕食。

21時30分  後かたづけをして風呂に入る。

23時00分  缶ビール飲みながら今日書いた原稿のチェック。
         が、途中でこの日記を書かなければいけないことを思い出し、
         あわてて日記を執筆。その日のうちに書かないと忘れてしまうので
         仕方ない。

まもなく零時。今日も終わり。あと少し仕事をしておきたいけど、日記って慣れないので、エネルギーがいりますね。疲れたので、今日はもう閉店して寝ます。おやすみなさい。



2008年9月16日(火曜日)

昨日の分をコピーしてもいいくらいの、代わり映えしない一日ですが……。

6時15分   起床。子供の朝食と弁当づくり。

7時50分   家族が出かけた後、ひとりで朝ごはん。バケット2切れとプルーン
         1個とコーヒー1杯とヨーグルト。
         朝刊が休みなので、ケーブルTVの映画情報を読みながら。

8時30分   テレビのワイドショーをザッピングしながら、掃除洗濯など、いつもの
         家事。
         朝のうちにやってしまわないと、すご〜くイヤになるので、
         とにかく面倒なことは先にやってしまうことにしている。

9時20分   パソコンをつける。いつものようにまずはメールチェック。
         仕事のメールが1通。試写会の誘いが1通。
         出席の返信をして仕事開始。昨日の続きを15枚書く。
         いま、撮影中の連続ドラマの台本は約70ページで1回分なので、
         昨日書いた分と合わせると3分の1を書いた計算。
         だとすると、6日で1本書けることになるが……読み直して全部捨てる
         こともあるので、皮算用は成り立たない。
         脚本家によっては、一度書いたシーンはよほどのことがない限り
         直さない人もいると聞くが、私は書いては捨て、書いては直しの
         タイプ。
         初稿を出すまでの「自分直し」で少なくとも3倍の量は書く。
         効率が悪いなあと思うが、書いてみないとキャラが見えないので
         仕方がないのです。

12時30分  母が来たので、一緒に昼食。
         とは言っても、ごはんと納豆と干物の粗食ですが……。
         私は神戸生まれで、母も60歳になるまで神戸から出たことが
         なかったが、阪神大震災で居場所をなくして上京。
         以来、近くにアパートを借りて住んでおり、こうして、しょっちゅうやって
         来ては一緒に食事する。
         昔はよく喧嘩をしたが、最近は全くしなくなった。
         年をとったんでしょうね、お互いに。

13時30分  仕事再開。が、法律関係の描写で調べものの必要が出てきたので、
         知り合いの弁護士に電話。返事を待つのを言い訳にDVDを見る。
         映画『ダージリン急行』。

15時40分  弁護士さんから電話。お礼を言って、仕事再開。
         イマイチ乗れないが、3枚書く。

17時30分  洗濯物を入れて、犬の散歩。

18時30分  近所のスーパーで夕食の買い物。4380円なり。
         今夜はエビフライとポテトサラダとししゃも。子供がいるので、
         どうしても定番になってしまうのです。

19時      料理。

20時10分  家族と夕食。

21時30分  後かたづけをして風呂に入る。

23時00分  今日書いた原稿のチェック。をしようと思ったが、
         なんとなく今夜は自分の書いた文章を読みたくない気分。
         そんな日もある。というか実はよくある。よって、日記を執筆。

今日もまた一日が終わる。
この日記を書いて、実に変化に乏しい毎日を送っていることを再確認。
でも、変化はシナリオで見せればいいんだと、ベタに自分を慰めてみる。
とりあえず、これにて閉店。おやすみなさい。



2008年9月17日(水曜日)

締め切りが今週末なので、焦ってきました。
なので、今日は簡単に。

夕方まではいつもの生活。朝は6時過ぎに起きて、弁当つくって、家事をして、仕事をして、昼ごはん食べて、また仕事。
今日は40ページ書いたので、ラストシーンを書けば出来上がり。
でも、なぜかラストシーンの台詞が出てこない。
こういうときは、どこかうまくいってないところがあるのですが……。
会食の約束があるので、読み直すのは明日にして外出の支度。
家で書いているときは鶴の恩返し状態なので(とても人様には見せられない姿ってことです)、一応、簡単な化粧と着替え。

夜7時から広尾の「雲母」という店で会食。
次に書く予定のスペシャルドラマの局プロ・Hさんと制作会社のIさん、Aさん、それに監督のAさん。
監督とは初めての顔合わせなので、ちょっと緊張したが、気さくな方で酒席は盛り上がった。もちろん仕事以外の話で。
最近はお酒を飲まないスタッフが多いけど、今日のメンバーは珍しく全員が酒好き。
ビールから始まり、5人でワイン6本あけて、Hさんはつぶれてました。
何時に帰ったのかは覚えていません。
とりあえず、明日また頑張ります。



2008年9月18日(木曜日)


ますます時間がなくなってきました。
なので、ますます簡単でお許しください。

終日、自宅で定番の生活。家事と仕事。仕事と家事。
昨日までに書いた原稿を読み直し、前半のエピソードが主人公のキャラクターを守りすぎていることを発見。
もう少しこわさなきゃ……とエピソードの変更を決意。
前半40枚を捨てて書き直し。

登場人物のキャラクターには一貫性が必要で、ホンの打ち合わせでも、「○○子はこんな行動はしない人間だ」「××男は、こんな台詞を言う奴じゃない」という会話がよく出てくる。
だが、一貫性にこだわりすぎると、人間としておもしろみがなくなってしまうのも事実。
「こんな行動をしない」ことをやってしまう瞬間や、「こんな台詞を言わない」言葉を吐く瞬間を描くのもドラマだ。
そもそも、実際に生きている人間って、ほとんど一貫性がないのだから。
でも、そんな劇的な瞬間を描くには、それまでの人物描写がしっかりと出来ていなくてはならない。
そう考えると、さかのぼって直したいところがいっぱい出てきてしまって……。
明日も定番の生活から抜け出せそうにありません。



2008年9月19日(金曜日)

午前中はいつものように家事と雑用と仕事。
連ドラの次回のハコを考えながら、昨日の続きの原稿を書く。5枚。

12:30 広尾のレストラン「ノビルデューカ」でランチ会食。
今度、書く予定の映画の打ち合わせ。
制作会社のプロデューサー・YさんとKさん、そして、S監督。

何年も前からやりたかったオリジナルの企画がやっと通り、俳優さんやスタッフから信頼の厚いS監督が撮ってくれることが決まったので、とてもうれしい。
いま、映画はなかなかオリジナルの企画が通らない。
カリスマ監督が脚本監督を手がける場合は別だが、結果の読みにくいオリジナルでは、お金が集まらないのだとか。
だから、けっこう苦労しました。
企画書もプロットも何度も書き直し、あきらめずに持ち込んで……。
断られるのは疲れますが、拾う神もあるんじゃないかと希望を抱いていたら……いました、拾う神。

このブログを読んでいるのは講座の生徒さんだそうなので、最初は捨てる神ばっかりかも知れませんが、信じてみるべしです、拾う神。
まあ、無闇に目をキラキラさせて信じるだけじゃダメですけどね。
書かないと。とにかく書かないと。

「しょうもない仕事なら、やらない方がマシ」とか「作家として誇りをもてる仕事だけをやれ」という考え方もあります。
すごく正しいです。
でも、しょうもない仕事かどうか、誇りをもてるかどうかは、やってみないとわからない、とくに新人のうちは……というのが私の考えです。
自分自身が講座に行っていた頃やプロットライターをしていた頃を振り返ると、痛い目にあって見えたものが大きいので……。

というわけで会食から帰って書きました。30枚。
とりあえず、今回のラストシーンはちょっと見えました。



2008年9月20日(土曜日)


10:00 いつもの家事と雑用を終えた後、昨日、届いた連続ドラマ第1話の完パケを拝見。
どんなドラマもそうだが、台本のイメージそのままのところもあれば、「えっ!」と驚くシーンもある。
同じ「ありがとう」という台詞でも、役者さんの言い方、カメラの位置、照明のあてかた、音楽の入り方で全く違って見えるから。
監督に対して、「やられた!」と思うこともあれば、「なにこれ!」と怒りを禁じえないことも当然ある。
でも、これがシナリオ書きという仕事の醍醐味。
ひとりでつくれない厳しさであり、だからこそのおもしろさでもある。

完パケを見た後、監督やプロデューサーに感想の電話。
おもしろいと思ったところはもちろん、「ここはアレンジを変えたほうがいいのでは?」と感じたところも率直に伝える。
今回の監督は以前にもご一緒したことがあり、演出の腕についても人間についても信頼している方なので、こちらの気持ちがそのまま伝わる。ありがたい。
監督によっては、ちょっと意見を言っただけで「どこが最低なんだ!」と超曲解して激怒する方もいるのです。
それでも言いたいことは言いますが……。

12:40 母が来たので、一緒に昼食。先週つくって冷凍しておいたカレーとセロリのサラダ。

13:30 夕方から雨が降るとの天気予報を聞き、早めに犬の散歩。
日中はほぼパソコンの前から離れない私にとって、犬の散歩は唯一の運動。
緑道で散歩仲間から、近所にいるホワイト学割のお父さんそっくりの犬が脱走した事件について聞く。

14:20 仕事。昨日までに書いたところを読んで直し、読んで直し、ようやく三分の二まで完成。
ほんとは今日が締め切りだったが、プロデューサーにメールして「明日にして下さい」と頼む。「了解です。頑張ってください」と返信。
ほっ。

19:00 銀座の「くろがね」で友人の作家と食事。
彼女は蜂谷涼さんという小樽在住の時代小説家で、シナリオ講座13期研修科の同期生。私とは同い年。
講座を修了した後、私はそのままシナリオの道に進んだが、蜂谷さんは小説の道をめざし、ある文学賞で最終選考に残った後、10年くらい前に小説家としてデビューした。
北海道を舞台にした明治・大正の時代小説にこだわって書き続けており、秋には著作の初舞台化も決まっている。
(劇団文化座講演「てけれっつのぱ」10/16〜26 於:俳優座劇場)
 
シナリオ講座にいた時から、彼女はとにかく書くのが好きで、基礎科では毎週、違うプロットを提出していたくらい。
当時は「とてもかなわない……!」と、コンプレックスを感じていたが、なぜかウマが合い、彼女が北海道から出て来た折には、こうして食事をしている。
そんな付き合いも18年……書く世界も好きなものも全く違うが、彼女が必死に書く姿に刺激されて、続けてこられた部分もある。たぶんお互いに。
講座で何を学ぶかについては色々な考えがあると思うが……やっぱり「出会い」なんじゃないかと私は思います。



2008年9月21日(日曜日)

日曜だけど、子供が出かけるのでいつも通り起床。朝食をつくっていたらグラッ。
地震。かなり揺れた気がしたが、震度3とのことでした。

ひとりで朝食を食べ、掃除洗濯などをして、犬の散歩へ。
締め切りを延ばしてもらったので、早く家事をすませて原稿を書かなければと思いつつ、いつもよりゆっくり散歩。
昨日、脱走したと聞いた近所の犬(ホワイト学割父さんそっくり犬)が戻ってきたと聞く。よその犬だが、心底ホッ。

よくシナリオ講座の生徒から聞かれる質問に、「主婦でも仕事ができるでしょうか?」
「会社を辞めなくても、シナリオの勉強はできるでしょうか?」の二つがある。
答はもちろんイエス。
時間には限りがあるけれど、その濃さは一定じゃない。
一日じゅう原稿用紙やパソコンに向かってなくても、いくらでもシナリオは書けると思う。
それに、生活を実感しているから書けることもある。
会社で感じたことや、日々の家事で心動かされたことが、あなたの台詞をつくってもいるのだから。
かくいう私も講座にいたときは派遣社員だったし、今も一日の半分は、どっぷり主婦です。
なんとかなるものなので安心して勉強して下さい。

午後 お彼岸なので、昨年亡くなられた斉藤良輔先生と、一昨年亡くなられた舟橋和郎先生のお宅にお供えを届ける。
お二人とも講座で教えていただいた上、デビューしてからもいろいろお世話になった。

斉藤先生は「へそがないなぁ」とよくおっしゃった。
新人にありがちな、何がやりたいかわからないシナリオじゃダメだと戒めてくれた。

舟橋先生には「転がってない」とよく言われた。
これまた新人にありがちな、ひとりよがりに停滞する展開を戒めてくれた。

どちらもシナリオには必ず「観客」という存在がいることを教えてくれた。
それが社会派映画であっても、恋愛ドラマであっても。
講座にいたときは生意気にも「そうかなあ」と疑問を抱くこともあったが、プロになって何年もたった今になって、いかに深いことをおっしゃっていたかに気づくことがある。
もうお会いすることは出来ないが、いただいた数々の言葉を忘れずにいたい。

とはいえ、いざ書く段になると、なかなかうまくいかないわけで……。
結局は一日延ばしてもらった締め切りをもう一日延ばしてもらうことに。
あと5枚ほどなんですが、連続ドラマの場合、次とのつながりを考えなければならないので、ラストシーンが意外に難しいのです。
この日記を始めた月曜日に書き始めたので、最終日には仕上げたかったのですが、そうキレイにはいかないものですね。

明日からは、田部俊行さんがご担当されます。
これまでお話する機会はありませんでしたが、脚本を書かれた「半落ち」はもちろん拝見しました。
連続ドラマが終わったばかりでお疲れかも知れませんが、どうぞよろしくお願いします。


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